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「産休は困るので女性は雇用しない」投稿…中小企業を悩ます育休問題の複雑な要因

文=A4studio、協力=矢島志織/特定社会保険労務士
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「gettyimages」より

 大阪で2つの会社を経営する弁理士の瀬戸麻希さんが2月、Twitterに

<批判覚悟ですが、私は、寿退社や産休や育休をされると困るので、若い女性は正社員として雇用してません 本音は雇ってあげたいし心苦しいのだけど、うちのような弱小企業では雇う余力がありません こういうところに政府の助成金を出してほしいと思う>

<大企業なら1人辞めても代わりはいくらでもいますが、うちのような弱小企業の場合、1人がいなくなると大打撃なんです なので、結婚して辞めたり妊娠出産で長期で休む可能性の高い若い女性は、本当に申し訳ないのですがうちでは採用できなくて、、、今まで全部お断りしてます>

と投稿し、大きな反響を呼んだ。日本の育休制度に憤りを覚えているという共感の声が集まったが、今回は女性の労働環境に詳しい社会保険労務士の矢島志織氏に、産休・育休に関する国の補助制度や、中小企業における産休・育休の実情について聞いた。

就業規則に加えないと最悪罰金も課される日本の育休制度

 まず、日本における育休制度がどんなものなのか。

「育休とは、正確には『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』のなかにある『育児休業制度』を指すもので、1歳未満の子どもを持つ労働者の支援を目的としており、性別を問わず、基本的には子どもが1歳になる前日まで取得できます。育児休業のルールは、就業規則へ絶対的に記載しなければならない事項の1つであり、常時10人以上の労働者を使用する会社は、絶対的必要記載事項を網羅した規則を管轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。仮に、この記載が無い場合や届け出を行っていない場合には、30万円以下の罰金に処せられます。また、育児休業制度を利用する(利用しようとする)男女労働者に対し嫌がらせを行い、就業環境が害されることはハラスメントにあたり、禁止されています」(矢島氏)

 ツイート主の経営者のように、社員に産休・育休を与えたくても与えられないため女性社員を採用しない企業はどれくらいあるのか。

「そうした企業に関しての正確なデータがあるわけではないので、分かりません。ただ、ツイートのお気持ちも分かります。女性に限った話ではないですが、労働者には周りに配慮ができる方、配慮もなく権利ばかり主張する方と色々な方がいらっしゃいますが、権利主張ばかりされてしまうと経営者はとても苦しい気持ちになります。周りに配慮しながら、自分が育休に入っても仕事が回るように準備ができる方には、経営側も気持ちよく休みに入ってもらいたいと感じると思います」

 今回のツイートを受け、国が産休や育休を取得する人に対して支援・補助をしていないことが問題だと指摘する声もみられる。

「育休中、国から『育児休業給付金』がもらえるので、そんなことはないと思いますよ。雇用保険に加入し、受給資格要件を満たしていることが前提ですが、申請は通常、会社がハローワークへ必要な書類を提出する流れです。気になる支給額ですが、育休開始から180日間は月給の約67%(休業開始時賃金日額×支給日数×67%)で、181日目以降は月給の約50%(休業開始時賃金日額×支給日数×50%)となっています。

 このように育休を取得する場合、要件が満たされている方には、所得保障制度がありますので、『国が補助をしていない』という訳ではありません。また、その間、企業は労働者に賃金を支払う義務はないので、大半の中小企業は育休中に給料を出さないのことが通例でしょう。育児休業中の社会保険料免除制度もありますし、育休を取得する社員に対して会社が直接的に金銭の負担を被るということはありません」(同)

育休問題の根本原因は中小企業の人手不足にある?

 だが、こうした金銭的な補助だけではカバーしきれない問題もあるという。

「シンプルに給付金の金額が低いという点はあるでしょう。また、会社側にも育休中の欠員補填や売上が下がるというデメリットはあります。これこそが苦しいポイント。そういった意味で、国が会社側にも補償を出すべきという部分は少なからずあるかもしれません」(同)

 育休制度などの仕組みは大企業が前提になっているという意見もある。

「前提として、育休を社員に与える義務や育児休業給付金に関して、大企業と中小企業で差があるわけではありません。問題視されているのはそこではなく、社員が育休を取ったことで起きる影響を大企業のほうがカバーしやすいという現状があることではないでしょうか。

 例えば、大企業の場合、人事部などで社会保険の手続きのみをタスクにしている人がいるように、業務が細かく分担されているので1つの業務に集中することができる環境が多いでしょう。これは、欠員が出た場合に別の人が他の業務を分担できる余裕があるということでもあります。また、単純に社員数が多いので1人の作業を何分割にもできます。

 ですが、中小企業の場合はそう簡単にはいきません。人事部の例でいえば、常日頃から社会保険や給与計算、人材の採用、人事評価などマルチタスクが求められます。その上、社員数も大企業に比べて少ない。そこに育休で欠員が出た場合、他の人員で補填することの負担が大きくなってしまいます。また、代替要員の採用を試みても、マルチタスクができる人材と巡り合うことができず、なかなか決まらないという企業も多いかもしれません」(同)

 こうした現状に対する改善策はあるのだろうか。

「育児休業は、性別に関係なく取得できる制度です。いつ誰が育休を取得しても業務が回る組織を創るためにはどうしたらよいか? を企業全体で考えていくことが必要といえるでしょう。社内でフォローし合える体制、環境、意識改革など、まずは経営者が積極的に推進していくことも必要です。業務の標準化、適正化、効率化など労働者の声を聞きながら改善プロジェクトを進めていくとよいでしょう。

 また、人材不足という問題も中小企業にとっては大きな課題です。『求人を出しているのに応募が来ない』という声も聞こえてきます。賃金の問題、働く環境、教育プログラム、キャリア設計など、なぜ採用ができないのかは企業によって課題が異なると思います。ですが、まずは、目の前にいる従業員の声を聞いてみてはいかがでしょうか。従業員の考えと経営者の考えは完全には重なりませんが、ベクトルを同じ向きにするためにも、『組織との対話』がより働きやすい環境づくりにつながることでしょう」

 また矢島氏は、今回話題となったツイートでは女性ばかりフォーカスされているが、こうした問題は何も女性に限った話ではないことにも留意してほしいと語る。

「育休は男性でも取得できるものです。厚生労働省の2020年の調査によれば、女性の取得率が81.6%に対して男性は12.7%と、女性のほうがこうした問題にさらされやすいという側面はもちろんあります。しかし、この議論をする際に性別の差ばかり強調してしまうと本質を見失ってしまうように感じます」(同)

 中小企業が抱える深刻な人手不足と、そこに端を発する育休取得問題が改善されない限り、こうした苦肉の策を取らざるを得ない中小企業はほかにも出てきてしまうのかもしれない。

矢島志織/特定社会保険労務士・ISO30414リードコンサルタント

矢島志織/特定社会保険労務士・ISO30414リードコンサルタント

社会保険労務士法人志-こころ-特定社労士事務所の代表。SEとして人事系システム開発に従事後、中小企業や上場企業の人事部を経験し、勤務社労士を経て開所。豊富な現場経験を強みに、企業全体の労務リスクを分析し、人事労務DD、IPO支援、人事制度、就業規則の見直し等を行う。現場の声を聞きながら人事労務セミナー、企業研修講師を行う等多数の講演実績あり。DVD『改正育児・介護休業法でかわる企業がすぐにおさえるべき実務への対応』、著書『IPOの労務監査 標準手順書』(日本法令、共著)など。
公式HP:
KOKORO株式会社

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