JR東日本が7月上旬、2022年度における新幹線と在来線の1キロ当たりの1日平均乗客数「輸送密度」を公表した。69路線203区間のうち、政府が「存廃検討」の目安にしている1000人未満だったのは30路線55区で、ローカル線を中心に廃線の危機が指摘されている。実際に地方の赤字路線・区間が廃線となることはあるのか、専門家に見解を聞いた。
「輸送密度」は、鉄道の輸送効率を示す指標としてJR各社が公表しており、国土交通省は輸送密度1000人未満の線区について、より厳しい状況にある線区に優先順位をつけながら、バスなどへ転換すべきかの協議を促す方針を示している。
今回のJR東日本の発表によると、コロナ禍の収束ムードに伴って人の移動が増加したことから大半の路線で輸送密度は前年度から回復した。だが、ローカル線はほとんど回復せず、前年度に輸送密度1000人未満だった30路線56区間のうち、1000人以上に回復したのは1区間だけだった。
さらに「東日本一の赤字路線」となっている陸羽東線の鳴子温泉―最上間の44人(コロナ禍前の2019年度から45%減)をはじめとした、9路線9区間は輸送密度が100人未満の「限界鉄道」状態に。千葉県南部を走る久留里線の久留里―上総亀山間は54人(同36.5%減)で、同区間はJR東日本が不採算を理由に自治体にバス路線への転換を打診し、すでに協議に入っている。これまでJR東日本で営業中の路線を廃止した前例はないが、もし廃線が決まれば、それをきっかけに全国で不採算の赤字ローカル線の整理が進む可能性がある。
今回のJR東日本の発表から見える現状について、鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はこのように分析する。
「新幹線や首都圏の通勤路線各線では、コロナ禍で輸送人員が大幅に低下していた状況からの回復ぶりを示す一方、地方の路線は回復どころかさらに減少しており、二極化が進んでいることがうかがえます」(梅原氏)
3割近い30路線55区間が平均利用者1000人未満で「存廃検討」レベルと各メディアでも報じられているが、その事情はさまざまのようだ。
「輸送密度1000人未満の路線・区間は、多くが首都圏以外の地域にありますが、一部は首都圏にもあります。これらのうち、4区間が該当する只見線は、2022年10月1日から福島県内の区間において、維持管理費を福島県と会津17市町村が負担することで存続が決まりました。また、上越線の越後湯沢―ガーラ湯沢間も該当していますが、これは実質的に上越新幹線のメンテナンス車両用の線路で、季節営業のために輸送密度が悪くなっているだけなので廃止の議論は出ていません」(同)
そうした中で、先述した久留里線の久留里―上総亀山間などのように廃線の議論が始まっている区間もあるが、実際に廃線に向かうことはあるのだろうか。
「JR東日本は2022年7月28日と11月24日に、利用者の少ない路線・区間の経営情報を公開し、リストに掲載された35路線66区間について、『持続可能な交通体系について建設的な議論』をするべく、地元との話し合いを求めたいとの意志を示しました。利用者が少ないうえに多額の営業赤字を計上し、好転の見込みもないからです。輸送密度100人未満の区間については、極限まで利用者の少ない区間です。ただし、久留里線の久留里―上総亀山間のような行き止まりの路線の末端区間は別として、都市間を結ぶ路線の県境区間が該当している場合も多く、判断は難しいでしょう。今後、JR東日本が自社にとってこれらの区間が必要かどうかを検討したうえで、廃止の協議に入ると思います」(同)
輸送密度1000人未満の「存廃検討」レベルといっても事情はそれぞれで、自治体の負担によって存続するケースもあるが、少なくとも「このまま多額の赤字を出しながら何となく続けていく」という選択肢はなくなっていくだろう。今後さらに過疎化が進んでいくとみられる地方の交通手段をどのように考えていくのかといった点も含め、鉄道業界は大きな転換点を迎えることになりそうだ。
(文=佐藤勇馬、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)