SCEは12年10月に2号機の再稼働を米原子力規制委員会に申請したが、カリフォルニア州の地元住民や環境団体が再稼働の申請に反発、再稼働計画は暗礁に乗り上げ、13年6月7日に「2号機と3号機を廃炉にする方針」を示した。再稼働できるかどうかわからない宙ぶらりんの状態では、投資家も納得しないと判断したわけだ。
6月の時点でSCEの親会社は、「検査や補修などの費用」として三菱重工に1億3900万ドル(約140億円)を請求している。さらに7月18日、SCEのロン・リッチンガー社長は「全面的な損害賠償を求める」という声明を出した。
一方、三菱重工は「賠償責任の上限額は契約で明記された1億3700万ドル(約138億円)と決まっている」としている。この金額は今後の決算に損失として計上されることになっている。しかし、エジソン社は「欠陥があまりに基本的かつ広範な場合、賠償責任の上限は無効」と主張する。
米メディアによると、原発の停止に伴う代替燃料費や、発電できないままになっている原発の維持費用などは数十億ドルに上るという。さらに廃炉に伴う経費の賠償を求めるとすると、天文学的な数字になる。日本の原子力プラントメーカーの技術者は「請求額がどこまで膨らむか想像もつかない」と語る。廃炉の経費の中には不要となったウラン燃料のコストも含まれることになりそうだ。
三菱重工は「米原子力規制委員会はサンオノフレ原発の再稼働の是非について結論を出していない。廃炉はSCEが経済性などを考慮して(独自に)決めたもの」と反論する。「SCEが自主的な判断で廃炉を決めたのだから、それを賠償額に反映させることはできない(無理がある)」との立場を取る。
三菱重工とSCEは今後、賠償額について具体的な協議に入るが、難航は必至だ。訴訟に発展する可能性が高い。
●今後の米国市場におけるビジネスにも影響
三菱重工は仏アレバと連合を組み、米国で原発の受注やメンテナンスを手掛ける計画だ。SCEとの紛争が泥沼化すれば、米国市場で原発ビジネスは事実上できなくなる。廃炉に至る責任が三菱重工にどこまであるかが、今後の争点となるだろう。三菱重工としては契約上の賠償の上限を基本線として、早期に解決したいところだ。
日本国内での原発の新設は見込めない。東芝-WH(ウェスチングハウス)、日立製作所(ゼネラル・エレトリック)-GE、三菱重工-アレバの海外市場における受注合戦は激しさを増している。
原子炉本体ではない蒸気発生器のトラブルでこれだけの賠償リスクが発生することに、原発メーカーは驚きを隠さない。「欧米の先進国への輸出は契約がはっきりしていて賠償の範囲もきちんと決められているはず」というこれまでの常識が、SCEの巨額賠償の提起で、完全に覆ろうとしている。
だが、いつまでも想定外のリスクとは言ってはいられない。商慣習や法制度の違う外国での原発トラブルをどう乗り切っていくのか。今後の日本の原発ビジネスを占う意味でも、SCEと三菱重工の紛争の行方に注目が集まっている。
(文=編集部)