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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

コーセー、「コスメデコルテ」大ヒットの裏側…大谷翔平をモデル起用した深いワケ

文=大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科教授
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コーセー、「コスメデコルテ」にモデル起用された大谷翔平
「コスメデコルテ」公式サイトより

 先日、学生から「企業は新商品やサービスの開発にあたり、しっかりと消費者ニーズや競合商品などの調査を実施し、市場に投入しているはずだが、それでもなお失敗してしまうのはなぜか?」といった質問を受けた。つまり、「なぜマーケティングリサーチがうまく機能しないのか?」ということである。

 以下、大ヒットとなっている「コスメデコルテ」のケースを通じて、マーケティングリサーチについて考えてみたい。

「コスメデコルテ」はコーセーが展開するハイプレステージ・ブランドで、同ブランドの美容液「リポソーム・アドバンスト・リペアセラム」が大ヒットとなっている。ご存じの方も多いだろうが、この商品の広告モデルはロサンゼルス・エンゼルス所属の大谷翔平選手だ。

 とりわけワールドベースボールクラシック(WBC)で神がかり的活躍を見せ、以前にも増して大きな注目を浴びる大谷選手を起用すれば、どのような商品でもヒットするだろう。つまり、コーセーは単に“運が良かっただけ”と偶発的な見解を示す方もいるかもしれない。

 もちろん、そうした側面もあるだろうが、そもそもコーセーが大谷選手をグローバル広告モデルに起用すると発表したのは、昨年末のことである。また、女性が購買の主体となる化粧品という商品の広告モデルに男性、しかもスポーツ選手を起用するのは極めて異例のことだが、なぜコーセーにおいて実現できたのだろうか。

大谷選手起用の背景

 コーセーのプレスリリース(2022年12月16日付)によると、まず企業の中長期ビジョンとして「世界で存在感のある企業への進化」を掲げ、「今までの延長線上にない新たな価値の創造」をテーマに、モノづくりや顧客との関係づくりに力を注いるとのこと。

 さらに、今後の新たな顧客づくりの拡大領域として、これまでのグローバル(Global)に、ジェンダー(Gender)とジェネレーション(Generation)を加え、その頭文字である「3G」をキーワードに、ビューティが持つ新たな可能性を探り、独自の化粧文化や価値を創出していく。この活動を大きく進めていくため、世界で活躍し、性別や年齢を問わず多くの方に愛される大谷選手と本契約を結ぶことに至ったと説明されている。

 単に個別の商品のイメージに適した広告モデルという枠組みを超え、明確な企業全体の中長期ビジョン、それを踏まえた新規顧客の設定、商品開発、広告モデルの選定といった見事なフローが確認できる。ちなみに、マーケティングといえば「顧客満足」に関心が集まるが、「新たな価値の創造」による顧客満足の最大化でなければ差別化は難しい。そうした視点からも、「3G」というキーワードは興味深い。

マーケティングリサーチの光と影

 大谷選手の広告モデル起用の背景として、プレスリリースでは上記のように説明されているが、裏話のような興味深い実態が4月6日付日本経済新聞「ヒットのクスリ」に記載されていた。

「3G」に接点を持つ企業アンバサダー(広告モデル)の選定において、当初はユーザーの大半が女性であることも考慮し、社内では韓国の人気グループを推す声が強かったとのこと。しかし、野球人の枠を超えた誠実さ、雰囲気、美しさ、「3G」の観点からも大谷選手が適任であると、社長の小林一俊氏が社内を押し切る形で実現させている。

 確かに、大ヒットとなっている現時点から振り返れば、つまり結果論的視点に立てば、大谷選手は海外での活躍や老若男女を問わない人気の高さなど、「3G」とも見事にマッチしているように思われる。しかしながら、一般的なマーケティングリサーチを実施すれば、そもそも野球選手の起用など候補にすら挙がらず、韓国の人気グループが適しているという結果になったのではないか。

 つまり、形式的なマーケティングリサーチを実施して得られる結果は、「誰からも悪いとは思われない、極めて常識的な答え」にすぎない。表層的な顕在化した消費者ニーズの収集にとどまると言い換えてもよいだろう。例えば、ミュージシャンや芸術家が「みなさん、どのようなものが聴きたい、見たいですか? それに対して我々はアウトプットします」といったスタンスに立てば、誰からも強い感動を得られないだろう。

 もちろん、マーケティングリサーチの重要性を否定するつもりはないが、「なんでもかんでも消費者に聞けばよい、消費者から教えてもらう」といった姿勢は、間違った顧客志向である。

マーケティングリサーチの要諦

 筆者は大学院生の時、指導教官から「調査は事前準備がすべて。徹底的に調べ上げ、自らしっかりと仮説を立てて臨むように」といった助言を受けたことがある。確かに、消費者へのアンケート調査などから新たなアイデアを得ようとしても、なかなかうまくいかない。逆の立場、つまり自らがアンケートに答える立場になった際、自由記述欄に何も書かない人は少なくはないだろう。

 よって、消費者アンケートの実施においても、それ以前にまず市場動向や社内シーズなど様々な情報を踏まえ、自らが真に実現したいと信じるアイデアを構築し、これを仮説として消費者ニーズを踏まえ、検証していくというスタンスが重要である。

「想定を上回る素晴らしさ」「自らは気づかなかったが確かに便利」など、大ヒット商品にはある種の驚きが必須であり、消費者丸投げ的なマーケティングリサーチの実践は、重要な「驚きの創出」を逆に阻害する危険性があることを肝に銘じる必要がある。

(文=大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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