CD・DVDレンタル業といえば斜陽産業のように思えるが、同ビジネスでおなじみの「GEO(ゲオ)」の運営会社ゲオホールディングス(HD)の業績が今、好調とのこと。NetflixやAmazon Prime Videoといった世界規模の動画配信サービスが全盛の時代になり、レンタル業界は一掃されつつある印象が強かったが、ここにきてなぜゲオが躍進を見せているのだろうか。そこで今回は流通アナリストの中井彰人氏に、好調のゲオHDの戦略や、ライバルと目されていたTSUTAYA(ツタヤ)凋落の原因などを解説してもらう。
リユースビジネスの大ヒットで逆境を乗り越えたゲオ
2004年には東京証券取引所と名古屋証券取引所に一部上場し、翌年には全都道府県への出店を果たすなど、CD・DVDレンタル業界を牽引していたゲオ。現在でもレンタル事業が好調なのだろうか。
「ゲオHDの21年3月期の売上高を見ると、前期と比べて7.6%増の3283億5800万円を記録しています。また22年3月期の通期業績予想を見ると3300億円、純利益は40億円に上方修正しています。しかし、この好調を支えているのはレンタル事業ではなく、むしろ足を引っ張っていることがわかるのです。
日本映像ソフト協会の資料『映像ソフト市場規模及びユーザー調査2021』を見ると、セルとレンタルを合わせた映像ビデオソフト市場は07年の6642億円から右肩下がりで、21年には2719億円と、往時の4割程度にまで減少してしまっています。そしてゲオHDの23年3月期の第3四半期の商材別売上高を見ると、15年ごろから加速度的に人気を博してきた動画配信サービスに淘汰されるかたちで、レンタル事業だけが唯一売上減少を記録しているのです」(中井氏)
では、なぜ本業だったレンタル事業が売上減少しているにもかかわらず、ゲオHDは好調なのだろうか。
「それはズバリ、リユースビジネスが人気だからです。もともとGEOだった店舗をゲーム機やスマホの買取り専門店に業態変更したことに加えて、今ゲオHDが一番力を入れているのが、衣類から家電・家具まで取り扱う中古買取り販売店『2nd STREET(セカンドストリート)』の拡大です。22年12月時点でGEOは1098店舗ありますが、2nd STREETはそれに迫る勢いの787店舗にまで拡大しているほか、海外にも45店舗展開しています」(同)
実はフリマアプリ「メルカリ」の流行が追い風に?
ゲオHDがリユースビジネスで成功を収めた背景には何があるのか。
「当然CD・DVDレンタル業界の低迷はゲオHDも予想していました。そのため、業界各社はレンタルブーム終了後の事業形態を模索してきたという背景があります。そこでゲオHDが選んだのがリユース事業。実はゲオHDはレンタルビジネス全盛期から、当時業界1位だったTSUTAYAとの差別化を図る意味でも、ゲームソフトを中心とした中古品の買取りビジネスを早い段階から始めていたのです。大きな潮目となったのが、そうしたリユースビジネスの延長として、06年に総合リユースビジネスを展開していた2nd STREET(買収時は株式会社フォー・ユー、その後、2010年に株式会社セカンドストリートに商号変更)の買収。すでにノウハウを蓄積していた企業を取り入れることで、一気に事業を拡大することができたわけです」(同)
リユースビジネスが人気な理由はまだあるという。
「リユース人気に火が点いた要因のひとつに、実は19年ごろから急激に利用者を増やしたフリマアプリ『メルカリ』の影響があるのです。個人間で中古品の売り買いができるメルカリは、22年時点で総ダウンロード数が約6000万件にのぼるなど、圧倒的な人気を誇っています。コロナ禍の影響もあり、巣ごもり生活で家庭から多くの不用品が出たことに加えて、ちょっとした商売感覚で中古品を売り買いできる楽しさもあって、メルカリは消費者に急速に浸透していきました。メルカリのおかげで中古品を売り買いするという文化がさらに定着していったのです。
ただ、今でも堅調なメルカリですが、一方で発送作業を自分でやらなければいけなかったり、取引交渉を自分でやらねばならなかったりと、利用の面倒さがよく指摘されています。そのためメルカリの利用者の多くが20代から30代で、こうした作業を面倒に思う40代や50代の層はリユースビジネスにおいてブルーオーシャンだったのです。また、単価が安いもの、大きいものは送料負担があり、売っても利益が出ないため、メルカリでは売ることができません。そこをうまく取り込んだのが2nd STREET。郊外のロードサイドを中心に店舗展開している同チェーン店は、車などで大量に中古品を持っていっても簡単にさばいてくれるので、実はメルカリと競合しないうまいところを突いているのです」(同)
好調ゲオとは対照的に凋落してしまったTSUTAYAの誤算
そんなゲオHDとは対照的に、当時ライバルであったTSUTAYAは凋落が顕著だという。
「TSUTAYAを運営しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、自社の既存事業が、ECや配信ビジネスなどへデジタルシフトした後の事業形態として計画していたのは大規模なビッグデータビジネスでした。会員証の代わりでもあったTポイントカードをコンビニ、ファミレスなどさまざまな異業種で使えるように連携したほか、オンラインでもこうしたTポイントシステムを軸にしたTポイント経済圏とでもいうべきビッグデータビジネスを目指し、利用者獲得に向けて精力的に動いてきました。実際、こうした取り組みでは先駆者的な側面もあり、当初は好調だったのですが、2010年代の後半から雲行きが怪しくなります。
それは、CCCの戦略を、Amazon、楽天といったEC大手、NTTドコモ、au、ソフトバンクなどの携帯キャリア大手が、ビッグデータビジネスに本格参入してきたためです。競合がTポイントよりも効率的なシステムが、急速に経済圏を構築したことで、TSUTAYAとTポイントの存在感は一気に薄くなってしまいました。また、TSUTAYAは書店ビジネスも展開していましたが、近年のECシフトのあおりを食らってこちらも不調気味。2011年にCCCは上場廃止してしまっているので、詳細な業績を知ることはできませんが、ゲオHDとの差が歴然なのは自明です」(同)
今後もゲオHDのリユースビジネスは安定的な人気を博すと予測されるという。
「ゲオHDがレンタルブームの終了を経ても生き残れたのは、ビッグデータビジネスというより大きな魚を釣ろうとして、GAFAや大手ECを競合としてしまったCCCとは異なり、市場規模は大きくなくとも、強いライバルが少ないリユース事業に徹した、その堅実さによるところも大きいでしょう。リユース事業はオンラインでもやってはいますが、あくまで実店舗がメインなことは今後も変わらないと思います」(同)
かつてライバル同士でしのぎを削りあってきたGEOとTSUTAYA。変革の時を経て振り返る両社の軌跡は、まるで「うさぎと亀」を見ているようだ。リユースビジネスという新たな鉱脈をつかんだゲオHDは、今後も地に足のついた成長を続けていくことだろう。
(文=A4studio/協力=中井彰人/流通アナリスト)