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物議醸した「底辺の職業ランキング」の職業、実は将来性が高い説…AIで代替困難

文=A4studio、協力=海老原嗣生/雇用ジャーナリスト
「gettyimages」より
「gettyimages」より

 過去に炎上した「底辺の職業ランキング」が今、再び話題となっている。2021年5月に新卒向け就職情報サイト「就活の教科書」が公開した「【底辺職とは?】底辺の仕事ランキング一覧」と題した記事だが、公開当時はネット上で批判の声が相次ぎ、該当記事は削除される事態となった。このランキングに載った職業は、以下の通り。

・土木・建設作業員
・警備スタッフ
・工場作業員
・倉庫作業員
・コンビニ店員
・清掃スタッフ
・トラック運転手
・ゴミ収集スタッフ
・飲食店スタッフ
・介護士
・保育士
・コールセンタースタッフ

 現在、このランキングがSNS上で再び注目を集めており、「『国の大事な基盤を支えてくれてる職業の人たち』であって、底辺じゃなくて『縁の下』っていう適切な言葉をちゃんと使ってほしい」「職業に上下などない」など、さまざまな意見が寄せられている。

 また、「今見るとその多くがかなりの確率で今後もAIでも置き換えられない種類の価値の高い仕事になっていく見込み。そうなったら概念が逆転しそう」といった意見もある。近年のAI(人工知能)の進化により、将来的にさまざまな職がAIに置き換えられるといわれるが、ランクインした職はむしろAIに奪われないのではないかということだ。ランクインしていた職業は立派な仕事で「底辺」などではないことはいわずもがなだが、ネットの意見にあったように、むしろAIに取って代わられることのない貴重な職業となっていく可能性はあるのだろうか。

 そこで『雇用の常識「本当に見えるウソ」』の著者で雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏に、上記ランキングに載っていた職業の将来性や、AIに置き換えられる可能性などについて聞いた。

人間の手足を物理的に必要とする作業は簡単に自動化できない

 まずAIに置き換えられる可能性が高い職と、置き換えられる可能性が低い職の特徴とは何か。

「AIに置き換えられる可能性が高い職というのは、PCを使ったコンピューター上で完結するような仕事でしょう。例えば、SEや経理などの事務職です。こうした仕事は、簿記などの資格を要するような価値が高い職とされていますが、そのような職業ほど将来なくなりやすいと考えられます。コンピューターでデータを打ち込んだり書類を管理したりするという業務は、AIが自動で効率よく正確に行えるようになっていくからです。

 一方で、AIに置き換えられない職というのは、基本的に人間の手足を物理的に必要とする仕事です。今回のランキングに挙げられていたなかでは、特に介護職や土木作業員あたりはそういえるでしょう。AIには手足が付いているわけではありませんので、こうした人間の手足を必要とする物理的な業務の職が、AIに奪われるということはありません。人間の手足に代わるものとするならば、メカトロニクスが必要となります。人間の手足に代わる業務を自動化するには、メカトロニクスの開発に莫大なコストがかかるため、現代のテクノロジーではまだまだ現実的な話ではないのです。またメカトロニクスは汎用性がないため、1つの分野でしか使うことができないことも、開発がなかなか進まない一因でしょう」(海老原氏)

 しかし、なかにはAIに仕事を奪われる可能性が高い職業も

「底辺の職業ランキング」にランクインした職は、確かにマンパワーでしか成り立たないようなものが多く、AIに置き換えられないということだが、それぞれの職業の将来性はどうなのだろうか。まず「土木・建設作業員」「工場作業員」「倉庫作業員」「清掃スタッフ」「ゴミ収集スタッフ」などの現場労働系の仕事について聞いてみた。

「いずれも人の手を必要とする職ですので、基本的になくなることはないでしょう。工場作業に関しては、今では生産工程の自動化を図るシステムであるFA(ファクトリーオートメーション)が技能の部分を担っていますが、投資効率の悪い雑務のほうがかえって人の手が必要となります。確かにハイスキルの職人技術については、AIによってスキルや専門知識は代替できると思いますが、人の手を必要とする実作業は残り続けるでしょう。倉庫作業員に関しても同様で、今後フォークリフトなどのマテハン機器やFAの技術が進化することはあると考えられますが、人手の部分ではまだ必要とされることが多く自動化できない職だといえます」(同)

「コンビニ店員」「飲食店スタッフ」などの接客業はどうなのだろうか。

「コンビニエンスストアでは、現在レジ業務などが自動化されつつあります。あまりAI要素はないのですが、飲食店に関しても、配膳ロボなどを導入する店も増えてきています。しかしいずれも、一例ですがコンビニの品出しや飲食店の調理といった仕事が代替されるかどうかは、AIではなくメカトロニクスの進化についての話になります。先ほども言ったとおり、メカトロニクスの開発には莫大な資金と技術が必要になりますので、多少自動化が進む程度で人手がいらない程度までにはならないと思います」(同)

 次に「介護士」「保育士」などの人のお世話をする仕事の将来性について。

「昨今はパワーアシストスーツという人工筋肉が装着されたスーツが開発され、介護の現場で活躍していますが、これもメカトロニクスの進化によるものです。今後は、物理的な作業においては人間が実行し、介護スキルの指導役としてAIが使われていくのではないかと予想しています。ポジティブな考え方をすれば、AIが指示を出してくれるので、介護資格がない人でも働くことができる可能性も出てくるわけです。AIに仕事が奪われるということではなく、あくまでAIと共同して、より効率的に働くという認識のほうが合っているかもしれません」(同)

 続いて「警備スタッフ」「トラック運転手」の将来性についてだが、海老原氏によると、こちらは人手がいらなくなってしまう可能性があるという。

「まず警備スタッフについてですが、監視カメラやモニタリングのAI技術が発達しているので、今後は人の目で監視しなくてもよくなっていくでしょう。また、常駐する警備スタッフがいることで、彼らが犯罪者になったり、犯罪者に脅されてカギを開けてしまうなど、逆逆効果となるケースが実は非常に多いのです。このように、人の介在が事件を誘発することも多いため、今後はAIによる監視がメインとなっていくでしょう。

 トラック運転手についても、かなりAIに置き換えられる可能性が高いです。そもそも車というもの自体がメカトロニクスの機能を備えているので、AIと組み合わせしやすいのです。車とAIが合わされば人の運転技術はいらなくなります。例えば、貨物船に車を積み込むドライバーは、停車する位置が数センチ違うことも許されない、非常に高度な運転スキルが必要なドライバーです。こうした高スキルな運転などは、人間がやるよりもAIによる計算のもと車を動かしていくほうが効率的です。長距離トラックの運転手も同様で、積み下ろし作業が少ないので、人の手が特に必要ないことや、高速道路を長時間運転することについて、休憩や仮眠が必要な人間よりも機械のほうが運転に向いています。AIが車を操縦するかたちに今後進化していくのではないでしょうか。

 ただ一方で、宅配ドライバーの場合、運転することだけでなく、荷物を降ろして届けることや、不在票を書く、代引きをするといったことも付随してやらなければならないので、そうした物理的作業を伴うということから、職がなくなることはないと思います」(同)

 最後に、「コールセンタースタッフ」について聞いた。

「コールセンターなどの電話対応業務がメインの職については、いずれは自動化していくでしょう。現在こうした職で人の担っている部分は、発声するということだけになります。現段階では人工音声が未発達なので完全な自動化は難しいですが、その中間段階で、RPAという事務系の定型作業を自動化・代行するツールと、人の声が組み合わさった働き方が主流になると予想されます。こうした電話対応業務は、業務に必要な知識をすべて詰め込んだRPAが生成した文章を、そのまま人が読めば成り立ってしまうのです。人間が複雑なプロセスのマニュアルを覚える必要もなくなりますし、RPAで半分自動化することで、より効率的に業務が進む可能性があります。ですがそれは、人間を介する必要性が最小限になってきているということですので、今後自動音声がさらに発達していけば、人手が要らなくなる可能性はあります」(同)

当然だが重要なのは「人間にしかできない職を極める」こと

「底辺の職業ランキング」に載っていた職を通して、AIに置き換えられる職の特徴や将来性について聞いてきたが、最後に、今後さまざまな職業にどういった変化が起っていくのか、またAIに仕事を奪われないために大切なことは何なのかについて聞いた。

「本格的に自動化の流れが来るのは、2050年ごろになると予想されています。その間は、人の手が必要な物理的作業を伴う職業がなくなることは基本的にはないと思いますし、これから徐々にRPAが使われはじめ、RPAと人が共同で働くという半自動化の流れになっていくでしょう。例えば、寿司屋や花屋といった職業でも、RPAが寿司の握り方や花の生け方などを指示して、人がそれに則って作業をすればいいという時代が来る可能性もあります。機械の指示に従って人の手を動かすことで、特別な資格やスキルがなくても、どんな人でも、なりたい職業に挑戦できるというポジティブな可能性を秘めているともいえるでしょう。このように仕事でAIを活用するということは、必ずしもネガティブな面だけではないのです。

 一方、機械やAIに取って代わられないような、人間にしかできない職を極めるということも重要でしょう。例えば、薬剤師の場合、薬の調合だけをしていては、いずれ調合のメカトロニクスが開発されて仕事を奪われますが、同じ薬剤師でも、新薬開発業務に携わる人は機械に取って代わられることはないでしょう。SEやプログラマーも同じで、開発などの高度な分野に携わる人たちは、いくら自動化が進んでも必要とされるでしょう。自分にしかできないことを見つけ、それを極めていくという働き方が、今後は重要になっていくのではないでしょうか」(同)

(文=A4studio、協力=海老原嗣生/雇用ジャーナリスト)

海老原嗣生/雇用ジャーナリスト

海老原嗣生/雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。

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