近年、ビジネス客のみならず、観光客からも支持を集めているビジネスホテル。リーズナブルな宿泊費がウリとなっているが、近年では質の高いサービスを提供するホテルも増えており、ローコストと侮ってはいけないクオリティのビジネスホテルもあるほどだ。ネット上でもおすすめのビジネスホテルをめぐってたびたび激論が繰り広げられている。
たとえば、ドーミーインに対しては「宿泊費は一番高めだけど、大浴場、サウナ、美味しい朝食があって最高」「地元産の食材が楽しめる」と実力を評価する声がみられ、アパホテルには「部屋やアメニティが充実している」、東横インには「土日でも値段が変わらず、東京でも7000円で宿泊可能」といった声がみられる。
それぞれのホテルによって魅力やセールスポイントは異なってくるし、旅行用、出張用など目的によって使い分けができるのかもしれない。そこで今回はホテル評論家の瀧澤信秋氏に、各ビジネスホテルチェーンの魅力と使い分け方法について聞いた。
それまでのイメージを覆す多種多様なビジネスホテルが続々誕生
はじめに、ビジネスホテルをめぐる近年の動向を整理しておこう。
「ビジネスホテルというワードはいわゆる和製英語でして、1920年に開業した京都の『ホテル法華クラブ』が発端。同社は、大正9年(1920年)京都へお寺参りに訪れるゲストのための旅館として創業しましたが、昭和30年代後半にはビジネスホテルという呼称と共に業態転換したといいます。そんなきっかけのビジネスホテルですが、シティホテルとの差別化という側面もある中で発展していきました。シティホテルがダイニングレストランや結婚会場、宴会会場など幅の広いサービスを提供する高級志向であったのに対し、ビジネスホテルは宿泊サービスに特化した宿泊費が安めのホテルとしてニーズを満たしていくようになります。
ちなみに業界内では、ビジネスホテルという呼称はあまり用いられず『宿泊特化型ホテル』と呼ぶ傾向にあります。コロナ前のインバウンド活況以降、外国人観光客需要に応えるために宿泊特化タイプのホテルが爆発的に増え、さまざまな差別化が図られるようになりました。その結果、旧来のビジネスホテルをイメージするような、『安い』『チープ』『泊まるだけ』といった雰囲気とは乖離するような多種多様なホテルが生まれているのです」(瀧澤氏)
「アパ」は実は調度品が高クオリティ、「ドーミーイン」は大浴場や絶品朝食
ではアパホテルの特徴から聞いていこう。
「他社に比べて客室の調度品はクオリティが高めです。アパホテルは、客室の数を多めにして稼働率を上げるという規模の経済ともいうべき戦略上、客室面積は概して狭くなりがちなのですが、そのぶんというか“室内”に注力する印象です。たとえば、幅140cm以上のオリジナルベッド『Cloud Fit』や50インチ以上の液晶テレビの導入などです。ちなみに大型液晶テレビの設置は、多くのビジネスホテルでも見受けられますが、実はアパホテルが先駆け的な存在。これは個人的な感覚ですが、大型テレビが逆に客室へ奥行き感をもちらしている印象も持っています。
また最近では、アパホテルでは1秒チェックインと謳っていますが、アプリを利用することによって、予約からチェックイン、チェックアウトまでの手間が大幅に簡略化されています。アパホテルでは部屋数が多いため、従来だとチェックインの際に行列ができることも珍しくはなかったのですが、ゲスト目線のDX化も進んでいるといえるでしょう」(同)
では次にドーミーインはどうか。
「ドーミーインの魅力といえば、やっぱり大浴場。同社には大浴場専門のプロジェクトチームがあり、全国どこでも均一のクオリティで大浴場を作るノウハウを持っているのです。そのおかげもあってか、浴場に対する評価は総じて高め。内湯、露天風呂だけではなく、サウナ、水風呂まで設置されており、ドーミーインのあくなき探究心が感じられます。
そして朝食もビジネスホテルとは思えない豪華なラインナップとなっています。シティホテルを凌駕するような、地元の食材、新鮮な海鮮まで定番の食材としてバイキング方式で味わうことができるんです。また夜間限定で『夜鳴きそば』というあっさり系の醬油ラーメンの無料提供もしており、お酒を飲んだときのシメとしてぴったり。
宿泊費は繁閑に応じて変動することもありますが、他社に比べると若干高めといえるものの、このように至れり尽くせりの足し算的サービスがドーミーイン最大の魅力といえます。コロナ禍、物価高の影響によりホテル業界ではコストカットが叫ばれていますが、同社から感じるのはサービスをどんどんプラスしていくという姿勢。この期待感こそがドーミーインの高評価を裏付ける一因になっているかと思います」(同)
「東横イン」はよい意味でどこも同じ、「ダイワロイ」はさまざまな業態
続けて、東横インの強みは何か。
「東横インは、全国どこでも室内が同じような内装となっています。しかもそれが、均一感あるクオリティとなっているので、たとえ宿泊先で迷ったとしても東横インにしておけば、事前のイメージ通りの寝床は確保できると感じる方も多いはず。また他のチェーンホテルなどほとんどのホテルがダイナミックプライシング(需給によって価格を変動させること)で料金設定しているのに対し、東横インはポリシーとして『料金の変動はさせない』ことをプライスポリシーとして掲げています。したがって、繁閑に左右されず、ホテル毎に料金が基本的に一律であることも嬉しいところ。
そして、朝食の無料提供もメリットのひとつ。多くの店舗では、おにぎりやパンといった主食に加え、みそ汁、漬物、数種類のおかずと簡素なものになっていますが、ご当地色などバラエティも意識してした店舗もあります。いずれにしても手早く、コスパよく朝食を摂りたい方にはおすすめできますね」(同)
最後にダイワロイネットホテルについて聞いた。
「シティホテルのような広い客室面積がファーストアドバンテージですね。一般的には限られた面積の客室やコスト意識を感じるアメニティ、調度品がビジネスホテルの印象という中で、宿泊特化型ホテルブランドではいち早くハイクラスを意識したブランドイメージを確立してきました。シックな内装となっていて、のびのびと過ごすことができる空間となっているので、旅の疲れを癒したいときにはおすすめといえるでしょう」(同)
賢い使い分け…目的によっておトクになるホテルは変わってくる
最後に、各ホテルの賢い使い分け方法について聞いた。
ホテルブランドによって提供するサービスの種類・内容が異なっていますので、そのときどきで使い分けるのはひとつの利用法かもしれません。たとえば、ドーミーインのように多種多様なサービスを提供しているホテルは、滞在時間が長めの時には満喫できそうですが、その分宿泊費は高めなので、ただ素泊まりできればよいと考えるゲストの中には、サービス過剰と感じる人もいるでしょう。
またホテルの宿泊費にも注目してみましょう。基本的にダイナミックプライシングを採用しているホテルとしては、概してドーミーイン、ダイワロイネットは若干高め。ホテル業界全体で値上げという動きもありますが、人気ホテルほど年々宿泊費を上げている印象です。対して、東横インは先述のようにダイナミックプライシングをとらないので、急な価格変動もありません。また繁忙期でも空室が見受けられるので、当日予約しやすいのもメリットでしょう。アパホテルは、繁閑差の傾向が強いホテルチェーンですが、閑散期や利用客が少ない日曜日や月曜日には、他チェーンと比較してもかなり安くなることもあるので、要チェックです。
会員プログラムのベネフィットなどもあり、お気に入りのチェーンをリピートする傾向は利用者へのリサーチでもうかがえますが、様々なチェーンを体感しておくことで意外な発見があるかもしれません。旅行なのか、出張なのか、たとえば冠婚葬祭で急に出かけるのかというような目的や、どの程度の充実した施設やサービスを求めるのかといった旅のスタイル要望によって、どのチェーンホテルをセレクトするかといった目線も、進化するホテルライフのアップデートという点においても役立つことでしょう」(同)
(取材・文=文月/A4studio、瀧澤信秋/ホテル評論家)