2月24日、ロシアがウクライナに侵攻を開始した。ロシアが米欧の経済制裁を逃れるため暗号資産(仮想通貨)の買い入れが急増するとの思惑からビットコイン(単位:BTC)が急騰した。
ビットコインは2月28日夜までは1BTCあたり3万8000ドル(440万円)台で推移していたが、3月2日、4万5000ドル(520万円)まで上昇した。1週間前から、およそ2割値上がりした。ビットコインに限らず、イーサリアムは13%上昇し、ほかの暗号資産も軒並み大幅高となった。
米経済専門誌「Forbes JAPAN」(3月2日付)は、ビットコイン急騰し時価総額がロシアの通貨ルーブルを上回るとして次のように報じた。
「今回のビットコインの価値の急上昇は、ロシアのルーブルの暴落と同時に起きている。CoinMarketCapのデータによると、1日時点でビットコインの時価総額は約8200億ドルで、ロシアのルーブルの時価総額の6380億ドルを上回っている」
欧米は2月26日、ロシア中央銀行との取引を禁止し、国際決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの大手銀行7行を排除することで合意した。ロシアと西側諸国のお金の流れが遮断され、制裁の影響を受けない暗号資産を介した決済の動きが強まっている。金融制裁でルーブルは事実上、外貨と交換できなくなっている。影響が及ばない仮想通貨に資金が向かった。ルーブルの暴落で、ロシアの投資家が危機から身を守ろうとしたことによる、新しい資金の流れとみることができよう。
ウクライナは人口の13%が暗号資産を保有している
もともと暗号資産の取引が盛んなことで知られるウクライナ固有の事情や、ウクライナ政府によるロシアへの金融対抗策が関係しているとの指摘もある。日本経済新聞(3月2日付夕刊)の『ウォール街ラウンドアップ』は次のように報じた。
「ウクライナはここ数年、仮想通貨産業を推進してきた。ブロックチェーン分析のチェーンアリシスによると2021年時点の世界の仮想通貨普及率で、ウクライナはベトナム、インド、パキスタンに次ぐ4位となった。(中略)その結果、今回の危機でウクライナは『仮想通貨フレンドリー』な国として恩恵を受けることになった」
暗号資産の保有者はウクライナ人口の約13%に及び、世界で最も高いとされている。「マイニング」と呼ばれる、暗号資産の取引記録を検証する作業を通じて対価を得る行為が盛んなためだ。原子力発電が電力構成の半分超を占める同国では電力価格が安く、マイニングに欠かせない大量の電力を安価に調達できたという事情もあるようだ。
その原子力発電所がロシアの攻撃を受け、占拠された。ウクライナにおける戦闘が激化するなか、世界は紛争下で初めて仮想通貨を武器として活用している。ウクライナは暗号資産で防衛資金を集め、西側諸国はロシアに対する仮想通貨制裁の可能性を検討中だ。
サイバー攻撃などによって奪われた仮想通貨が制裁逃れに使われる可能性を懸念する声もある。欧米政府は制裁の抜け穴になるとして交換所に売買の制限を要請しているが、受け付けない交換所も多いようだ。大手交換所は制裁対象者の利用を停止するだけにとどめている。ロシアによるウクライナ侵攻によって、仮想通貨が有効な兵器となり得ることが世界で認識された。
中国が運用する人民元の国際銀行間決済システム
ロシアはSWIFTに対抗するため、中国の中央銀行である中国人民銀行が2015年に導入した人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)を、重要な迂回ルートとして使うのではないかという見方が浮上している。CIPSは人民元建ての投資や貿易決済を促進するために導入された。中国はロシアのウクライナ侵攻に関しても、ロシア寄りの姿勢を見せていることから、こうした見方が出ている。
もし、ロシアが国際金融決済の迂回ルートとしてCIPSを積極的に使えば、人民元の国際化が進むという側面は確かにある。しかし、CIPS側が被るデメリットも大きいはずだ。CIPSは22年1月末現在、103カ国・地域が参加し、専用の口座を持っている。ただ、処理件数はSWIFTの1日平均4200万件(21年の実績)に比べて極端に少ない。CIPSは同1万3000件前後といわれている。従って実際にSWIFTの迂回ルートになるかどうかは現時点では不明だ。
(文=Business Journal編集部)