ラピダスが2nm半導体を量産できない根本的理由…サッカー日本代表との致命的な違い
アルゼンチンの優勝で幕を閉じたサッカーワールドカップ
12月19日0時(日本時間)に行われたサッカーワールドカップ・カタール大会の決勝戦は、3対3の同点でPK戦にもつれ込み、アルゼンチンがフランスを下して36年ぶりの優勝を果たした。そのゲームは、アルゼンチンがエースで主将のメッシの活躍で先制すると、フランスが若きストライカーのエムバぺのスーパーゴールで追いつくという、手に汗を握るスリリングな展開だった。まさに歴史に残る名勝負であり、見るものを感動させた死闘だったと思う。
一方、我が日本代表は、「死の組」といわれたEグループで、優勝候補の一角のドイツとスペインをいずれも逆転の2-1で下すジャイアントキリングをやってのけた。そのEグループをトップで通過した日本代表は、決勝トーナメント1回戦で前回大会準優勝国のクロアチアとPK戦にもつれ込む激戦に敗れはしたが、その戦いぶりは世界に衝撃を与えた。
日本代表がグループリーグを突破したのは、2002年の日韓大会、2010年の南アフリカ大会、2018年のロシア大会に続いて今回が4回目である。いずれも決勝トーナメント1回戦で敗退となったが、今までのどの大会よりも、今回の日本代表は輝き、未来への可能性を示してくれたように思う。
日本代表に足りないものは何か
しかし、アルゼンチンとフランスの決勝戦を見た後に思うことは、日本代表がこの舞台に立つのは、まだ早過ぎるということである。一回りも二回りも三回りも成長しなければ、決勝トーナメントを勝ち上がることはできないと思った。
では、決勝トーナメントを勝ち上がり、ベスト8以上に躍進するには何が必要なのか。今回のワールドカップの4試合すべてにGKとして出場した権田修一選手は、「何かを変えなければいけない。チェンジではなくアップデートしていかなければならない」と語ったという(12月8日付日本経済新聞)。そして、アップデートするためには土台が必要であるということが記事には書かれている。
筆者も同感である。日本代表は、今までに築き上げてきた「土台」を基にアップデートして新たな「土台」をつくり、それをさらにアップデートする、ということを繰り返して成長していくことが必要になるだろう。現在の日本代表から、一足飛びにワールドカップ決勝戦に進出するチームに変貌させることは、恐らく不可能である。一段一段アップデートして、階段を上っていくことが重要である。
サッカー日本代表とラピダスの比較
このワールドカップより一足先の11月10日、半導体の新会社ラピダスが「2027年に2nmのロジック半導体を量産する」と発表して国内外から注目されることになった。このラピダスをめぐる報道は、その後も過熱しており、賛否両論が渦巻いている。
筆者は、サッカー観戦が大好きな半導体専門のジャーナリストである。そのため、どうしても今回のサッカー日本代表とラピダスを(全然土俵が違うのだが)比較したくなるのである。サッカー日本代表は1994年の米国大会にあと一歩届かず、ワールドカップ初出場を逃した。その経緯は今もなお「ドーハの悲劇」として語り継がれている。その4年後のフランス大会に初出場した日本代表は、7大会連続でワールドカップ出場を果たしている。今回を含めて4回、ベスト16の壁に阻まれているが、ドイツとスペインに勝つというジャイアントキリングを成し遂げた日本代表は、着実に「土台」を積み上げてきているといえるだろう。
一方、ラピダスはどうだろうか。サッカー日本代表のように「2027年に2nmを量産」してジャイアントキリングを起こすことができるか。筆者の答えは「No」である。その理由を簡単に述べるならば、40nmレベルで留まっている日本には、2nmを量産するための「土台」が全くないからである。このあたりについて、もう少し詳しく説明しよう。
半導体の微細化という「土台」
半導体の微細化は、1世代ごとに70%の割合で進められる。そして70%の微細化を行うと、さまざまな問題が、まるでパンドラの箱を開けたように噴出する。その問題を一つひとつ解決していかなければ、新しい世代の半導体は量産できないのである。
その半導体の微細化という「土台」を視覚的に示してみよう(図1)。台湾積体電路製造(TSMC)が3nmの量産目前(12月29日に量産開始の記念式典を開催予定)、サムスンは3nmが量産できず5/4nmに留まっており、インテルが10~7nmから先に進めずにいる。そして、日本は40nmレベルで停滞したままだ。半導体の微細化の「土台」は、上に行けば行くほど険しい。
とここまで書いて、図1はちょっと違うと考え直した。微細化を進めるほど難しくなるため、実際には微細化の「土台」は図2のようになると思われる。上に行けば行くほど(微細化を進めるほど)、解決すべき問題は多くなる。したがって、積まなければならないものは、上に行くほど多くなる。
このように、半導体の微細化を進めるということは、微細化とともに積むべき「土台」が多くなり、逆ピラミッド構造になると考えられる。したがって、ある微細化の世代をスキップするということは、あり得ない。というのは、「土台」なしには次の世代に進むことができないからだ。それはピラミッド構造の図1でも逆ピラミッド構造の図2でも共通しているが、逆ピラミッド構造のほうが、よりスキップが困難であることがわかるだろう。
ラピダスには「土台」がない
ラピダスは米IBMと欧州のコンソーシアムimecが技術提携することになった。しかし、40nmレベルから3nmまでの技術の蓄積がまったくないラピダスに誰が何を協力しても、2nmの量産はできないだろう。その理由を一言でいうと、前出のサッカー日本代表の権田GKの言葉を借りれば、ラピダスにはアップデートするための「土台」がまったくないからだ(図3)。サッカーの実力に例えるなら、ラピダスはアジア予選を勝ち上がる力すらないと筆者は思う。サッカー日本代表を一気にワールドカップ優勝国レベルにすることができないように、ラピダスが9世代も微細化をスキップして、いきなり2nmのロジック半導体を量産することもできない。これは、火を見るより明らかなことである。
筆者から一つ提案がある。いきなり2nmはいくらなんでも無理だから、2023年前半に32nm、後半に28/22nm、2024年前半に16/14nm、後半に10nm、2025年前半に7nm、後半に5nm、2026年前半に3nm、後半に2nmと、一歩一歩、着実に「土台」を積み上げていったらどうだろうか。そのほうが確実であるし、計画通りに進めばもしかしたら「2027年に2nm」を量産できるかもしれない。
「急がば回れ」ともいうし、「急いては事を仕損ずる」ともいう。ラピダス関係者は今一度、計画を考え直すべきである。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)
【お知らせ】
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