エネルギーや食品などさまざまなものが値上がりしているが、中古車も高騰している。トヨタ自動車の「ハリアー」など一部の人気車種では中古車価格が新車を上回る逆転現象まで起きている。中古車オークション大手USS(ユー・エス・エス)が発表した2022年の月次データを見ると、成約車両価格は9月に過去最高値の122万円を記録し、同年の国内中古車価格が過去最高となった。
新車より中古が高くなるというのは、市場原理に照らせば異常な状況だ。なぜ、このようなことが起きているのか。自身で中古車販売店も営んでいる自動車ライター、桑野将二郎氏はこう説明する。
「ユーザーは、新車の納期が長くて買えないから中古車を買いたいと考える。しかし、国内で流通している中古車の台数も足りない。中古車不足の理由のひとつは、買い替え需要が動かないので下取りに出す人が減って、中古車も増えないこと。需給のバランスが崩れている」
日本自動車販売協会連合会(自販連)が発表した22年の中古車登録台数は、21年比6.3%減の349万5305台だった。これは1978年の統計開始以来の過去最低を2年連続で更新した数字だという。新車が手に入りづらいので、今乗っている車を手放さない。当然、中古車として店頭で売られる車は少なくなる。一方で、中古車を求める人はこれまで同様、減っていない。そんな悪循環が続いている。
半導体などの部品不足で新車が生産できない
新車雑誌「月刊ニューモデルマガジンX」の神領貢編集長も需給バランスの崩れを指摘する。
「中古車の高騰は1年以上続いている。メーカーは中国をはじめ海外で生産している部品をたくさん使っているので、コロナ禍で部品を十分に調達できなかった。象徴的な部品が半導体で、とくに新しい車は使っている半導体の数も多い。例えば、ハリアーやアルファード、ランドクルーザーみたいな車種はかなり納期が長くなる。海外でも人気が高いので、もともと日本市場にあてがわれている台数が少ないこともある。日本の工場でもやはりコロナの影響で部品が生産できなかった。当然のことながら、新車はつくれる台数に限りがあるので、メーカーは儲からない車よりも1台あたり儲かる車を生産する。そういう高価格帯の車は一般的に納期も長くなる」
トヨタは1月16日、23年の世界生産台数について現時点で1060万台を上限として取り組むと発表した。長期化する半導体不足などの影響により、1割程度下振れするリスクもあるとした。トヨタは今期(23年3月期)の生産目標について、昨年11月に従来の約970万台から920万台に引き下げた。今年に入っても、国内工場の一部で稼働調整を行うなど解消には至っていない。安定的な新車供給にはなお時間がかかりそうだ。
海外輸出で国内に流通する中古車はさらに少なく
国内の中古車が不足している理由は他にもある。昨年は円安が進んだことで、外国への中古車輸出が増加したことだ。輸出先はロシアや中東諸国が多く、大型のレジャー用多目的車(RV)だけでなく、部品を取るために廃車でも高値が付くという。
ロシアのウクライナ侵攻により、日本と欧米の自動車メーカーはロシアでの新車製造を停止し、さらに次々とロシア事業から撤退した。自動車メーカーだけでなく部品メーカーもロシア事業から同様に撤退し、ロシアではまともな新車がつくれなくなった。経済制裁を受けるなかで、ロシア国内では長年の信頼がある日本製中古車への需要が高まったのである。
「ロシアは右側通行・左ハンドルだが、右ハンドル車の通行を認めており、『25年ルール』のような規制もない。ロシアは日本にとって中古車輸出がしやすい国の1つ」(神領氏)
日本の自動車は右ハンドル車なので、中古車として海外に輸出される際、実は限られた国でしか販売・登録ができない。右ハンドル・左側通行を採用しているのは世界約190カ国のうち約25%しかないという。さらに、アメリカでは「25年ルール」によって、製造から25年を経過するまで右ハンドル車を含む並行輸入車の輸入ができない。25年を過ぎるとクラシックカーとして輸入することができる。しかし、ロシアにはこうした輸入規制もない。
中古車の世界でいうと、日本は夢のような国
日本の中古車はコロナ禍以前から、もともと海外で人気が高かった。
「日本は中古車に対してシビアだから。例えば、走行距離が10万キロだったら過走行車という基準になるし、6~7万キロでも、やや過走行になる。ところが、日常的な走行距離が長い欧米では、10万キロでもローマイレージになる。日本の中古車は走行距離が少なくて、洗車ばかりしているから車体もきれいで、しかも値段は安い。そんな国はほかにない」(桑野氏)
日本国内で販売されている中古車の安さについて、桑野氏はさらにこう語る。
「日本の中古車相場は、欧米の先進国に比べるとかなり安かった。例えば、クラシックのポルシェやフェラーリも、今でこそ日本でもかなり高くなって1000万円を超えているが、10~15年ぐらい前は、世界的な相場で700~800万円していたポルシェが日本では100~200万円で買えた。そんな値段でポルシェとかフェラーリを買えるのは日本しかなかった」(桑野氏)
国内の中古車市場、これからどうなる?
神領氏は、国内における中古車価格の値上がりピークは打ったと話す。
「価格はまだそれほど落ちてはいないし、値落ちも緩やかだ。ただ、メーカーも去年より今年は生産できるだろうという見立てであり、一部人気車の中古車の価格高騰はもう少し続くだろうが、そういう車種もこれから減ってくるのではないか」
中国はゼロコロナ政策を転換し、経済の正常化に向けて動き始めた。
「コロナ禍というのは100年に1度ぐらいの話なので、なかなか予測できないところがある。新車を生産・販売すれば流通は増えるだろうと思われがちだが、それが以前のように潤沢にユーザーの手に渡っていくには、やはり少なくとも1年半ぐらいのタイムラグがあるはずだ。供給不足がすぐに解消されることはおそらくないだろう」(桑野氏)
車検が切れるタイミングで車の買い替えを考える人は多い。
「新車の場合、今はだいたい、車検の1年前に買い替え話を始めないと、うまく車検に間に合わないといわれている。ただ、車検が切れて納車されない空白期間があっても、ディーラー側は代車を用意している」(神領氏)
現在の新車・中古車不足のなかで、ユーザー側の自衛手段は、早めに買い換えを検討するということくらいかもしれない。
(文=横山渉/ジャーナリスト)