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アジア最大のコーヒーイベント「SCAJ」…コロナ前より3割増客、なぜ対面訴求に注力?

文=高井 尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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アジア最大のコーヒーイベント「SCAJ」…コロナ前より3割増客
コロナ前より来場客が大幅に増え、若い客層も多かった

 10月12~14日、東京都江東区にある東京ビッグサイトで「SCAJ 2022」が開催された。「コーヒーに特化したイベントとしてアジア最大の国際見本市」をうたう。

 SCAJ とは「Specialty Coffee Association of Japan」の略称。同イベントも業界団体の日本スペシャルティコーヒー協会が主催する。

 コロナ禍で2020年は中止、2021年は規模を縮小して開催されたので、本格開催はコロナ前の2019年以来3年ぶりとなった。筆者も3年ぶりに現地に足を運び、各ブースやイベントを視察した。その内容をリポートしたい。

3日間で約4万4000人が来場

 まずは数字から紹介しよう。同協会が発表した「SCAJ2022来場者数報告」によれば、今回の来場者数は開催3日間で「4万4052名」、コロナ前2019年の「3万3978名」に比べて約130%の大幅増となった。

■「SCAJ2022」来場者数と過去の比較
2022年の期日(来場者数/天候) <2021年、2019年の来場者数>
(1日目)10月12日(水) 1万5819名/曇り <7029名、1万1660名>
(2日目)10月13日(木) 1万5901名/雨 <6450名、1万2774名>
(3日目)10月14日(金) 1万2332名/曇り <5859名、9544名>
合計 4万4052名 <1万9338名、3万3978名>
(出所:日本スペシャルティコーヒー協会の発表資料を基に筆者作成)

 来場者数がもっとも多い2日目は、後述する「JBC」(ジャパンバリスタチャンピオンシップ)など人気競技会やイベントが会場内で開催され、それを目当てに足を運ぶ人が増える。今回の2日目は雨模様だったが、予想以上に客足は伸びた。

 来場客数の合計が増えたのは、運営事務局がSNSやYouTubeなどで事前告知を積極的に行った効果が出たようだ。また、コロナ禍で出展者が新商品・新サービスの発表機会を失い、なかなか出展できなかった“渇望感”もあっただろう。出展申し込みも多く、会場のキャパシティの関係で途中から断った、という話も聞いた。

「年に数回、興味のある展示会を視察します。大半の展示会は、出展者も来場者もモノトーンのスーツ姿が多いですが、SCAJは若い方も多くカジュアル姿が目立ち、会場内も色鮮やかな印象を受けました」

 会場を訪れた30代の男性会社員は、こう話していた。この後は、個別の事例を紹介しながら考えていきたい。

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ミャンマーやエチオピアなど海外からの出展も目立った

「びっくりドンキー」のアレフが新ブランドで出店

 会場内には、UCC上島珈琲のような大手企業から個人系まで、さまざまな企業・団体や店がブースを出展していた。日本だけでなく海外からの出展も目立つ。主催者側が掲げる「コーヒー抽出の最新鋭マシンからバラエティ豊かな関連商品まで」を裏づける展示内容だった。

 今回、筆者が注目したのは「タップルート コーヒー ロースターズ」(TAPROOT coffee roasters)という小さなブースだった。今回が初出展だという。

 なじみのない名前だが、全国でハンバーグレストラン「びっくりドンキー」を運営する株式会社アレフ(本社:北海道札幌市)の新ブランドだ。今年8月1日にECサイトを立ち上げ、まずは通販からスタート。コーヒー通に向けて販売を始めている。

「当社の創業者で、びっくりドンキーを立ち上げた先代社長の庄司昭夫が、もともとコーヒーへの思い入れが強い人でした。そうしたDNAもあり、2002年に自社焙煎のアレフローストファクトリーを創設。以来、高品質なスペシャルティコーヒーにこだわってきました。今年、工場操業20年を迎えたのを機に、新たなブランドを立ち上げたのです」

 事業の責任者である田中健太さん(アレフローストファクトリー工場長/タップルートコーヒーロースターズマネージャー)は、こう話す。同工場では、これまで1日300~600kgのコーヒー豆を焙煎し、自社グループのレストラン向けに供給してきた。新たに通販向けを別工程で製造し、需要に応じて生産能力を高めていくという。

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札幌市にある「アレフコーヒーファクトリー」での焙煎の様子(提供=アレフ)

ECだけでなく、カフェ開業も目指したい

 今回の新ブランドの特徴は何か。

「生産者から直接仕入れた新鮮な生豆を、丁寧に焙煎しています。同じ農園でも、豆の特性を生かして『ライトロースト/ダークロースト』の2種類で焙煎を行います」(同)

 現在手がける豆はエチオピア、グアテマラ産で、まもなくペルー産が入港予定。北海道・苫小牧港に入港した豆を運び、札幌市内の自社工場で焙煎するほか、生豆も販売する。

「販売中の商品は、焙煎豆が100g830円から、『のみくらべセット』(100g×2)が1440円から揃えています。飲みくらべセットは、浅煎りと深煎りの焙煎の違いを楽しめるものです。また、生豆は500g1210円からあります」

 SCAJに出展した感想も聞いてみた。

「試飲コーヒーを提供し、さまざまな来場者の感想を対面で聞ける貴重な機会でした。また、競合のブースも多く、会場内の熱気からも刺激を受けました。今後はイベント出展にも力を入れて、カフェ開業も目指していきます」

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「タップルート コーヒー ロースターズ」で販売されるコーヒー豆(提供=アレフ)

 海外駐在経験もある食品メーカーの社員(30代)は、こんな感想を持ったという。

「東南アジアで開催された日本酒の展示会に出席した時、日本の酒蔵と地元の飲食店がフラットな関係で、国内の一般的な展示会で目立つ『商談する側/される側』という印象ではありませんでした。今回のSCAJも似た雰囲気で、国内も海外も出展者がカジュアルに話しかけてくださり、ブースに立ち寄りやすかったのが印象的でした」

 扱う商材が「コーヒー関連」という身近さもあったのだろう。

バリスタ競技会「JBC」は今回も大盛況

 会場内の多彩なイベントのなかで、もっとも注目されたのが「JBC(ジャパンバリスタチャンピオンシップ)の準決勝・決勝」(10月12~13日)だ。コーヒー技術者であるバリスタの国内選手権で予選を勝ち抜いたバリスタが、エスプレッソコーヒーを審査員に提供した。

 決勝は制限時間15分のなかで「エスプレッソ」「ミルクビバレッジ」「シグネチャービバレッジ」の3種類の創意工夫したドリンクを淹れて、プレゼンテーションしながら各4杯を目の前に座る審査員に提供する。コーヒーの味覚だけでなく、提供するまでの一連の作業や動作を、清潔感、創造性、技術、プレゼンテーション面から審査されるのだ。

 毎回、観客も多く、イスも用意されているが多くの客は立ち見となる。筆者と一緒に観戦した広報関係者(40代)も、その盛況ぶりに驚いていた。人気バリスタはファンも多いようで、過去の大会ではそのバリスタの競技が終了すると、観客が次々に席を立ち、イスが空いたという現象も見られた。

 予選・準決勝を勝ち抜き、ファイナリスト(決勝進出者)となった6人を別表に掲げたが、茨城県に本店があるサザコーヒーの社員が2人いた。ただし頂点は取れず、Unir(ウニール)の内部利夫バリスタが初優勝した。Unirも毎年上位進出者を出す強豪店だ。

■「JBC2022」決勝の結果

順位 氏名 所属
優勝 内部 利夫 バリスタ Unir 阪急うめだ店
第2位 安 優希 バリスタ サザコーヒー 勝田駅前店
第3位 本間 啓介 バリスタ サザコーヒー 本店
第4位 西脇 章太郎 バリスタ Nem  Coffee&Expresso
第5位 伊藤 大貴 バリスタ 猿田彦珈琲 The Bridge原宿駅店
第6位 石川 蒼 バリスタ STANDARD COFFEE LAB
(出所:SCAJバリスタ委員会の発表資料を基に筆者作成)

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立ち見で観戦するお客が多かった「JBC決勝」の様子
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競技会場入口には「決勝タイムテーブル」で、各バリスタの競技時間が告知されていた。

「ドリップコーヒー離れ」も言われるが、接点を増やす

 今回は「スペシャルティコーヒーに特化」した展示会で、出展者の多くは「BtoB」(企業対企業)での売り上げが多い。「BtoC」(企業対消費者)もあるが、たとえばコーヒー豆の「卸」と「小売り」では、前者の販売量がケタ違いとなるからだ。

 一方の来場者には、コーヒーに興味を持つ一般人が多い。出展者が一般消費者とフレンドリーに向き合うのは、「接点を増やす」(この機会に知ってほしい)思いもあるだろう。

 最近は「喫茶店でドリップコーヒーを頼む若者が減った」「若者に限らず中年も、昔ほどドリップコーヒーを注文しない」という話をよく聞く。

 日本のコーヒー輸入量はコロナ禍でもさほど落ちていないが、飲まれ方は変わってきた。もともと圧倒的だった「イエナカ消費」がさらに進み、多くの企業では、コロナ禍でコーヒー豆の通販が伸びた。取り寄せて自宅で飲む機会がさらに増えたのだ。

 それでも、出展者はECだけでなく対面を重視する。お客の表情や笑顔から感触がわかり、実店舗への評価が、ECサイトのコーヒー豆販売につながるからだ。店同士は競合しつつ、今回の展示会のように業界全体では共存共栄を図る姿勢も大切だろう。

(文=高井 尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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