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シリアルアントレプレナー・小川浩「Into The Real vol.29」

本格的起業ブーム到来の兆し~若者の無謀さとプロ経営者のコラボを支援する環境整う

文=小川浩/シリアルアントレプレナー
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本格的起業ブーム到来の兆し~若者の無謀さとプロ経営者のコラボを支援する環境整うの画像1「Thinkstock」より

 ようやく、日本のスタートアップ(編註:新しいビジネスモデルを開発して起業すること)にも追い風が吹いてきた。

 ここ数年で、20代の若者を中心とした起業ブームが生まれ、彼らの起業を後押しするようなインキュベーター(編註:起業を支援する事業者)やシードアクセラレーター(編註:出資、指導、訓練等により、起業を支援する事業者)が続々と誕生し、彼らによるスターターイベント(編註:資金調達を目指す起業家を集めてプレゼン等で競わせることを目的としたイベント)も多く開催されるようになった。

 Yコンビネータ(編註:米国カリフォルニア州にあるベンチャーキャピタル<VC>)のクローンといってもいいが、日本のインキュベーターやシードアクセラレーターは、1件当たり数百万円の起業資金(シードマネー)を起業家に投資する。出資を受けた起業家は、その資金で製品やサービスの開発を行い、より高額な資金調達に応じてくれるVCを探す。このように、若い起業家への支援制度が整備されてきたおかげで、日本国内にあっても学生を中心に若手起業家のスタートアップが続出した。

●スタートアップは一種の冒険

 しかし、十分な就労経験のあるような30代以上の起業家にとっては、シードマネーとしても数百万円の出資金ではあまりにも少ないので、どうしても二の足を踏む。学生や20代前半ならば、VCの支援を得る前にシードマネーを使い果たしてしまっても、再就職の道はいくらでもあるし、そもそも実家で生活費を切り詰めることもできるが、30代以上の起業家であっては、そうはいかないからだ。若者なら小汚い格好やファストフードばかりの夕食でも悲壮感は出ないが、30代以上ともなると単なる薄汚く惨めな印象は拭えなくなる。

 確かに、スタートアップをすることは一種の冒険であり、若者のゲームだ。しかし、同時にビジネスには経験や実務知識が不可欠であり、成功確率を上げるには“無謀さを良しとする若さ”と、“慎重さと思慮深さ”のコラボレーションが必要だ。だから米国では若者が興したスタートアップに、経営層として参加するプロの経営者が数多くいるのだが、日本ではなかなかそういう出会いもなかった。

●今年、スタートアップの支援体制が整ってきている

 その環境が、今年になって、ようやく改善されてきているようだ。若者の起業を支援するインキュベーターやシードアクセラレーターと、旧来型のVC(特に日本では金融系のVCや、大企業の一部門としてのコーポレートベンチャーキャピタル=CVC)との接点が増えた。いや、もともと接点はあったが、その接触面での役割分担や互いの存在意義がこなれてきたといえばいいだろう。結果として、シードアクセラレーターらによって支援を受けているということが、一種の“学歴”というか試験にパスした“資格”のようなディプロマ(証書、免許証)として役立つようになってきた。

 日本のVCでは先述のように、銀行であったり、事業会社のサラリーマンが配置換えによって投資業務に従事しているケースが多く、多くのスタートアップの領域(ITやバイオなど)には詳しくない。要は目利きが少ないのである。

 ところが、インキュベーターやシードアクセラレーターは、もともと成功した起業家が転身しているケースが多い。そこで彼らが先導役となって、資金力のあるVCとのコラボレーションを成し遂げるようになっているわけだ。

 さらに、ドットコムバブルやリーマンショック、もしくはライブドアショックを乗り越えてIPO(株式公開)にこぎ着けたベンチャーや、うまくバイアウト(企業買収)に成功した日本の起業家たちがプロの経営者として、スタートアップの役員に名を連ねることも多くなってきた。実情として、米国に近い形が見え始めているのである。

 2020年のオリンピック招致も決まり、これからのスタートアップには、本当に追い風が吹きつつある。有為の人材と自負するのであれば、冒険の旅に身を投じるべきだ。今が千載一遇のチャンスなのである。
(文=小川浩/シリアルアントレプレナー)

小川浩/シリアルアントレプレナー

小川浩/シリアルアントレプレナー

シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。

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