楽天モバイル社員が関与した取引先からの不正水増し請求が発覚し、楽天モバイルは当該取引先との取引を停止し、預金の仮差し押さえを東京地裁に申し立て、認められた事案。19日付毎日新聞ウェブ版記事によれば、取引先の下請け企業が破産、事業停止、全従業員解雇などに追い込まれるなど、連鎖倒産の様相を呈しつつあるという。楽天モバイルは毎日新聞の取材に対し「何らかの対応や関与を行う立場にはない」とコメントしており、発注企業としての責任を問う声も広まっている――。
今、楽天モバイルは厳しい環境に置かれている。2020年に携帯電話事業のサービスを開始し、どれだけ使っても月額で最大2980円(楽天回線エリアのみ/通話料等別)、さらに月間データ利用量が1GB以下なら基本料無料というプランを掲げ、翌21年には500万回線を突破するなど、順調に契約数を増やす一方、たびかさなる通信障害で総務省から幾度となく行政指導を受け、品質への不信も指摘されている。たとえば、昨年9月には約130万回線に影響が及ぶ障害を起こし、12月には総務省から「重大な事故」だとして行政指導を受けた。
さらに、契約数でも勢いに陰りが見え始めている。昨年7月に1GB以下の0円プランを終了した影響で、プラン発表前の3月末からプラン開始後の9月末までの間に契約数が約50万件も減少。これまで右肩上がりだった契約数が初の減少となり、成長を疑問視する見方も出ている。
こうした苦境は収益にも如実に表れている。親会社・楽天グループの携帯電話事業は当初から赤字が続いており、22年7~9月期の同事業の営業赤字は1208億円に上り、好調なEC事業や金融事業などの利益を打ち消し、楽天グループ全体で2580億円の最終赤字(22年1~9月期連結決算)に沈む要因となっている。
「一昨年12月に楽天モバイル契約者のiPhoneで着信ができない障害が起きた際、同社は当初、その事実を公表せず、SNS上には困惑するユーザーの声があふれた。過去の例をみても同社は障害の事実公表に後ろ向きで対応が遅く、それだけに総務省の目も厳しいものとなる。
また、楽天グループは子会社の楽天銀行と楽天証券ホールディングスの上場を発表しているが、これは携帯事業による赤字の穴埋めと投資資金確保のため。好調な金融2社から毎期安定的にあがってくる利益を減らしてまでも不振の携帯事業をテコ入れするという判断に対し、市場では疑問も多い」(全国紙記者)
問われる発注者責任
そして今度は、前述の同社社員による着服事件も発生。楽天モバイルは昨年9月、同社社員が、取引先である日本ロジステック株式会社と株式会社TRAILに不正な水増し請求をさせ、その一部を還流、つまりキックバックさせていたと発表。水増し請求による損害額は46億円に上り、楽天モバイルは当該社員を解雇し、2社との取引を停止した上で預金の仮差し押さえを東京地裁に申し立て、認められた。
前出・毎日新聞記事によれば、日本ロジステックはすでに民事再生法適用の申請し、TRAILは事業停止に。さらに両社の下請け企業も破産や全従業員の解雇に追い込まれ、TRAIL側から完工済みの工賃計約1億4000万円の支払いを拒否されたり、給与の未払いなども生じているという。大手通信会社関係者はいう。
「発注元には発注者責任として、業務委託先に法令を遵守させる責任が生じる。加えて、当然のことながら、企業には自社社員に法令を遵守させる責任があるわけだが、今回のケースでは、その業務委託先と自社社員の両方が違法行為に手を染め、結果として下請け企業が多大の損害を被ったわけで、『取引を停止した』『社員は解雇した』だけで済む話ではない。特に今回被害を受けたのは、楽天モバイルの基地局整備の現場で実際の作業を担っていた企業ということなので、それなりの量の部材や人員を確保していたと推察される。社会通念に照らし合わせれば、大企業である楽天モバイルには、これらの下請け企業を救済すべく何らかの措置を取る責任があると考えられる」
楽天モバイルの対応が注目される。
(文=Business Journal編集部)