グループ会社で品質認証試験の不正が相次ぎ、“世界のトヨタ”が揺らいでいる。トヨタ自動車の豊田章男会長が1月30日に記者会見を開き「お客様の信頼を裏切り、認証制度の根底を揺るがす極めて重いことで、おわび申し上げる」と謝罪したが、業界関係者はトヨタについて「根本的に変わることは期待できない」との見解を示す。
トヨタグループでは、連結子会社の日野自動車、完全子会社のダイハツ工業で認証不正が発覚。さらに今回、“トヨタの本家”ともいわれる豊田自動織機でも不正が発覚した。トヨタは豊田自動織機にディーゼルエンジンの生産を委託しており、10車種の出荷停止を決めた。
なぜトヨタグループでこれほど不正が続出するのか。豊田自動織機を調査した特別調査委員会はトヨタに落ち度があるかは「判断できない」と言葉を濁しているが、日野やダイハツでも同じような認証不正が起きていることから、トヨタの社会的・道義的責任は免れないのではないか。自動車業界に精通する大手新聞社記者は、「トヨタの文化」が不正の背景にあると断じる。
「日野自動車の件は微妙ですが、ダイハツと自動織機の不正は“トヨタの文化”が背景にあり、起こるべくして起こったといえます。特別調査委の報告にもありましたが、現場が納期に間に合わないと上司に相談しても『なんとかしろ』と言われるだけで、強制的にトヨタが立てた納品スケジュールを押し付けられます。そうすると、品質が不十分な状況でも認証試験を通さねばならず、不正に走るという構図です」(新聞記者)
製品が完成してから発売するのではなく、発売スケジュールありきで納期が決められるという状況は、不自然極まりない。開発が間に合わない場合に、発売延期などの措置を取ることはできないのだろうか。
「トヨタは上に対してモノを言えない文化になっています。古くから醸成されてきたものかもしれませんが、豊田章男氏が社長に就任した2009年以降、より顕著になったといえます。トヨタはグループ会社に幹部を送り込んで監視するとともに、グループ会社側からトヨタの購買担当者に納期や品質問題の可能性を相談すると、購買価格の値下げや発注打ち切りを示唆されます。こうしたことからダイハツや部品メーカーはトヨタにモノを言える状況にありません。章男氏が率いるトヨタグループにとってはこれが当たり前になっているのです」(同)
そんな状況を、トヨタ幹部はなぜ放置しているのか。
「自動車業界では章男氏を“裸の王様”と揶揄しているくらいで、周囲には進言できる人物がいないようです。先日開催された東京オートサロン2024でもプレスカンファレンスの場で、章男氏は周囲に女性コンパニオンを大勢並べた状態で演説を行い、業界関係者は『今の時代にこんなことをして、トヨタは誰も止められないのか』と眉をひそめていました」(同)
グループ会社がトヨタに納期の延長などの相談すらできないのは、なんらかの圧力があるためなのか。
「確かなことは言えませんが、昔、直接的な圧力があったのではないでしょうか。そのくらい、あまりにもトヨタに対しての忖度は異常です」(同)
強硬的なスケジュールで納期を押し付けてきたトヨタといえども、これだけ不正が続けば、その体制を見直さざるを得ないだろう。
「(30日に行われた)章男氏の会見を見ましたが、トヨタは変わらないでしょう。『モノづくりの原点を見失っていた』『私自身が責任者としてグループの変革をリードする』と発言していましたが、おそらく同氏が考えた“改革案”を押し付けるだけでしょう。むしろ、以前より圧力が強まるのではないかと思います」(同)
超人気車種である「ランドクルーザー」なども出荷停止対象となり、ダメージは甚大だが、それでもトヨタは根本的に変わることはないのだろうか。
「トヨタは上しか見えない“ヒラメ社員”ばかりといわれるくらい、章男氏の周辺はイエスマンしかいない状況です。章男氏に進退を迫るぐらいモノ申せる人物が現れない限り、トヨタは変わらないでしょう。しかし、私は実際に章男氏に立てついてクビになったり左遷された社員を見てきているので、難しいと感じます」(同)
今のところトヨタ自動車本体では不正が発覚していないとはいえ、企業体質そのものを変革しなければトヨタは廃れていくおそれすらあるのではないだろうか。
(構成=Business Journal編集部)