アニメやアイドルなどの人気コンテンツをモチーフにしたオリジナルメニューを楽しむことができる「コラボカフェ」。世界観を表現した空間でスペシャルフードやドリンクを楽しみながら、推しのキャラクターに想いを馳せる……。ファンにとっては特別なイベントとして根強い支持を集めており、常設スペースだけでなく期間限定のポップアップ店や全国巡回スタイルなど、様々な業態が展開されている。
しかし、一般的なカフェよりもメニューは高価格になりがちで、ネットなどでは「ボッタクリ」などと非難されることが多く、またコースターやトレーディングカードなど、ランダム性のあるノベルティの配布による食べ残しや転売などが問題となるケースも増えている。
この冬も、都心を中心に数多くのコラボカフェが営業している。『鬼滅の刃』や『東京卍リベンジャーズ』など人気のアニメ作品、『黒子のバスケ』や『ラブライブ』など10年以上続く息の長いコンテンツ、また『NCT 127』や『SHINee』など、韓流アイドルを取り扱ったコラボカフェなどに各地からファンが詰めかけている。
コラボカフェの特徴は、作品の世界観が散りばめられた空間と、そこでしか楽しめないオリジナルメニューの数々。しかし、その価格を見ると、キャラクターのラテアートが施されたカフェオレが1000円、作品内のキャラをモチーフにしたフードが2000円超えと総じて高め。さらに、プレミアムグッズなどのノベルティ付きだと3000円を超えるメニューもある。
これが飲食物の原材料費にこだわる“原価厨”からボッタクリと難癖をつけられ、炎上騒ぎとなってしまうのだ。
「コラボカフェは暴利を貪っているのでなく、どうしても高価格帯になってしまう理由があるんです」と語るのは、コラボカフェのメニュー考案やコンサルタントを行っているフードコーディネーターの郡司ちほさん。
コラボカフェのメニューはいくつかの要因によって、一般的なカフェの1.5~2倍ほどの値段になってしまうという。
「まずは『ロイヤリティ』ですね。コラボカフェは基本的に、運営側がキャラクターの権利を持つ会社に版権料を払う形で運営していきます。その割合は10%程度で、20%を超えることもあります。これが各メニューにかかってきますので、それだけで販売価格が1~2割は高くなってしまうことになります」(郡司さん)
コラボカフェのメニューは、よく「絵がついているだけ」と言われるが、その「絵」が高いのだ。
「2つめは、ほとんどのコラボカフェが『期間限定』の運営であることです。コラボカフェは長くて2カ月、短くて2週間ほどの期間しか開催されません。永続的に続く飲食店なら、食材などを効率的に買い付けたり、その時々で利益率の高いメニューを作ったりすることが可能ですが、コラボカフェはあらかじめ期間内の受注を予測して食材を確保しておかなくてはいけないので、どうしても原料コストが割高になってしまうんです」(同)
また、最近のコラボカフェで定番となっているキャラクターが描かれた可食フィルムや、メニューに合わせた特別な色の食材なども単価が高い。
「可食フィルム1枚で30~40円ほど。大きいものになると100円近くなる場合もあります。原理的には印刷物と同じなので、原盤を作ってプリントするのですが、生産数が少ないとそれだけ単価が上がってしまいます。デザインは権利元にチェックしてもらうのですが、OKが出ずに作り直しをしなければならない場合、その分コストがかかってしまうといったこともありました」(同)
また、デパートの催事場やイベント併設型のコラボカフェの場合、テナント料も割高となる。さらに開催日が限られていると、内装費の償却も追いつかなくなり、コストを押し上げる。
割高と思えるコラボカフェのメニューだが、こうして考えていくと、限られた条件の中で最大限にファンを楽しませようという企業努力さえ感じる。
郡司さんは、このようなコラボカフェ運営に関するほぼすべてのことに関わり、トータルプロデュースを行っている。単純に「メニュー開発」といっても、コラボ元のマンガやアニメを読み込むという作品研究から始まり、そこからファンが好みそうなキャラクターやシーンを抽出してメニューを考案。実際に試作してレシピ化しながら、使う食材の原価率を計算。さらに、それを実際に現場でアルバイトが調理する際の業務オペレーションや導線まで考えるというから、その業務量は膨大だ。
「以前、コラボカフェ専門の会社で働いていた頃は、1年間で600ほどのメニューを考案していました。どんなカフェをやるかという企画は自分で選べず、営業部から降りてくるので、あまり詳しくないコンテンツだと、ゼロから作品をひたすら読み込んだり、詳しい社員の意見を聞いたり……。ただ、企画スタートからオープンまでの猶予は2~3カ月くらいと迫っていることがほとんどなので、それまでにメニューの考案や試作、撮影、食材手配にオペレーション管理まで、かなりのスピード感で進める必要があります」(同)
どれだけ綿密に計算しても、現場では想定外のことが起こってしまう。
「調理のオペレーションは、アルバイトさんでも作れるように複雑な工程にならないよう工夫しています。それでも、テナントを借りるタイプのコラボカフェの場合は、そもそもちゃんとしたキッチンが確保できなかったりするので、問題が起こってしまうことも多いんです」(同)
現場で問題が起こると回転が悪くなり、「予約をしたにも関わらず並んで待たされた」というクレームになってしまう。また、コンテンツによっては人気や来客数の「波」を読み切れず、手が回らなくなる状況に陥ることもあったそうだ。
「開催初日や土日はお客様が集中することが多いので、そこを耐えきれるかどうかが分かれ目です。メニューや特典を前半後半で入れ替えるといった混雑緩和につながる工夫をするなど、お客様一人ひとりがコンテンツの世界観に浸れる時間を確保できるように努めていました」(同)
コラボカフェではトレーディング要素のある特典グッズが定番となっている。メニューに添えて配布するだけなのでオペレーションが簡単な上、ランダムなのでリピーターを呼びやすい。しかし、グッズだけ手に入れてフードは食べ残すなどの問題も起きている。
「以前はランダム商品を店内のお客さん同士で交換するという文化があったのですが、店内でのトレーディング禁止というケースが増えています。また、最近は特典だけ手に入れてフードは食べずに残していくといった問題も起きていて、転売などのトラブルも目立つようになりました。運営側が商業っ気を出しすぎるとファンからの評判も悪くなるので、そのバランスは難しいですね」(同)
また、コロナ禍以降、消費者側の価値観の変化も大きく影響を与えているという。
「いわゆるZ世代は『推し活』をしている人が4分の1以上いると聞きます。何か1つのコンテンツを熱く推すことがオープンに推奨される風潮になってきていて、『オタク』のイメージは格段に明るくなってきたと思います。ただ、推す対象が増えると、それだけお金もかかってしまう。コラボカフェを割高だと思う人が増えてしまうと、需要が衰退していってしまうかもしれないですね」(同)
コラボカフェは、ただの食事として楽しむ「コト消費」ではなく、コンテンツを楽しむ感情に対する対価を支払う「エモ消費」。こうした考え方が浸透すれば、コラボカフェは最も身近なテーマパークとなる。
「美術館や民俗資料館など、アニメやゲームといったオタク文化にとらわれない形のコラボカフェも増えてきました。また、普通のファミレスや回転寿司チェーンなどでもコラボメニューに取り組む企業が増えています。そこでコストだけにとらわれない楽しみ方が広がれば文化として成熟していきますし、私が今まで培ってきたノウハウもより広い分野で役立てていけると思います」(同)
開催期間が決まっているため、ファスト消費的側面の強いコラボカフェ。しかし、それが今しか楽しめない特別なものだと思えば、コスト面も含めてより貴重な体験ができる空間として認知されていくはずだ。