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ビッグモーター、パワハラ依存経営が復活…社員に「社内情報漏らしたら懲戒処分」

文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
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ビッグモーターのHPより

 自動車保険の保険金水増し請求問題に揺れる中古車販売大手ビッグモーターが、全社員に対して、社内の情報を外部に漏らさない旨を約束させる誓約書への署名を要求していることがわかった。誓約書では業務用パソコンや電子メールを監視することへの同意も求めており、違反した場合は懲戒処分や損害賠償請求を行うとしている。ビッグモーターをめぐっては不祥事の発覚後、会社側が社員に宛てたメールの内容や社員による不正行為に関する情報が連日にわたり報道されており、情報統制を強化しようとする姿勢が伝わってくる。一方、不都合な情報が外部に知られないように社員への締め付けを強めているとの批判も広まっている。ビッグモーターに見解を聞いた――。

 昨年に不正が発覚して以降、沈黙を守っていたビッグモーター経営陣は7月25日、騒動後初となる会見を実施。それから1カ月半以上が経過したが、不正の影響は広まるばかりだ。今月8日には、癒着が指摘されていた大手損害保険会社、損害保険ジャパンの白川儀一社長が辞任すると発表。損保ジャパンは不正の舞台となったビッグモーターの板金部門(自動車修理部門)に2004年から約20年にわたり出向者を送り続けていた。昨年の不正発覚を受けて三井住友と東京海上がビッグモーターの修理工場への、自動車事故を起こした保険契約者の仲介を停止していたなか、損保ジャパンのみが再開し、それによってビッグモーターを窓口とする自社の自動車保険の契約数を増やしていたが、白川社長は8日の会見で「取引の再開を判断した」と自身の関与を認めた。

 すでに国土交通省は路運送車両法に基づきビッグモーターへの立ち入り検査を始めているが、同社が下請け業者に不利益を与えていた可能性があるとして公正取引委員会が下請け法違反容疑で調査を開始。同社は下請け会社に対して従業員や家族の保有する車の車検時期など個人情報の提供を強く要求したり、無償での作業を強要したりしていた事実が発覚していたが、1日付共同通信記事によれば、店舗周辺の草むしりをさせたりもしていたという。

給与補填の約束、早くも反故か

 ビッグモーターの不正行為は顧客にもおよんでいた。消費者庁は5日、2022年度に同社に関する相談が約1500件も寄せられていたと発表したが、同社が提供する撥水加工「ダイヤモンドコーティング」をめぐり、営業担当者がコーティングを望んでいない顧客に対し車の販売は困難だと伝え、顧客から約7万円のコーティング料金を取って販売したものの、コーティングを施さないまま納車した事例もあったという(1日付「FNNプライムオンライン」記事より)。

 また、トヨタ「クラウン」の最上級クラス「RS Advance」の購入を希望し購入契約の締結と頭金の支払いも済んだ顧客に対し、営業担当者が5段階下のクラスの車を納車しようとしていたこともあったという(5日付「FNNプライムオンライン」記事より)。

 同社社員のよる悪質な行為は枚挙に暇がない。車の購入者が代金の約100万円を現金で支払おうとしたところ、店舗の営業担当者から総支払額は変わらないので1年だけローンを組むよう説得され、結果的に120万円を支払う羽目になったり、新品タイヤなど30万円相当のオプションを無償で付けるのでローンを組むよう言われた客が、約束を反故にされオプション分を有償で契約させられたケースも(8月11日付「AUTOCAR JAPAN」記事より)。ビッグモーターに売却した車について冠水した過去はないにもかかわらず、冠水した跡があるとして突然700万円の賠償請求訴訟を起こされたり、店舗で売却のキャンセルを告げると店長から罵声を浴びせられるようなケースもあったという(8月11日付「弁護士ドットコムニュース」記事より)。このほかにも、中古車の一括査定サイトでは、登録した顧客のメールアドレスや電話番号などを入手し、その顧客になりすまして勝手に登録を解除する一方で顧客に接触し、他の中古車買取業者との価格競争を回避する「他社切り」という行為まで横行していたという(8月9日付「FNN」記事より)。

 一方、会社側は社員のつなぎ止めに必死だ。同社では月平均100万円以上とされる高額な給与が社員の働くモチベーションになっていたが、同社は8月以降の半年間について、営業成績に関係なく4~6月の歩合給と同等の金額を支払うと社員に通知。だが、先月31日に和泉伸二社長が社員に宛てたメールで、今後も給料の補てんを続けるには販売店一店舗当たり500万円、サテライト店については250万円の売上の上積みが必要になると訴え、事実上のノルマ依存経営の復活とみる向きも多い。

「隠蔽や締め付け等のものではございません」

 そんな同社が、前述のとおり社員に誓約書の提出を求めていることが判明。6日付け西日本新聞記事によれば、会社側は社員に対し文書で、社内の動向に関する報道によって「当社に対する社会からの評価が必要以上に低下してしまうという状況」「当社への深刻なダメージとなる」と説明しているという。中堅IT企業役員はいう。

「雇用契約に『業務で知り得た情報、営業情報を外部に漏らさない』という文言を盛り込んだり、社員に秘密保持契約を結ばせたりすることは現在では一般的で、広く行われている。自社や取引先に不利益が生じることを防ぐためだが、今回のビッグモーターの意図は『社内の不都合な情報が社外に漏れるとマズイから』というもので、『情報を漏らした社員に損害賠償を請求する』とまで明記したり、そもそも文書名が『誓約書』であったりと、通常の秘密保持契約とは性格が異なるのは明らか。その目的を考えれば、この誓約書がどれほど正当性・有効性を有するのかは微妙ではないか」

 山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。

「従業員には『職務専念義務』というのがありますので、就業期間中の私用メールや業務と関係ないウェブサイトやYouTubeを見たりすることを取り締まったりすることは、企業における秩序維持のために許されます。PCやメールの監視も『職務専念義務』の履行確認のため、という意味では、従業員の同意を得て行うことは十分に認められます。

 もっとも、こういった誓約書は、会社の目的・動機が大切(あくまで『職務専念義務』の確認のために行われるものです)なのですが、昨今のビッグモーターの状況からすれば、従業員に対し『会社のことについて、あることないこと、余計なことをマスコミに垂れ流すなよ』という目的・動機が見え見えです。この誓約書にサインさせる行為はすぐに違法とはならないまでも、将来、ビッグモーターが誓約書違反を理由に懲戒処分をした場合、この誓約書の有効性が争われ、結果として無効とされる場合もあるでしょう」

 今回の誓約書提出の目的について、ビッグモーターは当サイトの取材に対し以下の回答を寄せた。

「現在弊社では、報道機関に代表される社会との窓口として『広報部門』を設置し、窓口を一本化して、対応することにいたしました。このため、取材対応につきましては、広報部門を通じて行うようお願いするとともに、SNSなどで社内の機密情報や営業情報を書き込まないよう、徹底させていただいております。秘密保持誓約書は労働者がその職務中あるいは企業において知り得た秘密を他に漏洩してはならないという内容のものになりますので、決して隠蔽や締め付け等のものではございません」

 ビッグモーターでは社員に対し厳しいノルマが課され、達成できないと役員や上司から罵詈雑言を浴びせられたりパワハラ行為を受けたりということが常態化し、それが社員を数多くの不正行為に走らせていた実態が明らかになっている。中古車業界関係者はいう。

「ビッグモーター社員が同社で働く最も大きな動機は高額な給与であり、社員はそのために厳しいノルマや上からの強烈なパワハラに耐えてきた。それゆえに、経営陣はノルマとパワハラで社員を締め付けることで利益を上げるという経営のやり方しか知らず、いくら『生まれ変わる』と言っても、何をしていいのかわからないのでは。今回の誓約書の内容をみる限り、結局、パワハラ依存経営に回帰しつつあると感じる」

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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