最大手ビッグモーターによる自動車保険の保険金水増し請求問題で揺れる中古車販売業界で、同業のグッドスピード(本社・名古屋市)も同様の行為を行っていた疑いが浮上している。グッドスピードは23日、損害保険会社から過去の保険金請求について調査協力を求められ対応していると発表した。ビッグモーターは「平均年収1109万円」などと高額な報酬を提示して人材を募集していたが、グッドスピードも求人サイト上で「未経験スタートでも月収90万円可能」「11,000,000円 /入社3年目・店長補佐」などと謳っており、ビッグモーターとの共通点が指摘されている。非上場のビッグモーターと異なりグッドスピードは東証グロース市場に上場しており、今後説明責任が問われそうだ。
2002年創業のグッドスピードは主にSUV(多目的スポーツ車)の中古車販売を手掛け、新車販売、買取、整備・板金、ガソリンスタンド、保険代理店、レンタカーなども事業領域としている。22年度の東海エリアにおけるSUV販売台数は7000台以上にのぼり、中古車・登録済未使用車など4000台以上の在庫を有し、東海エリアを中心に40以上の販売・車検・修理などの拠点を展開。同社HPによれば、従業員数は704名(グループ連結:22年9月30日時点)、22年9月期の売上高は561億円で、過去8年間で5倍以上に急伸している。
ビッグモーターの不祥事で浮き彫りになったのが、同社で常態化していたパワハラや過酷なノルマ主義だ。板金部門では修理1台当たりの工賃と部品から得る粗利の合計金額が14万円になるようノルマが設定され、店舗の営業担当者は買い取りと販売の月間台数5台ずつというノルマが設定されており、達成できないと上司から厳しく叱責。役員が月1回の頻度で店舗を回り掃除や整理整頓の状況をチェックする「環境整備」が行われ、不備が見つかると店長にその場で降格が命じられるため前日に深夜まで掃除をしたり、グループLINEで幹部が店長に罵詈雑言を浴びせたりすることが日常的に行われていたことも明らかになっている。
<仕事とプライベートの両立を大事に>
一方、グッドスピードのHPを見てみると、
<グッドスピードは仕事とプライベートの両立を大事にしています>
<社員の平均年齢は30歳ほどで比較的若い層が多い比率となっています。年が近いので意見がしやすかったり、仕事とプライベート関係なくフラットな関係を作ることができています>
<社内イベント
入社1年お疲れ様旅行(新卒入社社員のみの福利厚生)
社員旅行
クレド会(新卒1年目~3年目対象)>
といった記述がみられ、和気あいあいと働く社員たちの写真も多数掲載されている。また福利厚生として「提携美容室割引」「オーダースーツ購入割引」「奨学金手当」といった項目もみられる。人材サービス会社社員はいう。
「『採用ページに社内BBQパーティーの写真などがある会社は要注意』とよく言われるが、その観点で見るとグッドスピードもやや気になる点はある。たとえば、会社の公式YouTubeチャンネルに、やたらと若い女性社員が出演している点は少し引っかかる。ただ、『永年勤続表彰(報奨金…10年:50,000円、15年:100,000円、20年:150,000円)』や『確定拠出年金制度』『退職者カムバック制度』などを設けており、社員に長く働いてもらうことを想定した経営がなされている様子もうかがえる」
ビッグモーターほどの悪事はやっていない?
ビッグモーターをめぐっては、顧客や取引先である損保会社、下請け業者への信じがたい悪行も次々と明らかになっている。同社は、顧客から事故車の修理を請け負った際に、故意にゴルフボールを入れた靴下を車体に打ちつけて傷を付けたり、ドライバーで車体に引っかき傷を付けたりし、損害保険会社に自動車保険の保険金を水増し請求していたことが広く知られている。これ以外にも、店舗の営業担当者が顧客にローンの仮審査だと説明しながら、勝手に信販会社の本契約を進め、顧客が慌てて解除すると担当者が顧客の自宅に押し掛け、2時間にわたり暴言を浴びせるということも行われていたことが発覚(3日付読売オンライン記事より)。
車の購入者が代金の約100万円を現金で支払おうとしたところ、店舗の営業担当者から総支払額は変わらないので1年だけローンを組むよう説得され、結果的に120万円を支払う羽目になったり、新品タイヤなど30万円相当のオプションを無償で付けるのでローンを組むよう言われた客が、約束を反故にされオプション分を有償で契約させられたケースも(11日付「AUTOCAR JAPAN」記事より)。ビッグモーターに売却した車について冠水した過去はないにもかかわらず、冠水した跡があるとして突然700万円の賠償請求訴訟を起こされたり、店舗で売却のキャンセルを告げると店長から罵声を浴びせられるようなケースもあったという(11日付「弁護士ドットコムニュース」記事より)。さらには、中古車の一括査定サイトでは、登録した顧客のメールアドレスや電話番号などを入手し、その顧客になりすまして勝手に登録を解除する一方で顧客に接触し、他の中古車買取業者との価格競争を回避する「他社切り」という行為まで横行していたという(9日付「FNN」記事より)。
中古車業界関係者はいう。
「ビッグモーターがやっていた行為というのは、業界関係者でも驚くほど酷いレベル。グッドスピードも保険料の水増し請求をやっていた疑いがあるとのことだが、さすがにここまで悪質なことはやっていないだろう。ただ、事業内容やHPのデザイン、さらには社名の付け方など、ビッグモーターに似ている部分もあり、パワハラやノルマなど社風的な面はさておき、ビジネスモデルという観点で最大手のビッグモーターのやり方をそれなりに研究して参考にしていたように感じる」
中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏も7月18日付当サイト記事で次のようにコメントしていた。
「自動車保険が適用される修理の際に、整備工場が修理見積を多少高めに算出することは、ないといえば嘘になるかと思われます。当初の想定より部品代が高くついたとか、問題ないと考えていた箇所も修理が必要だったなどという正当な理由で金額が上がることも当然ありますし、そうなることをあらかじめ見越して見積額を高めに設定するという場合もあります。ただそれは、あくまでモラル的に容認される範囲内であって、保険会社も暗黙の了解というか、忖度できる程度のことは大目に見てくれるという認識がお互いにあるでしょう。
ビッグモーターの件について、大きな問題と考えられるのは、故意に損傷を広げて請求額を上げるなどの悪質な不正行為が全社的に行われていたことです。個人経営や中小企業の整備工場が、さすがにそこまでのことはやらないと思います。不正が明るみになった時のリスクも考えるし、保険会社との信頼関係もありますから」
「未経験スタートでも月収90万円可能」
グッドスピードとビッグモーターの共通点として気になるのが、人材募集において高い年収を謳っている点だ。ビッグモーターは転職サイトなどの募集要項で
「平均年収:1109万円」
「月給24万2900円~200万円(一律手当含む)+インセンティブ+役職手当(最大20万円)+賞与年2回」
「【モデル年収例】
年収4090万円/38歳/営業本部
年収3448万円/32歳/店長
年収2005万円/32歳/営業主任
年収1758万円/27歳/営業」
などと記載していた。一方のグッドスピードも
「未経験スタートでも月収90万円可能」
「想定年収 3,600,000円 ~ 12,000,000円」
「年収例
7,000,000円 / 入社2年目・チーフ
11,000,000円 / 入社3年目・店長補佐
8,000,000円 / 入社4年目・店長」
などとアピールしているのだ。中古車業界関係者はいう。
「学歴や経歴問わず、実力と努力次第で1000万円クラスの高収入を実現するのも夢ではないというのは、中古車業界の良い部分。ビッグモーターの待遇はちょっと異常だが、グッドスピードの想定年収の上限が1200万円というのは、業界的にはそれほどおかしな数字ではない。ただ、HPでは『社員を大事にするホワイト企業』という面を強調しているように感じるが、そもそも中古車販売業界というのは競争が激しく厳しい世界なので、入るのに覚悟が必要なのはいうまでもない。ノルマがないというのはあり得ないし、これだけ急成長を遂げている若い企業なので、社員はそこそこ大変ではあるだろう」
果たしてグッドスピードは保険料水増し請求を行っていたのか。当サイトは同社に問い合わせ中だが、回答を入手次第、追記する。
(文=Business Journal編集部)