その後、日本企業は円高圧力などを回避するために台湾への技術供与も進めた。この結果、日本のエレクトロニクス産業の凋落とは対照的に、韓国、台湾の半導体・液晶パネルのシェアが急速に拡大した。
こうしたなか、日本企業はかつての成功体験に浸り、ディスプレイなどの研究開発から生産までを自社内で行うことにこだわった。一方、台湾メーカーなどは低コストを武器にして、受託生産などのビジネスモデルを構築し成長した。さらには、中国のディスプレイメーカーの台頭も加わり、価格競争に拍車がかかっている。
行き詰まる“日の丸液晶”
この状況に対応することを念頭に、JDIは政府主導で設立された。ただ、大企業のディスプレイ事業を統合し日本の液晶産業の覇権強化を目指す“日の丸液晶”の発想は、想定された通りの効果を発揮できていない。
2012年にJDIは旧産業革新機構の主導によってソニー・東芝・日立製作所のディスプレイ事業を統合して発足した。この背景には、政府の危機感があった。海外企業が台頭し日本企業の存在感が低下するなかで、政府は官民ファンドの下に国内の液晶技術を束ね、産業を守ろうとした。ただ、経営統合という判断が、日本の経営風土を重視した上での決断だったかはよく考えなければならない。理論的に考えると、異なる組織を統合する意義は、経営資源の効率的な配分に加え、テクノロジー開発などに関する議論を活発化させてイノベーションを目指すことにある。
一方、日本企業は、社内の調和を重視してきた。それが、日本企業の“経営風土”だ。各企業の従業員の多くが、新卒でその企業に入社し、年功序列の考えに基づいて昇進や昇給を重ねてきた。加えて、各企業の人事管理も異なる。企業固有の経営風土にどっぷりと漬かってきた人々が、新しく経営統合された一つの組織の中で生き生きと活躍することは容易ではない。加えて、国策企業であるために、意思決定も遅い。
2013年度の最終損益が黒字になった以外、JDIの通期決算は赤字続きだ。事態はかなり深刻だ。同社は台湾と中国の企業連合と資本業務提携を結ぼうとしたが、5月に入っても台中勢は姿勢を明確にできなかった。それだけ、JDIへの出資にはリスクがある。
5月下旬、状況を憂慮したINCJは有機ELパネルの生産を手掛けるJOLEDの株式受け取りと引き換えにJDIへの債権を相殺することを決めた(代物弁済)。加えて、重要顧客である米アップルも債務返済の猶予を認めた。これによりJDIは台中企業連合からの出資に望みをつなぎはしたものの、同社の経営内容は依然として楽観できない。