4月1日付けで佐藤恒治執行役員が社長に就任し新体制が発足するトヨタ自動車。14年続いた豊田章男社長体制を引き継ぐ佐藤新社長が、ガソリンエンジン車からEV(電気自動車)をはじめとする環境対応車への移行という世界的な大きなうねりのなか、どのような舵取りをするのかに注目が集まっている。そんななか、幅広い領域で物価やエネルギー価格の高騰が起こり多くの企業が苦しむ今、トヨタが取引先の部品メーカーへ値下げ要請を行うことがわかり、さまざまな反応を呼んでいる――。
トヨタは1月、佐藤氏の社長就任と同時に、豊田現社長が会長に就任し、内山田竹志現会長が退任することを発表。水素の商用車連合をけん引してきた中嶋裕樹氏と、アジア戦略を担う宮崎洋一氏が次期副社長に就任することもすでに発表されている。
「豊田社長を支える3人の副社長が退任するほか、EV戦略を担ってきた前田昌彦氏をはじめ複数の役員が退任し、大幅な体制刷新といっていい。ただ、豊田氏は代表権を持つ会長に『昇格』し、内山田会長という『重石』もなくなることで豊田氏が院政を敷くというか、事実上、豊田氏の実権がより強くなるという見方が強い」(全国紙記者)
そんな微妙な時期を迎えているトヨタが、いわゆる「下請けメーカー」への値下げ要請を行うことが判明。原材料やエネルギーなどのコスト上昇が続き多くの企業が利益逼迫に苦しむなかでの、日本を代表する大企業であるトヨタの決断とあって、さまざまな声があがっている。
売上高営業利益率が低下
もっとも、値下げ要請は突発的なものではない。トヨタは基本的に半年ごとに部品メーカー各社と購入価格の見直し協議を行い、慣例的に一律で1%前後の値下げを要請している。2022年度は7~9月期を除いて値下げ要請を中止しており、生産台数の回復を受けて要請を再開する。その一方、一部の中小メーカーは対象外とし、エネルギー価格の上昇などで部品メーカーに発生するコスト増についてトヨタが一部を負担する措置は継続する。自動車業界に詳しいジャーナリストの桜井遼氏はいう。
「トヨタが部品メーカーに対する値下げ要請を4月から再開するのは、今年は生産台数について1割程度の下振れリスクが想定されるものの、過去最高水準となる1060万台を計画していることが表向きの理由だ。生産台数の増加で原価低減の余地が拡大するため、競争力を強化するために値下げ要請を再開するというわけだ。
しかし、実態はトヨタの収益力が低下していることが大きい。23年4-12月期連結決算では1兆円を超える為替差益を確保しながらも原価低減の力が衰え、売上高営業利益率は7.6%と、前年同期と比べて3.3ポイントも下落した。通期見通しでは6.7%にまで利益率が低下する見込みだ。トヨタの新車1台当たりの純利益はテスラの5分の1の水準であり、『稼ぐ力』が低下している。収益力を強化するため、サプライヤーに対する値下げ要請の再開に踏み切る。
もう一つ理由がある。昨年12月、公正取引委員会がエネルギーコストや物流費などが上昇しているにもかかわらず仕入先と取引価格について適切な交渉を行っていないとして公表した13社のなかに、トヨタ系部品メーカー大手のデンソーと豊田自動織機が入っていた。トヨタが一次部品メーカーに対する半期ごとの部品購入価格の値下げ要請を凍結していたのは、一次メーカーが体力の弱い二次、三次の部品メーカーの値上げに積極的に応じるなど、経営を支援することも目的としていた。しかし、『下請けイジメ』の代表格としてトヨタグループを代表する系列サプライヤーの社名が公表された。二次、三次の支援という名目がなくなったことから、トヨタは値下げ要請を再開することにしたとみられている」
(解説=桜井遼/ジャーナリスト)