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「売上500万円を」ビッグモーター、ノルマ依存経営が復活…給与補填を事実上撤回

文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
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ビッグモーターのHPより

 自動車保険の保険金水増し請求問題に揺れる中古車販売大手ビッグモーターが、社内に向けて販売店一店舗当たり500万円、サテライト店については250万円の売上の上積みを要求していたことがわかった。「FNNプライムオンライン」「日テレNEWS」が伝えている。ビッグモーターでは社員に対し厳しいノルマが課され、達成できないと役員や上司から罵詈雑言を浴びせられたりパワハラ行為を受けたりということが常態化し、それが社員を数多くの不正行為に走らせていた実態が明らかになっている。経営陣の謝罪会見からわずか1カ月で、そうしたノルマ依存経営の復活を示唆するかのような動きをみせるビッグモーターに、再建の可能性はあるのだろうか――。

 昨年に不正が発覚して以降、沈黙を守っていたビッグモーター経営陣は7月25日、騒動後初となる会見を実施。それから1カ月以上が経過したが、不正の影響は広まるばかりだ。すでに国土交通省は路運送車両法に基づきビッグモーターへの立ち入り検査を始めているが、同社が下請け業者に不利益を与えていた可能性があるとして公正取引委員会が下請け法違反容疑で調査を開始。同社は下請け会社に対して従業員や家族の保有する車の車検時期など個人情報の提供を強く要求したり、無償での作業を強要したりしていた事実が発覚していたが、1日付共同通信記事によれば、店舗周辺の草むしりをさせたりもしていたという。

 このほか、同社が提供する撥水加工「ダイヤモンドコーティング」をめぐり、営業担当者がコーティングを望んでいない顧客に対し車の販売は困難だと伝え、顧客から約7万円のコーティング料金を取って販売したものの、コーティングを施さないまま納車した事例もあったという(1日付「FNNプライムオンライン」記事より)。先月31日には、同社の社員が中古車買い取りの見積もりのために訪問した顧客宅にて、同業他社の社員に暴行をくわえた容疑で逮捕されるという事件も起きている。

 不正の影響は他業界にもおよんでいる。大手損害保険会社の損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険はビッグモーターと自動車保険の代理店契約を結び、ビッグモーター店舗を通じて自動車保険を販売していたが、3社ともに契約終了を決定。3社は自動車事故を起こした保険契約者をビッグモーターの修理工場へ仲介していたが、ビッグモーターによる修理費の水増し請求によって自動車保険を使うことで等級が下がり、保険料が上がった契約者もいる。事態を重く見た金融庁は上記3社を含む損保7社に報告徴求命令を出したが、特に損保ジャパンを重点的に調査している。

 損保ジャパンは不正の舞台となったビッグモーターの板金部門(自動車修理部門)に2011年から計37人に上る出向者を送り込んでいた。昨年の不正発覚を受けて三井住友と東京海上がビッグモーターの修理工場への、自動車事故を起こした保険契約者の仲介を停止していたなか、損保ジャパンのみが再開し、それによってビッグモーターを窓口とする自社の自動車保険の契約数を増やしていた。昨年7月に開かれた損保ジャパンの役員会議では、白川儀一社長がビッグモーターの不正の可能性を認識したうえで取引再開を促す発言をしていたとも伝えられており、経営責任を問う声も高まっている。

現実問題として給与補てんを半年間も続けることは困難

 そんなビッグモーターだが、先月31日に和泉伸二社長が社員に宛てたメールで、今後も給料の補てんを続けるには販売店一店舗当たり500万円、サテライト店については250万円の売上の上積みが必要になると訴えた。同社は8月以降の半年間について、営業成績に関係なく4~6月の歩合給と同等の金額を支払うと社員に通知していたが、今回のメールには「継続した補てんをする事が厳しくなると懸念しています」(2日付「「日テレNEWS」より)と書かれており、さらに「全員で会社を守り、未来に繫げるしかありません。ここからは存続をかけた本気の戦いがはじまります」(同)と決意が込められていたという。

「社員にとってビッグモーターで働く最大の動機は月平均100万円といわれる高額な給与であり、その旨味がなくなれば退職者が続出することは目に見えている。経営陣としては会社を再建するにせよ、他社へ売却するにせよ、今いる社員をつなぎとめる必要があり『給与補てん』を言い出したわけだが、売上が激減するなかで先月には銀行団から借入金90億円の借り換えに応じない旨を伝えられており、資金繰り悪化は必至。現実問題として、今のまま給与補てんを半年間も続けることは難しく、今回の社長のメールは事実上、『給与補てんという約束は撤回します』と言っているのに等しい。そもそも給与補てんを約束する旨の契約書を会社と社員の間で取り交わしているわけではないだろうし、補てん対象は歩合給の部分なので、会社が『やっぱり払わない』といえば、それでおしまい。ビッグモーターの社員は、経営陣の言うことを安易に信用しないほうが身のためだ」(中古車業界関係者)

 また、別の中古車業界関係者はいう。

「今、経営陣がすべきことは、将来にわたり安定的に売上・利益を上げる新しい仕組みをつくる経営改革。そうした必要な手を打たずに、やみくもに社員に『売上を上積みしろ』『さもないと給与は補てんできない』と言っているわけで、相変わらずノルマに依存する経営しかできないというのは、あまりに能がなさすぎる。加えて、『本気の戦いがはじまります』などと精神論を振りかざすばかりというのはブラック企業の典型例ともいえ、今の経営陣のまま会社を再建するのは絶望的といっていい」

 もしビッグモーターが社員への給与補填を撤回した場合、給与補填は会社による口約束みたいなものだったとしても、社員が「給与補填されることを見込んで会社に残ったにもかかわらず、補填が一方的に撤回されて、不利益を被った」「債務不履行だ」などと法的手段に訴えた場合、それが認められる可能性はあるのか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。

「歩合給分を補填するということかと思いますが、就業規則や給与規定などで『歩合給』の計算方法が決められているところ、もともとの方針が『恩恵』として不祥事前の実績を参考に歩合給を払う、という程度のものであったならば、『やっぱりやめました』程度の話なので、給与不払いや債務不履行の話にはなりにくいと思われます。朝の朝礼などで『今期は会社がもうかっているから規定以上の賞与を払う』と言っていたところで、『やっぱりやめました』程度の話です」

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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