ANAは2月、羽田空港の保安検査場の上部に設置していた大型電子掲示板(デジタルサイネージ)を撤去。搭乗者には個別にモバイルアプリ「ANAアプリ」へ情報を提供しているが、不便さや現場での混乱を指摘する声もあがるなど議論を呼んでいる。
ANAはこれまで羽田空港第2ターミナルの保安検査場(A~D)に大型電子掲示板を設置し、各出発便の便名、出発時刻、行き先、搭乗口などの情報を表示していた。JALは第1ターミナルの保安検査場(B、C、E、F)に大型掲示板を設置しており、撤去の予定はないとしている。また、スターフライヤーとスカイマークは従来より第1ターミナルにある保安検査場に大型掲示板は設置しておらず、検査場入口横の小型モニターで情報を表示している。
ちなみにANAは出発フロア中央やカウンター上部の大型掲示板については設置を続け、保安検査場上部の搭乗口の位置を示す大型フロアマップの掲示板についても残されている。
すでに撤去前から不便さを懸念する声があったが、実際に撤去された後は以下のようにさまざまな声がSNS上であがっている。
<スマホを手に持っていながらも使い方が分からず、とりあえず地上係員を片っ端から捕まえる高年齢・子連れの方々>
<そんなにモニター見るとか必要?>
<スマホ使ってる層からしても、運行情報とか見るのは大型モニターの方が良かった>
<モニターの有無でチェックインのスムーズさは変わらない>
<使えない人はもちろん、両手荷物で塞がってる時とかどーすんの>
<ANA上級会員を維持する程度には飛行機に乗る私ですら、両手塞がってると大型モニターで確認する>
<キャリア側で通信障害起きたらどうするんだろ?>
<歩きスマホをする人続出>
システムのリダンダンシー
ANAでは今月3日、国内線システムで障害が起こり、国内線全便の予約・販売・搭乗手続きができなくなり、利用者へのANAアプリでの案内もできなくなった。その結果、同日の国内線55便が欠航、153便が30分以上の遅延となったが、航空経営研究所主席研究員で桜美林大学客員教授の橋本安男氏はいう。
「今回ダウンした旅客システムは予約やチェックインなどの機能を持つが、ANAアプリが使えなくなったことで、利用者は遅延・欠航に関する情報をアプリから入手できなくなった。一方、空港内の電子掲示板は航空機の運航を管理する運航系システムとデータ連携しているため、利用者は電子掲示板から遅延・欠航情報などの情報を得ることができる。大型電子掲示板が撤去されることによって、スマホを使いこなせない中高年や、荷物で手がふさがっていたり小さなお子さんを抱える利用者が不便さを感じるというデメリットに加え、まれにシステム障害でアプリが使用できなくなった際に遅延・欠航などの運航情報にアクセスしにくくなるというデメリットも生じる。システムのリダンダンシーの観点からも、誰もが見やすい大型電子掲示板が設置されているほうがベターではあろう」
ANAが大型電子掲示板を撤去した背景について橋本氏はいう。
「コロナ禍で一時的に財務が悪化したANAは、航空事業一本だけに依存するリスクを認識し、デジタル戦略としてスーパーアプリ構想を掲げて、ANAマイレージクラブアプリ上でECモールや決済のANA Pay、ホテル予約などさまざまなサービスを展開している。そうした顧客の囲い込みの動きのなかで、電子掲示板や自動チェックイン機を撤去して、予約やチェックイン、情報の案内などをANAアプリに集約し、利用者をアプリを通じてANA経済圏に誘導しようという意図があるのではないか。JALとは対照的なANAらしい攻めの経営と評価できなくもない」
ANAは全国51空港に437台設置している国内線の自動チェックイン機についても2023年度中に廃止し、チェックインや発券手続きを搭乗者がモバイルアプリで行うことを促す。
(文=Business Journal編集部、協力=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、桜美林大学客員教授)