北海道内で運行する路線バス「中央バス」が札幌圏の1割となる約630便の運行路線を見直し、一部は廃線になることがわかった。背景には人手不足が影響しているとされており、JR北海道の路線廃線に伴うバス転換にも影響が出てきそうだ。
路線見直しの背景に人手不足か
北海道中央バスは1943年に設立した「北海道中央乗合自動車株式会社」が前身。札幌や空知地区などの21バス事業者が統合したことで誕生した。49年に社名を現社名に変更したのち、現在に至るまで道民の足としてその役割を果たしてきた。路線は札幌市内を中心として、近郊の小樽や北広島、岩見沢などのほか、函館や旭川、名寄などの都市間高速バス、そして新千歳空港までを結ぶ連絡バスも運行している。そんな中央バスをめぐる路線見直しの動き。背景には一体何があるのか。事情を知る地元紙記者は語る。
「中央バスの路線見直しには人手不足が関係している。運転する人がいないのに路線を増やしたり維持したりするのは無理な話だ。待遇も良いとはいいがたく、人は集まらない。企業側が本気になり、運賃を値上げして待遇を上げる方法はある。しかし企業側が本気になれるかどうか、期待は薄い」
さらに2024年4月からは、働き方改革関連法案により、自動車の運転を伴う業務の時間外労働時間の上限が年960時間に制限される。これはいわゆる「2024年問題」としてマスコミ等で報道されており、物流業界を中心とした懸念材料となっている。この問題が尾を引いてさらなる影響を及ぼし、路線そのものやバス会社が立ち行かなくなるという事態も考えられる。
他方、もう一つの懸念事項になるといわれているのが、JR北の路線廃止に伴うバス転換の後、そのバス路線を維持できないのではないかとの懸念である。前回に執筆した本サイト記事でも触れた北海道新幹線。札幌延伸開業に伴い函館本線(海線、山線)が経営分離されるが、小樽-長万部間(山線)はすべてバスでの運行になる可能性が濃厚だ。
人手不足に加え労働時間が制限されるとなると、バスとバスとの接続はもちろん、運転する本数の問題も生じてくる。どのようにしてそれらを確保し、交通手段を維持していくのだろうか。バス転換した先にも、大きな難題が待ち受けている。
中央バス「路線見直しは事実」
中央バスは10月24日のプレスリリースで、路線見直しの報道について「当社が報道機関向けに発表したものではないが、札幌都市圏のバス路線再編について関係機関と協議した内容と相違はない」旨の見解を示した。また本稿記者の取材に対して、中央バスの担当者は「路線を見直すのは事実。近々、プレスリリースを発表する予定だ」と回答。その通り10月31日にダイヤ改正に関するプレスリリースを発表している。繰り返し報道されている路線見直しの背景については「乗務員不足が原因だ」とし、「乗務員不足は新型コロナウイルスが感染拡大する約4~5年ほど前から問題となっており、コロナの影響によりそれに拍車がかかった」と人手不足の理由を説明した。
ただ、今回の路線見直しでは、一部の路線が札幌市営地下鉄の駅に接続するダイヤとなる。地下鉄を運行するのは札幌市交通局で、さらなる利用者や収支増を見込む。その一方、利用者からすればバスから地下鉄へ、または地下鉄からバスへと取り換えしなければならなくなるため、特に体の悪い高齢者らにとっては負担が増えることになる。
先の中央バスの担当者は、乗務員不足の見通しについて「まったく(解消の)見込みはたっていない」と懸念を示していた。ドライバーの労働時間が制限される来年4月まではもう約半年。賃金アップなどやるべきことは多数あるが、なかなか進んでいないのが実情だ。
原材料費の高騰などもあり、会社経営は厳しく、国民の財布の紐もなかなか緩まない。しかし最終手段としてはバス運賃の値上げを考える必要があろう。どうにかして運行を続けることが大切なのか、それとも思い切って廃止にしてしまうのがいいのか。この議論が必要だ。
(文=小林英介)