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バルミューダ、急成長から一転、なぜ経営危機に…「尖った商品」依存の限界

文=Business Journal編集部
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バルミューダのHPより

 高級家電ベンチャーのバルミューダ(東京都武蔵野市)が経営危機に陥っている。同社は10日、2023年12月期連結決算見通しを下方修正し、売上高は前期比24%減の133億円、営業損益は13億円の赤字、最終損益は20億円の赤字になると発表。「BALMUDA Phone」の携帯端末事業からの撤退に伴う特別損失を計上したほか、主力の空調関連製品やキッチン関連製品の大幅な売上減少が影響した。18年には100人程度だった従業員数は22年には2倍の200人程度にまで増えており、同社は10日の決算説明会で人員削減の意向を示すなど、固定費削減が急務となっている。高価格で「尖った」家電を武器に急成長を続けてきた同社は、なぜ失速したのか――。

 元ミュージシャンという異色の経歴を持つ寺尾玄社長が03年に創業したバルミューダは、08年のリーマンショックによる経営危機を乗り越え、10年に発売した自然の風を再現する扇風機「The GreenFan」、15年に発売した窯から出したばかりの焼きたての味を再現する「BALMUDA The Toaster」が大ヒット。20年には北米での販売開始、さらには東京証券取引所マザーズ市場への新規上場を果たした。

 順調だった経営に変調がきたす原因となったのが、21年11月に発売したスマートフォン「BALMUDA Phone」の不振だ。現在のスマホ端末の主流は動画視聴ニーズに応える大型画面や高性能カメラ、薄い形状のものだが、「BALMUDA Phone」はコンパクトなサイズのため画面は小さめで、背面は大きくシボが利き、革製品を模した質感なのが特徴だ。ソフト面では、使うほどに自分好みにカスタマイズできる仕様になっている独自のスケジューラーアプリや、為替などの計算機能がウリだが、発売当初の価格が14万3280円(税込、以下同)と強気だったこともあり販売は低迷。その後、各種値引き適用後の価格を7万円台に値下げし、レンタル後に端末を返却する条件の「2年24円」のプランを提供したことも話題を呼んだ。

「中古ならアップルのiPhoneが2~3万円台、新品のGoogle Pixelも10万円以下で買えることを考えると、今のユーザが重視するカメラの性能も『普通』のBALMUDA Phoneの優位性が高いとはいえず、あえて買う理由がない商品になってしまっていた」(デジタルマーケティング会社プロデューサー)

 結果、発売から2年持たず販売終了となったわけだが、携帯端末発売のタイミングと重なるように同社の従業員は急増。携帯電話事業のIT事業で200〜300億円の売上を目指していたが、軌道修正を強いられた。加えて、主力の空調関連製品とキッチン関連製品にも逆風が吹いている。売上高はそれぞれ前年同期比42%減の16億円、32%減の52億円という「非常事態」(寺尾社長/10日の決算発表会見にて)に見舞われている。

 同社は業績改善と施策として、売上総利益率の改善、固定費の圧縮、家電カテゴリーの積極的な展開を推進し「最速での黒字化を目指す」としている。 

課題はリピート客の獲得

 バルミューダといえば高価格というイメージが消費者にも浸透している。例えば
「The GreenFan」は3万9600円、「BALMUDA The Toaster」は2万9700円。一般的なトースターの市場価格をみると、割安なメーカーの商品なら2000~3000円、大手家電メーカーのものでも7000~8000円となっている。

「バルミューダより断然安い価格で、大手メーカーから遠赤外線ヒーターが付いたり、『外はカリっと、中はしっとり』をウリにする商品も多数出ており、総合的なバルミューダ商品の優位性は弱まりつつある。気になるのは家電商品の大幅な売上減だ。扇風機やトースターのほか、クリーナーやデスクライトなども評判はよいが、買い替えの際に『またバルミューダを買おう』となるリピート客が少ない可能性がある。同社の商品が機能面で優れているのは事実だが、似たような機能・性能でより低い価格の商品は他社からも出されている。物珍しさから1度は同社の商品を買ってくれるかもしれないが、買い替えの際に『次はもう大手メーカーの商品でいい』となるユーザが多いのかもしれない。根強いリピート客をつかまないと家電メーカーとして持続的に成長していくのは難しい」(同)

 また、家電メーカー社員はいう。

「もともとバルミューダの商品開発は寺尾社長が『自分が欲しい』と思うものを実現するということが重視され、その寺尾社長のセンスとそれを具現化して商品に落とし込む開発力が同社の強さの源泉になってきた。だが、上場を経て今後、ベンチャー企業という時期を終えて家電メーカーとして一段階上のフェーズに入っていくにあたっては、経営トップのセンスに頼るのは危うさもある。例えば、どう考えても売れそうにないBALMUDA Phoneのような商品のアイディアが出てきた際に社内プロセスのどこかでノーの判断ができるような仕組みを取り入れないと、生き残っていくのは難しい。

 最近では10月に発売したホットプレート『BALMUDA The Plate Pro』が発売初週で累計出荷台数5000台を突破するヒットとなるなど、同社の商品開発力が高いのは事実だが、高価格の尖った新商品を出し続け、かつヒットさせ続けるというのは至難の業。大手メーカーの家電には長きにわたり累計100万台以上売れている商品・シリーズも少なくなく、そうした高機能かつ『ほどよい価格帯』でリピート客を獲得する商品を複数持たないと、メーカーとして持続していくのは難しい」

 一方、同社の先行きをそれほど不安視する必要はないとの見方もある。

「同社が赤字に転落した要因ははっきりしていて、余剰人員とスマホ事業の失敗に伴う損失だ。この2点をしっかりと整理してコンスタントに付加価値の高い商品を市場に投入していくことができれば、自前で工場を持っておらず身軽なこともあり、小規模ながらもオンリーワン企業として生き残っていける。逆に会社の規模拡大を追うと足をすくわれる可能性がある。いずれにせよ、人員削減で150人ほどにまでに縮小したとして、その規模の会社で20億円の最終赤字というのは小さな金額ではなく、3期以内には黒字に転換しないと資金繰りも苦しくなってくるが、黒字化は簡単ではなく、身を切る施策が必要だ」(金融業界関係者)

 当サイトは2020年12月18日付サイト『高級「ザ・トースター」世界販売100万台に…バルミューダ上場、異色家電ベンチャーの秘密』で同社の経営について触れていたが、今回、改めて再掲載する。

――以下、再掲載――

 高級家電ベンチャーのバルミューダ(東京都武蔵野市)が12月16日に東証マザーズに上場した。初値は3150円。公募・売り出し価格(1930円)を1220円(63.2%)上回った。公募は123万5000株、売り出し20万株のほか、オーバーアロットメントによる売り出しが最大で21万5200株。

 公募で38.9億円の資金を調達した。売り出す20万株はすべて、発行済み株式の92.3%を保有する寺尾玄社長の分で、上場後も株式の7割強を持つ。売り出しで寺尾社長は6.3億円、追加売り出し分を加算すると13億円のキャッシュを手にする。新規上場するオーナー企業家の醍醐味だ。

 新規公開で手に入れた資金は広告宣伝費や新製品の研究開発、金型への投資、デザイナーや技術者の増員に充てる。当面は成長投資を優先し、無配を続ける予定だ。

スチームトースターの販売台数は100万台を超えた

「窯で焼き立てパンの味を再現する」。スチームトースター「BALMUDA The Toaster」は、そんなうたい文句でヒットした。上部にある給水口に少量の水を入れ、水蒸気を使って温度を制御する独自の技術を採用。パンの表面だけを焼き、パンの中に含まれる水分はそのまま残すことで、表面はさっくりしていながら、中はふっくらした食感を残すトーストに仕上がる。

 店頭価格は2万円超で通常のトースターの4~5倍程度と高額だ。2015年の発売以来、着実に販売台数を伸ばしてきた。新型コロナウイルスの巣ごもり需要を追い風に4月から8月にかけて月別で過去最高の販売台数を記録。累計販売台数は世界で100万台を超えた。

 バルミューダは元ミュージシャンの寺尾社長が設立した。1973年5月、茨城県龍ヶ崎市の洋ラン栽培農家に生まれた。17歳で高校を中退、スペイン、イタリア、モロッコなど地中海沿岸の各国を約1年かけて放浪。帰国後、約10年間、音楽活動に携わる。大手レコード会社と契約したがCDを1枚も出せずに断念した。

 2001年、バンド解散後、ものづくりの道を志す。町工場で働きながら独学で設計と製造技術を学んだ。03年、有限会社バルミューダデザインを設立。11年にバルミューダ株式会社へ社名を変更した。

 開発思想は一風変わっている。大事にするのは「自分が欲しいかどうか」だ。リーマン・ショックで倒産の危機に陥ったが、10年に発売した二重構造の扇風機「グリーンファン」で家電業界の注目を集めた。首振りの範囲を150度の超広角に広げて空気をゆっくり移動させることによって、自然界のような風を再現した。

 そして、15年に発売した「BALMUDA The Toaster」が大ヒット。家電量販店の調理家電売り場では、予約しないと手に入らない超人気商品に化け、15年度グッドデザイン賞金賞を受賞した。

 音楽に合わせ室内の光の量などを調節するワイヤレススピーカーや、ヘッドを360度回転できる掃除機などユニークな商品の品揃えを増やした。ポータブルLED(発光ダイオード)ランタンなども世に出している。空気清浄機などが韓国を中心に人気で、海外売上高比率は3割に達する。

 2020年12月期業績予想の売上高は前期比13.7%増の123.3億円、 純利益は30.6%増の8.2億円と増収増益の見通し。20年4月から北米で販売を開始した。現在100人あまりの社員の約半数が開発要員だが、新製品を出し続けるには人員を増やす必要がある。上場して株式市場から資金を調達する狙いのひとつが人材の確保にある。

上場会社になった後の経営課題は品質管理

 嗜好性が強いオーディオ機器やカメラと違って、家電製品は家事の負担を軽減したり、料理の手間を省いたりといった実用性が重視されてきた。国内の白物家電市場では、特定分野に強い専業が存在感を高めてきた。ロボット掃除機「ルンバ」の米アイロボットは5割強のシェアを持つ。英ダイソンは掃除機で、首位パナソニックに次ぐシェア(約19%)を握っている。

 こうした新しい潮流の中から台頭してきたのがバルミューダだ。その「家電業界の風雲児」が直面しているのが品質問題だ。加湿器や掃除機を商品化する過程で表面化した。現在、生産は中国メーカーなどに委託している。

 バルミューダは生産設備を持たず、製品を外部の企業に委託するファブレス企業だ。初期投資が少なくて済むビジネスモデルだが、品質を自社で徹底的にチェックできないという難点がある。17年2月、扇風機「The GreenFan」のリコール(自主回収・無償交換)を実施した。18年10月、最大のヒット商品である「BALMUDA The Toaster」をリコールした。19年6月にはオープンレンジの「BALMUDA The Range」のリコールも発表した。

 上場で事業を拡大する。企業規模を拡大しなければつくれない製品があるのは確かだが、独創性や高い品質の確保を両立できるのか。今後も、万人受けは考えず、特定のユーザーを念頭に置いた製品作りにどこまで特化できるか、である。

 株式を上場後も、とんがった企業の良さを維持できるか。高級家電ベンチャーの経営手腕が問われることになる。

(文=Business Journal編集部)

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