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松本人志さんワイドナショー出演中止の理由…放送法違反とBPO審議の懸念は

文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授
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フジテレビ(「Wikipedia」より/Kakidai)

 先月発売の「週刊文春」(文藝春秋)によって女性への問題行為が報じられていたタレントの松本人志さん(ダウンタウン)は8日、芸能活動休止を発表した。松本さんと所属事務所である吉本興業は報道内容を一貫して否定しており、「文春」発行元との裁判に注力する意向を示しているが、9日には松本さんが14日に放送される情報番組『ワイドナショー』(フジテレビ系)に出演するとフジがコメント。松本さんが自身にかけられた疑いについてどのような反論・主張を行うのかが注目されていたが、10日にフジは松本さんの出演をとりやめたと発表した。「文春」と松本さんの主張が真っ向から対立するなかで松本さんのみが『ワイドナショー』に出演することについて、放送法に抵触する可能性やBPO(放送倫理・番組向上機構)放送倫理検証委員会の審議対象になる可能性を指摘する声も出ていたが、これらのハードルが出演とりやめにつながったのだろうか。専門家の見解を交え追ってみたい。

 先月27日発売の「文春」は、松本さんから加害を受けたという女性の証言を伝えたが、吉本興業は同日、「当該事実は一切なく、タレントの社会的評価を著しく低下させ、名誉を毀損するものです」とするコメントを発表。松本さんが出演するレギュラー番組や特番は予定どおり放送されていたが、今月4日放送の『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)では提供クレジットが表示されず、一部CMがACジャパンのものに差し替わるなど影響も出始めていた。そして8日になり、吉本興業は以下内容の文書で松本さんの芸能活動休止を発表した。

<当社及び松本だけでなく、お取引先を含めた関係者の皆様に対しても問い合わせ等が相次ぎ、松本のテレビ出演を巡る記事が度々掲載されるなどしておりますところ、このたび、松本から、まずは様々な記事と対峙して、裁判に注力したい旨の申入れがございました>

<そして、このまま芸能活動を継続すれば、さらに多くの関係者や共演者の皆様に多大なご迷惑とご負担をお掛けすることになる一方で、裁判との同時並行ではこれまでのようにお笑いに全力を傾けることができなくなってしまうため、当面の間活動を休止したい旨の強い意志が示されたことから、 当社としましても、様々な事情を考慮し、本人の意志を尊重することといたしました>

 この間、松本さんは一貫して疑いを否定。自身のX(旧Twitter)上でも

<いつ辞めても良いと思ってたんやけど…やる気が出てきたなぁ〜>(12月28日)

<事実無根なので闘いまーす。それも含めワイドナショー出まーす>(1月8日)

と投稿。また、10日発売の「文春」記事内で同誌の取材に対し吉本興業は「貴誌前号に対して名誉棄損による訴訟提起を予定しております」と回答しており、争いは裁判の場に持ち込まれることが確実視されている。

「過去に不祥事を起こしたタレントが活動休止に入るケースとはまったく異なり、『裁判に注力するため』という理由で休業するのは極めて異例。今回の一連の『文春』報道ではなんらかの明確な証拠は示されておらず、8年も前に被害にあったとする人物の証言のみで、『やや弱い』というのが業界内でのもっぱらの見方。松本さんの休業発表を受け『文春』は『現在も小誌には情報提供が多数寄せられています』とのコメントを発表しているが、裏を返せば証言と情報提供以外に確固たる根拠的材料を持っていないのではないかとも感じてしまう。松本さんは裁判で強く報道内容を否定してくるだろうから、裁判官がどう判断するのかは読めない」(テレビ局関係者)

放送局として責任を重視か

 そんななか、松本さんが『ワイドナショー』に出演することをフジが認めた。9日付「J-CASTニュース」記事の取材に対しフジテレビは「14日のワイドナショーで出演します」と回答。松本さん自身も同日、Xに「ワイドナショー出演は休業前のファンの皆さん(いないかもしれんが)へのご挨拶のため。顔見せ程度ですよ」と投稿していたが、10日になりフジは「Sponichi Annex」などの取材に対し、吉本興業と協議した結果、出演しなくなったと回答した。松本さんの出演にあたっては懸念もあった。放送法は「(国内放送等の放送番組の編集等)第4条」で次のように定めている。

<放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。>

 松本さんと「文春」はまさに「意見が対立」していることから、松本さんのみが出演して主張を展開した場合、フジの放送が同法に抵触する懸念や、BPO放送倫理検証委員会の審議対象になる可能性があるとの指摘も出ていた。日本テレビ報道局記者兼ドキュメンタリー番組ディレクターとしてテレビ局の報道畑を中心に番組制作の現場に携わってきた上智大学の水島宏明教授はいう。

「吉本興業が芸能活動の休止を発表した直後に『事実無根なので闘いまーす。それも含めワイドナショー出まーす』と松本さん自身がXに投稿していたのに、なぜ急に出演がなくなったのでしょうか。ここからは推測の域を出ませんが、私はフジテレビ側の意向が強く働いたのではないかと見ています。芸能活動を休業するとしておきながら、最後に特定の番組だけは『出まーす』と一方的に発表することは、『その番組は事実上、自分の思い通りになるのだ』という松本さんのやや尊大な姿勢だと受け取られます。松本さんにとって『ワイドナショー』という番組はそういう存在だったことが透けて見えます。

 テレビ番組においては、タレントはテレビ局側からの依頼があって初めて出演できるものです。フジテレビ側は休業宣言の前から14日の出演依頼をしていたのだろうと思いますが、休業宣言の後で松本さんがカメラの前で語る最初で最後の機会になることから社会の注目を集めました。もし出演するとなると、『事実無根』『闘い』の件にもコメントすることになります。松本さんが長くレギュラー出演していた番組ですから、他の出演者も突っ込むことなく、一方的に松本さん側の言い分だけが放送されることになりかねません。

 もしそうなれば公共の電波を私物化することになり放送法違反になるのではないか。放送法などに照らして放送局の倫理を検証するBPOで審議される可能性があるのではないかと指摘する識者もいました。放送法は第4条で、番組制作では政治的に公平であること、意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすること、報道は事実を曲げないで行うことなどを義務づけています。とはいえ個々の番組ではなく、各局で放送される番組全体で判断するべきというのが放送業界側のこれまでの見解です。個別の番組で仮に松本さんの側の主張が放送されたとしてもBPOの放送倫理検証委員会で審議の対象になる可能性は低かったと思います。

 他方でBPOには放送によって人権を侵害された場合に被害者が申し立てることができる放送人権委員会があります。『文春』で性被害を受けたと主張する女性たちについて松本さんがもしも名誉毀損だなどと発言した場合には、女性たちがBPOの放送人権委員会に『人権侵害』を申し立てれば審議に進む可能性が残されていたと思います。『ワイドナショー』の出演をめぐっては、同じ芸人仲間からも『違和感』が発せられていました。慣れ親しんだ番組で一方的に発言するくらいなら、批判的な記者たちもいる記者会見をしたほうがいいという意見です。確かにその通りです。

『文春』が1月10日発売号で続報を放ったことから、スポンサー企業の間でも次第に松本さんを出演させることへの躊躇や懸念が広がっていく可能性があります。松本さんが出演しているCMについても今後、見直しがありそうです。フジテレビとしても、仮に今後の裁判で松本さんが負けるような事態になった時に、休業直前に看板番組で松本さんに一方的な主張をさせていたとなれば、放送局として責任を問われることになり、イメージダウンは必至です。そんなリスクを避けたいということで、急きょ出演を見合わせる方向に進んだのだと思います」

片一方のみの当事者の主張が伝えられるという事例はある

 また、テレビ局関係者はいう。

「仮に出演させていたとしても問題はなかったのでは。実態としては、主張や見解が対立するテーマについて番組内で片一方のみの当事者の主張が伝えられるという事例は山のようにある。松本さんの休業発表に関する報道に限っても、ニュース番組ですら松本さんサイドの主張を伝える一方で『文春』が発表したコメントを伝えない局もあったくらいだ。

 松本さんが『ワイドナショー』に出演すると即、法に抵触するのかはわからないが、同番組のやり方として一つ考えられるのは、松本さんと『文春』編集部の両方に出演をオファーするというかたちだ。もし仮に番組が『文春』サイドから出演を断られた上で『文春』の見解を放送内で伝え、松本さんは出演して発言をしたとすれば、両当事者の見解を伝えましたよというロジックがギリギリ成立するのではないか。もっとも、法律を理由に、疑いをかけられた当人が放送番組に出演して自らの主張を展開する場を奪われるというのは、ちょっと筋が通らない気もする。またBPOの審議対象になるかどうかは、正直よくわからない」

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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