JR東日本の営業エリア内では「最後のSuica空白県」だった青森県と秋田県。両県の一部駅の改札機で今月27日からSuicaが使用できるようになる。一方、JR四国の営業エリアでは愛媛県、高知県、徳島県には交通系ICカード対応の改札機がなく、香川県の約20駅でJR西日本が発行するICOCAが使用できるのみ。そのため、四国では乗客が紙の切符を購入して改札で駅員にスタンプを押してもらう方式が主流だが、なぜ東北と四国の県でこのような差が生じているのか。専門家に聞いた。
青森県と秋田県でSuicaが利用可能となる大きな要因として、大幅なシステム変更があげられる。JR東日本は現在、Suica改札システムについて、これまで改札機で行っていた運賃計算を、ネットワーク通信を介してセンターサーバーで行う方式に変更する作業を進めている。センターサーバー方式の導入により、サービス機能の拡張性向上、スピーディな改修とコストダウン、処理スピードの向上が図られ、Suica対応型の改札機の導入・維持コストが大幅に低減される。
首都圏の駅の改札ではICカードの利用が主流となり、Suica、ICOCA、JR九州が発行するSUGOCAなど鉄道各社発行のICカードの相互利用も可能となった現在、JR四国はICカードを発行しておらず、四国のほとんどの駅でICカードが使用できない。前述のとおり紙の切符が主流だが、無人駅や券売機がない駅も少なくない。ちなみに自動改札機は高松駅、高知駅のみとなっている。
そんなJR四国も、徐々に乗車券販売・改札業務のIT化を進めている。4月1日からは同社のチケットアプリ「しこくスマートえきちゃん」(スマえき)上から事前に普通乗車券や定期券などを購入して、スマホ画面に表示させた切符で改札を通れるようになった。ただ、事前にアプリ上から利用区間分の切符を購入する必要があり、駅ではスマホアプリ上で「使用開始」を押して画面を改札の駅員に見せ、それを駅員が目視するという方式のため(高松駅と高知駅では「スマえき専用改札機」にQRコードをかざすことで通過が可能)、利用区間の運賃計算や支払いが自動化されている交通系ICカードと比べて、その利便性には課題が残っているともいえる。
高額な初期投資費用の問題
なぜ、これまで青森県と秋田県ではSuicaが使えなかったのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。
「JR東日本は今回、『北東北3エリア(青森・秋田・岩手の各県)でのSuicaデビュー』と発表しているので、一部報道では青森・秋田の両県が『Suica空白県であった』と報じられています。重箱の隅をつつくようで恐縮ながら、以前から東北・秋田両新幹線の列車はSuicaで乗車可能で、新青森駅や秋田駅でももちろん利用できました。正確には、Suicaでは在来線の列車を利用できなかったとなります。
これまでなぜ青森・秋田・岩手の3県の北東北エリア内の在来線でSuicaが使えなかったかは、費用面での課題があったからです。ICカードに対応した自動改札機または簡易Suica改札機といったハード面、そして北東北エリア内に対応したSuicaシステムの構築といったソフト面の両面で初期投資費用は高額に上ります。JR東日本は公表していませんが、同様の例としてJR西日本が鳥取県の境線に導入した際、境港駅1駅に簡易Suica(JR西日本はICOCAと呼称)自動改札機1基を設置し、約40両の車両に車載のSuica改札機を1両当たり4基、Suica対応の券売機を導入して費用は約8億円であったそうです。このため、従来北東北エリアの在来線では紙の乗車券が用いられてきました。青森・秋田・盛岡の各駅など、主要駅では自動改札機が導入されているために裏面に磁気面が貼られた磁気乗車券が使用されています」
では今回、青森県と秋田県でSuicaの利用が可能になった背景には何があるのか。
「近年ではキャッシュレス化の進展で電子マネーとしてSuicaを使える店舗が増え、公表はされていませんが、JR東日本など鉄道会社に入るこれらICカード乗車券の決済手数料収入の増加によって導入へのハードルは下がりました。一方で、紙の乗車券はコストが安いとはいえ、回収した磁気乗車券の廃棄または再利用のコストは無視できません。加えて、近年、金融機関各社では大量の硬貨を預金口座に入金する際に手数料を徴収することとなったため、鉄道会社各社はキャッシュレス化を推し進める必要が生じたことも確かです。
そうは言っても依然としてSuicaの導入費用が負担となる鉄道会社は多数存在します。この間隙を縫ってQRコード決済やICクレジットカードによるタッチ決済といったサービスを競合各社が鉄道会社に提案中です。ICクレジットカードによるタッチ決済は南海電気鉄道や福岡市地下鉄で実証実験が行われており、Suicaの強力なライバルとなることでしょう」
(文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)