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ビッグモーター、いまだに月100万円の高額給与支払い…直近は黒字、自主再建へ

文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
ビッグモーター、いまだに月100万円の高額給与支払い…直近は黒字、自主再建への画像1
ビッグモーターのHPより

 自動車保険の保険金水増し請求問題に揺れる中古車販売大手ビッグモーターが、経営陣が謝罪会見を開き次々と不正行為が明るみに出始めた7月以降も、一部社員に月100万円レベルの高額な給料を支払っていることがわかった。不祥事を受け販売が低迷するなか、同社は今月、銀行団から借入金90億円の借り換えに応じない旨を伝えられており、資金繰り悪化への懸念が高まっているが、なぜ同社は今必要とされる支出削減に逆行するかのような施策をとっているのか。そして、同社破綻・自主再建の可能性をどう読むべきなのか。専門家に聞いた。

 昨年に不正が発覚して以降、沈黙を守っていたビッグモーター経営陣は先月25日、騒動後初となる会見を実施。それから3週間が経過したが、同社内で行われていた不正行為に関する報道はあとを絶たない。

 たとえば、車の購入者が代金の約100万円を現金で支払おうとしたところ、店舗の営業担当者から総支払額は変わらないので1年だけローンを組むよう説得され、結果的に120万円を支払う羽目になったり、新品タイヤなど30万円相当のオプションを無償で付けるのでローンを組むよう言われた客が、約束を反故にされオプション分を有償で契約させられたケースがあったという(11日付「AUTOCAR JAPAN」記事より)。

 また、ビッグモーターに車を売却して3カ月が経過しても名義変更の知らせが来ず、使用者も保管場所も変更されていなかったり、売却した車について冠水した過去はないにもかかわらず、冠水した跡があるとして突然700万円の賠償請求訴訟を起こされたり、店舗で売却のキャンセルを告げると店長から罵声を浴びせられるようなケースもあったという(11日付「弁護士ドットコムニュース」記事より)。

 このほか、一部の修理工場では顧客から車検で預かった車両について替える必要のない部品を見積もりに計上し、その部品を交換しないまま車両を顧客に返却し、新品の部品を転売(9日付「FNNプライムオンライン」記事より)。中古車の一括査定サイトでは、登録した顧客のメールアドレスや電話番号などを入手し、その顧客になりすまして勝手に登録を解除する一方で顧客に接触し、他の中古車買取業者との価格競争を回避する「他社切り」という信じがたい行為まで横行していたという(別の9日付「FNN」記事より)。8日付「FRIDAY DIGITAL」記事は、毎年大量に採用する新入社員に半ば強制的にビッグモーターで車を購入させ、金利9.9%・120回ローンなどのローンを組ませ、自社で扱う任意保険にも加入させることで、多額の手数料収入を得ていたと報じている。

平均年収1109万円

 そんなビッグモーター社員の給与は高額であったことが知られている。ある転職サイトでは

「社員の平均年収1109万円」
「【平均年収モデル】部長:年収3,668万円(38歳)」

などと明示して募集をかけていたが、中古車業界関係者はいう。

「不正が社会問題化した7月以降も、100万円単位の月給をもらっている社員も珍しくない模様。これは、同社が8月以降の半年間について、営業成績に関係なく4~6月の歩合給と同等の金額を支払うという措置を取っているため。社員の流出を避けるためだろうが、顧客に対してすら平気で嘘をつきまくっていた会社なので、資金繰りが悪化してくれば、この措置だってあっさり撤回する可能性もある。転職を検討している社員には、この『歩合給保証』を信じて会社にとどまり転職活動に乗り遅れるようなことがないようにしてほしいものだ」

経営破綻or自主再建のシナリオを検証

 前述のとおり同社は今月、銀行団から借入金90億円の借り換えに応じない旨を伝えられており、現在の銀行借入残高は数百億円前後とみられていることから、販売が低迷すれば資金繰りが行き詰まる懸念も指摘されている。早急な支出削減の必要性に迫られるなか、社員に高額な給与を支払っている余裕はないように思われるが、経営戦略コンサルタントで百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。

「高額な給与を払い続ける理由は、現時点で経営陣が『ビッグモーターは経営再建可能だ』と判断しているからだと思われます。中古車市場で15%と最大のシェアを持ち、全国に300店舗を抱える巨大企業ですから経営再建にあたっては社員の力が絶対に必要です。一方で、日本全体で人手不足が問題になっています。まだ若い社員を中心に同業他社に転職する従業員も今後は増えていくと思われます。ここでポイントとしては、今の状態ではビッグモーターは新規で採用をするのが非常に難しいということです。そのため全力で今いる従業員を引き留めなければならない。そのためには、まず社員の動揺を抑えることから始める必要があります。ビッグモーターによれば7月は売上が半減したということですが、来年1月まで歩合給を据え置くという通達をしたというのは、社員の退社の流れができないように先回りして手を打ったということでしょう」

 気になるのはビッグモーターの今後の行く末だ。不祥事の影響で中古車の販売・買い取りが以前より大幅に減ってはいるものの、実は直近7月の経常利益は黒字を維持しており(16日付日刊自動車新聞記事より)、数百億円程度の現預金や流動資産を有しているとみられる(14日付日本経済新聞より)。

「報道によればコンサル大手のデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーが経営再建のために雇われたといいます。コンサルの立場で見ればビッグモーターを再建させるオプションは、まだかなり幅広く存在しています。まず注目すべきは、ビジネスが半減したとはいえ半分残っているという点です。ビッグモーターは業界シェア15%のトップ企業なので、中古車在庫を非常に多く抱えています。その中古車は今、消費者からの人気が高まっています。中古車というものは一つひとつが世の中にそれしか存在しない商品です。企業の体質や整備の不正を消費者は気にしている一方で、欲しい車がいい状態で在庫になっていて、手ごろな予算の範囲内で手に入るのであれば消費者は購入するでしょう。同様に中古車の売り手にとっても、きちんと買ってもらえるのであれば高値で買ってくれる会社を選びます。その特性があるためビッグモーターは不祥事があってもビジネスが半分残っているわけです。

 とはいえ、いずれビジネス規模が半減したことを前提にさまざまなコストカットをしていかなければならないのですが、安易に給与等に手をつけると従業員の間に不安が伝播して自滅することもあり得ます。企業再建についてのノウハウを持つコンサルを起用したというのは、その意味でも正しい打ち手だと思います。

 銀行が今回、90億円の借り換えを拒否したとはいえ、基本的には600億円を融資した企業ですから銀行もビッグモーターの倒産を望んではいません。当面は手持ちの300億円以上の資金を使って自力で経営再建計画を検討させ、その様子をみながら今後の取引スタンスを固める腹だと思われます。

 コンサルとしてデロイトが今後、どのような戦略を提言していくかはまだわかりませんが、一番価値が高い形で再建したいのであれば、比較的早い段階で経営陣や幹部陣を一新する形で競合他社の傘下に入るという選択が良いのではないでしょうか。競合他社から見ても、中古車販売に新規に参入しようと考える流通企業にとっても、全国にこれだけの店舗網を持つ企業が手に入るというのはチャンスです。経営層が入れ替わり、企業ブランドもリニューアルすれば、数年かけて高収益企業に再生することは十分に可能です。シナリオとしては、今後半年間、コンサルの指導を仰ぎ自力再建を模索しながら、最終的には他社からの資本提携ないしは買収を決断し、そのタイミングでブランドを変えて生き残りを図っていくというシナリオが一番有力なのではないでしょうか」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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