2018年夏に発覚したスズキの排ガス・燃費の検査不正は、ブレーキなど安全性能にかかわる検査データの改竄や無資格検査に広がり、組織的な隠蔽に加え、検査で不合格にすべき自動車を合格にしていたことが次々と明らかになった。悪質な不正の数々が表面化したことでブランドイメージの悪化は避けられず、鈴木修会長の長期政権の経営責任が厳しく問われそうだ。
日産自動車やSUBARU(スバル)で発覚した不正に比べてスズキの悪質性が高いのは、国土交通省の調べに対して無資格検査は「なかった」と説明していたからだ。国内3工場で無資格検査を隠蔽。不正の証拠となる資料を破棄し、検査員になるための試験中に試験官が解答を教えていたことも判明した。
安全に直結するブレーキの性能検査では、不合格の自動車を検査員が「これぐらいならいいだろう」と、合格にしていた。日産やスバルでは、ここまで悪質な不正は確認されていない。不正の蔓延は深刻で、企業風土の改革は容易ではない。
「スズキイズムの誤った理解があった」――。4月12日の記者会見で、検査不正に関する外部調査の内容を公表した鈴木俊宏社長はこう釈明した。
長島・大野・常松法律事務所による調査報告書は、工場の効率的な稼働を目指す「スズキ生産方式」が、完成車検査は必要ないとの誤った認識を植え付けていたと、厳しく指摘した。
鈴木会長は4月12日の記者会見に出席せず「責任の重大さを痛感している。当社が急成長したため、人材の教育・育成が追いつかなかったことを反省している」とコメントを発表しただけだ。記者会見した鈴木社長は「状況を立て直すのが私の役割だ」と述べ、続投する意向を示した。「今後、役員報酬の減額を検討する」としただけで、経営責任には言及していない。
新たな不正が発覚したため、国内向けの29車種、202万1590台のリコール(回収・無償修理)に追い込まれ、関連費用として19年3月期連結決算に813億円の特別損失を計上した。1回のリコール届け出台数としては過去最多である。委託生産している日産、マツダ、三菱自動車の3社の計12車種も含まれる。再発防止のため、今後5年間で老朽設備の更新や検査要員の増強などに1700億円を投じ、新たに検査本部を設置する。
調査報告書は「端的にはスズキの完成検査業務の重要性に対する自覚の乏しさが主要な要因」と厳しく断じた。一連の不正行為の背景に、「少人(しょうじん)」と呼ばれるスズキ独自の人員削減策があったという。