楽天モバイルは21年12月21日、アップル製iPhoneの着信に関する不具合について、正式に案内した。昨夏ごろから、楽天モバイルの回線でiPhoneを利用すると電話を受けても着信できず、留守番電話に切り替わるという事象が一部ユーザーで発生していた。
楽天モバイルによると、主にパートナー回線(回線を借りているKDDI回線)のエリアで着信に失敗する事象が発生しているが、今回の不具合は楽天モバイルのネットワーク側が原因で、KDDIのネットワークに起因するものではないという。
金子恭之総務相は12月24日の閣議後の記者会見でこの問題について言及した。金子氏によると、「楽天モバイルから問題の解決に向けたネットワークの改修にすでに着手しており、年内(21年中)にはおおむね問題が解消する見込みとの報告を受けている」という。
この不具合問題について大手メディアは大きくは取り上げず、楽天からも謝罪はなされなかった。
三木谷氏は「電波オークション」に猛反対
携帯電話用の周波数について、より高い金額を提示した企業へ割り当てるオークション方式の導入に向けた議論が熱を帯びてきた。楽天モバイルは絶対反対の立場を取る。楽天グループ会長兼社長の三木谷氏は昨年11月17日、自身の公式ツイッターを更新し、NTTドコモが賛成に転じた電波オークションの導入に対して「携帯価格競争を阻害する愚策。大反対」との立場を鮮明にした。「ドコモなどにとっては当然資金力に物を言わせて新規参入、競合排除するには漁夫の利だろうね」とツイート。資金力で劣る新規参入事業者の競争を阻害すると懸念を示した。
NTTドコモの井伊基之社長は11月16日に総務省で開催された「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会(第2回)」において、今後の国内の携帯電話の電波割り当て方式として、「電波オークションを検討すべきだ」との考え方を正式に表明した。
「5年先の基地局数などの事業計画を基に比較審査する現行の割り当て方式では、IoTなど未知の需要が増えていく今後の市場において、柔軟性を確保できなくなる」というのが賛成に転じた理由とした。NTTドコモは賛成、KDDIとソフトバンクは中立、楽天は反対。電波オークションに対する立場が明らかになった。
20年4月、携帯電話事業に本格参入した楽天モバイルは、KDDIから回線を借りながら、自前の基地局の建設を進め、大手3社同様に自社回線で全国をカバーする携帯電話会社に“変身”しようとしている。しかし、その過程で半導体不足により基地局の建設が遅れたり、KDDIに支払う利用料が予想以上に膨らんだりした。先発する3社が値下げしたことで楽天が目玉としてきた安さが目立たなくなったりと、苦戦が続いている。
電波オークションで資金力があるNTTドコモが電波割り当てを独占したら、独り立ちできていない楽天モバイルは追いつけなくなる。その危機感が三木谷氏を電波オークション反対へと駆り立てた。
KDDIから回線を借りるローミング費用の負担増で携帯電話事業は赤字
楽天グループの21年1~9月期連結決算(国際会計基準)は、最終損益が922億円の赤字(20年1~9月期は714億円の赤字)だった。基地局投資や通信網を借りるローミング費用の負担が重く、携帯通信事業の事業損益の赤字が3025億円と過去最大になったのが響いた。
売上高にあたる売上収益は前年同期比15%増の1兆2005億円。電子商取引(EC)事業、クレジットカードなど金融事業は好調だ。ECなどインターネットサービス事業の事業利益は834億円で前年同期の64億円から急増した。金融フィンテック事業の利益は前年同期比8%増の682億円だった。携帯電話のモバイル事業の赤字が拡大し業績の足を引っ張る構図が続く。携帯電話事業に本格参入し、実質的な第1期にあたる20年12月期のモバイル事業の赤字額は2272億円だった。
21年12月期は前年をはるかに上回るスピードで赤字が膨らんだ。モバイル事業の赤字は、1~3月期が975億円、4~6月期が996億円、7~9月期は1052億円と四半期ベースで過去最大となった。その結果、1~9月期の累積赤字は3025億円と前年同期の1506億円から倍増した。
モバイル事業は基地局建設の投資負担が重い。これに加え、KDDIから回線を借りるローミングの費用負担が重荷になっており、ユーザーが増えれば増えるほどローミングの費用負担で赤字が膨らんでいく。強気な三木谷氏も、ローミング費用が想定を上回ってしまっている」と苦悩しているという。
膨れ続ける赤字を解消するには、基地局の整備を進め自社回線のエリアを増やし、ローミングを打ち切るしかない。三木谷氏は決算説明会で携帯電話事業について「23年中の単月黒字化は十分可能だ」と大見得を切った。楽天モバイルはいつ離陸するのか。
(文=編集部)