大型連休が始まったので、新書が描く旅行業界の内幕に迫ってみたい。このところ、ホテルの内幕に迫った新書が相次いでいる。昨年9月に2020年東京五輪開催が決定し、続く10月にホテルの食品偽装問題が相次いで発覚したことにより、ホテルの内情を暴露する新書企画が動き、ここにきて店頭に並び始めたということのようだ。
2月に出版された『じつは「おもてなし」がなっていない日本のホテル』(桐山秀樹/PHP新書)は、ホテル関係の著書も多いノンフィクション作家が、ホテルマンたちの証言を基にコストカットの嵐が吹き荒れる高級ホテルの劣化を嘆く。
安心、安全、上質で高級を追求するはずのシティホテルに昨年秋、次々と「食材偽装」が発覚。日本ホテル協会の調べによると、同協会に加盟する242ホテルの約3分の1に当たる84ホテルが虚偽表示を行っていたことが発覚した。
感動の“サービス伝説”を誇っていたザ・リッツ・カールトン大阪でも食材偽装が常態化していたことが明らかになった。ホテルのブランドを保つために尽力すべき「総支配人」は本社の部長、課長クラスで、実際にはほとんど権限のないお飾りにすぎない。スタッフにも、契約社員やアルバイトが急増。「食材偽装が発覚する前から、ザ・リッツ・カールトン大阪における現場スタッフの入れ替わりの激しさは、ホテル業界内でも知る人ぞ知る評判になっていた」という。
●食材偽装が相次いで発覚した鉄道系ホテル
ザ・リッツ・カールトン大阪は阪神電気鉄道の子会社である阪神ホテルシステムズが経営を行っており、ほかにも食材偽装は、近鉄ホテルシステムズ、名鉄グランドホテル、東急ホテルズなどに相次ぎ、鉄道系ホテルチェーンが目立つ。
「(食材偽装問題の背景には)鉄道系ホテルチェーンの購買担当者が採用した“ネットによる食材の仕入れシステム”があった。従来、食材の仕入れに関しては、ホテルの購買担当者が卸売業者とフェイス・トゥー・フェイスで行い、高級ホテルが使うにふさわしい食材をシェフや調理部長と相談して仕入れていた。それをネットによる購買システムに替えたことから、少しでも安ければ、過去に取引実績のないネット専門の卸売業者も参入できるようになった」
「高級ホテルでは従来、食材にかける原価率が20%を割ると、『味が落ちる』といわれる。ところが昨今では、原価率が10%を切っていても、上層部からさらなる削減を求められるのが現実だという」
そもそも鉄道業は、管理を得意とする人材が重用される世界。ホテル運営会社の経営陣に送り込まれる人材も、本社を意識してコストカットばかり要求する。こうしてホテルの総支配人の仕事は会議の連続になってしまう。
「朝から晩まで会議をやって、それに拘束されています。社長や総支配人ばかりではありません。現場の各部門の部長や部門長も会議に出席させられ、3~4時間かけて親会社の人間に説明をしなければならない。親会社側の人間はホテルについて素人なのに、あれこれと口を挟む。それに対して、現場のホテルマンが反論し、なぜそうなるのか、ホテル経営のイロハのイから説明しなければなりません」