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「快適すぎる」と話題の足置きエアー、CAさんの仕事を増やす厄介者か

文=Business Journal編集部、協力=橋本安男/航空経営研究所主席研究員
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足置きエアー
足置きエアーの例(Amazon.co.jpより)

 飛行機旅を快適にすると人気の「フットレスト」に関し、現役客室乗務員(CA)が「これのせいで仕事が増えて困る」との見解を示し、話題になっている。脱出などの際に邪魔になるというのだ。実際はどうなのか、航空会社に聞いた。

 1月2日に日本航空(JAL)の航空機と海上保安庁機が羽田空港で衝突し、海保機の乗員5人が亡くなったが、JAL516便側は14名の負傷者を出したものの乗員乗客379人全員が脱出し、国内外のメディアから“奇跡の脱出”と賛辞が寄せられた。

 この脱出劇においては、JALのCAの的確な誘導や現場対応もさることながら、乗客の協力も格別に素晴らしかったと評価されている。緊急時にあってパニックを起こしたり、我先にと脱出口に殺到すればケガ人が続出することは想像にたやすい。脱出する際には大切な手荷物も持たないことがルールだが、なかには捨てられずに持って出ようとする人がいても不思議ではない。だが、今回の事故にあっては乗客が落ち着いてルールを守って脱出したと伝えられている。

 そんななか、この事故に関連して、SNS上でひとつの投稿が話題になっている。それは、飛行機旅を快適にすると人気の「フットレスト」に関し、現役CAが「これのせいで仕事が増えて困る」との見解を示したものだ。

 あるX(旧ツイッター)ユーザーが、空気で膨らませるタイプのフットレストについて、「1番前の席指定してこれ置いたら足伸ばせるからエコノミークラス乗ってもほぼビジネス」とつぶやき、飛行機に乗る際には必携だとおススメした。すると先のCAは、そのポストを引用しつつ、「道を塞いで脱出の時に迷惑&気圧の変化で爆発の恐れなど様々な理由」があるとして、難色を示した。また、客によっては使用を控えるように頼んだ際に反論されることもあると示唆。

 確かに、いくら空気で膨らませた軽い物とはいえ、非常時には邪魔になりそうではある。そこでBusiness Journal編集部はJALに、どのような取り扱いをしているのかを聞いた。

――空気で膨らませるフットレスト(以下、足置きエアー)は、JALの機内で使用可能でしょうか。

JAL広報「足置きエアーにつきましては、巡航中の使用はどちらのお座席でも可能です。グッズのご使用により足元をふさいでしまう場合には、原則として、窓側、中央真ん中席でのみご使用いただく場合がありますので、市販のフットレストについては指定している座席でしか使用できないと解釈されているのではと思います。

 ただし、離着陸時においては、シートに備え付けのフットレスト収納をお願いするように、足置きエアーもしまっていただくことになります」

――気圧の変化で爆発の恐れがあるとの指摘もありますが、実際に破裂する懸念はあるのでしょうか。

JAL広報「機内においては、地上での気圧差が大きくならないように調整をしておりますので、これまでに気圧差により膨らませたものが破裂してしまったケースは報告されておりません」

 次に全日本空輸(ANA)にも同様の問い合わせをしたところ、わずかに取り扱いが違うようだった。

――空気で膨らませるフットレスト(以下、足置きエアー)は、ANAの機内で使用可能でしょうか。

ANA広報「国内線と国際線で少々取り扱いが異なります。足置きエアーにつきましては、ホームページの『小さなお子様連れのお客様向けサポートについて』という項目の『機内に持ち込むお子様用携帯ベッドの使用について』と同様に、原則として窓側座席または通路に挟まれたセクションの中央座席でのみご使用いただけます。国際線の場合、共同運航の際などは他社との兼ね合いでルールが変わることがあるので、事前にご確認ください」

――離発着時にも使用可能でしょうか。

ANA広報「離発着時には他の手荷物と同様に、座席下に収納していただくことになりますので、ご使用いただくことはできません」

――飛行中に使用する際は、シートベルトの着用が前提となるのでしょうか。

ANA広報「特段、シートベルトの着用は前提としていません」

 シートベルトについては、「正しい位置でシートベルトを装着のうえご利用ください」とHPに記載しているJALと異なっている。

 これらの回答を基に、航空経営研究所主席研究員で桜美林大学客員教授の橋本安男氏に見解を求めた。

――なぜシートベルトの装着を前提にするのでしょうか。

橋本氏「巡航中も、タービュランス(乱気流)に遭遇する場合、即座にシートベルトを装着しなければならないので、フットレスト使用などでシートベルト装着が難しくなる危険性を避けるため、予めシートベルトを装着して置くという意味があります」

――なぜフットレストを使用できるのが、窓側、中央真ん中席でのみなのでしょうか。

橋本氏「基本的には、他のお客の出入りの迷惑にならないということです。トイレ等の出入りは言うに及ばず、緊急時には、脱出の障害となってはなりません。フットレストが窓側、中央真ん中席であれば、他のお客は、通常と同じように通路との出入りが可能です」

――離発着時に使ってよいのでしょうか。

橋本氏「窓側、中央真ん中席での使用であっても、その使用者にとってフットレストが緊急脱出時に妨げとなる可能性は残ります。したがって、これまで『離発着時などシートベルトサイン点灯時は利用できない場合がある』とされてきた決まりも、今回の羽田空港でのJAL機衝突事故を契機に、少なくとも『離着陸時には使用禁止』となる可能性はあります」

――上空の気圧の変化でエアーフットレストが爆発・破裂するようなことはないのでしょうか。

橋本氏「飛行機が上昇し高度が高くなるにつれて、外気の気圧はどんどん下がります。飛行機が巡航高度に達すると、3分の1気圧とか、4分の1気圧にまで下がります。このため、飛行機の客室内は与圧されるのですが、それでも胴体の疲労強度の関係で1気圧にすることはできず、従来の機体では、8000フィート(約2400m)の高度に相当する約0.75気圧で与圧されます。これは山でいえば、栃木・男体山(2486m)の頂上に当たります。

 一方、B787やA350といった最新機材では胴体が複合材でできていて強度が高いため、6000フィート(約1800m)の高度に相当する約0.8気圧で与圧され快適性が増しています。山でいえば、福島・磐梯山(標高1816m)の頂上に相当します。

 いずれにしても、上空では客室の気圧が低くなるので、もしエアーフットレストが離陸してすぐに空気を吹き込まれていると、巡航高度に行くと、ぱんぱんに膨らみ、品質が悪いと破裂することもあるかもしれません。

 ただ、巡航高度に行ってから空気を吹き込んだ場合には、それほど膨らむこともなく、逆に高度が下がってくるとしぼんでいくことになります」

【参考】
・6000フィート(約1800m)…0.810464気圧
・8000フィート(約2400m)…0.755183気圧

 現状では、いずれの航空会社も“通路に面していない座席でのみ使用可能”という点で一致している。また、足元の広い一番前の座席での足置きエアー利用を勧める投稿があったが、一番前の座席はCAの業務の妨げとなる恐れが高く、使用できないとしている航空会社もあるので、使用したい方は搭乗前に確認する必要がある。

(文=Business Journal編集部、協力=橋本安男/航空経営研究所主席研究員)

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