第105回全国高校野球選手権、通称「夏の甲子園」は、異常ともいえる猛暑のなかで行われ、初めての試みとして「クーリングタイム」を導入するなど、運営側は暑さ対策を練っているが、それでも熱中症とみられる症状で体調を崩す選手も続出している。
そんな暑さのなかでも連日熱戦が繰り広げられ、当日チケットが売り切れる日も出るほどの盛況となっている。テレビやインターネット配信で試合を視聴している人も多いようで、SNS上でも各試合に関する実況や感想を伝える声や応援メッセージが飛び交っている。
そんななか、選手以外に熱い視線が注がれているのが、阪神園芸だ。たとえば大会8日目の8月13日、花巻東高校(岩手)対クラーク記念国際高校(北北海道)との試合中、8回のクラークの攻撃中に、強い雨のため約1時間半の中断を余儀なくされた。
土砂降りの雨で内野グラウンドは水に覆われ、試合再開は困難かと思われた。だが、雨が上がると、グラウンド整備を担当する阪神園芸のスタッフが復旧作業のためにグラウンドに姿を現した。すると、甲子園の観客席からは歓声があがり、SNS上でも「待ってました阪神園芸」「阪神園芸が本格始動」「阪神園芸の神整備が見られる」など阪神園芸に期待する声があがった。
阪神園芸の熟練のスタッフは、水没状態だったグラウンドを30分かからずに試合ができる状況にまで復旧させただけでなく、ライン引きまで完了させた。すると再び観客席から阪神園芸スタッフをたたえる歓声があがったほか、SNS上では「NHKは試合のハイライトより阪神園芸の整備を中継してほしい」との要望が出るなど、その神業に多くの高校野球ファンが賛辞を送った。
さらに、台風7号が接近した15日には予定されていた全4試合が中止となり、各試合は順延。このときもグラウンド一面が水に覆われるほどの雨が降ったが、翌16日には何事もなかったかのように朝8時から試合が始まった。するとSNS上では、「台風が来た翌日に朝8時から試合ができるって阪神園芸のなせる神業」など、テレビに映らないところでグラウンド整備を行った阪神園芸に想いを馳せる声が広がった。
そんな阪神園芸に、Business Journal編集部は話を聞いた。
――SNS上では阪神園芸さんの“神整備”が大きな話題となっており、さまざまなメディアもその声を取り上げています。御社にも直接、その声は届いているのでしょうか。
阪神園芸広報担当「特にこちらに声が届いているということはないですが、話題になっていたり、さまざまなメディアで記事にしていただいていることは把握しています」
――水没状態のグラウンドを30分足らずで復旧させた腕前に、称賛の声が相次ぎました。特に13日には整備した直後に再び雨が降る、という状況もありました。何度でもすぐに整備に出られる体制を作られているということでしょうか。
広報担当「そうですね。グラウンド整備に出るかどうかは、天気やさまざまな状況を見て、現場にいるグラウンドキーパーや主催者が判断することになりますが、スタッフは準備はしていると思います」
――15日の台風接近に伴う中止の際、内野グラウンドを覆うビニールシートをかけなかったということですが、それでも16日の朝一の試合には復旧させていました。
広報担当「ビニールシートをかけなかったのは、台風の暴風でシートが飛ばされることを避けるための判断だと思います」
――降雨後のグラウンド整備の際、スポンジのようなものを置いている様子を見かけますが、何か特別なスポンジを使用されているのでしょうか。
広報担当「吸水に特化したスポンジではありますが、特別製というわけではなく、普通に購入できる吸水スポンジです」
――グラウンド整備にかかる方は何人ぐらいいらっしゃるのでしょうか。
広報担当「この時期はアルバイトにも入ってもらっているのですが、基本的は十数名で回しています」
――グラウンド整備をしているスタッフの中に女性の姿も見かけました。女性スタッフは何人くらいいらっしゃるのでしょうか。
広報担当「1名だけです」
――昨年の全国高校女子硬式野球選手権決勝で、初の女性グラウンドキーパーが誕生したとの報道がありましたが、その方が今夏の甲子園でもグラウンドキーパーとして登場していらっしゃるということでしょうか。
広報担当「そうですね。甲子園の整備だけの担当というわけではなく、ほかの部署やほかのサポート施設の担当もしており、月に4~5回は甲子園の整備にもあたっているという状態です」
――ありがとうございました。
高校球児憧れの地である阪神甲子園球場を守る阪神園芸に魅了されている人は少なくない。今夏の甲子園で、その神業はあと何回見ることができるだろうか。
(文=Business Journal編集部)