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『セクシー田中さん』問題、日テレと小学館が沈黙を貫く理由…詳細調査に壁

文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授
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日本テレビ(「Wikipedia」より/Suicasmo)

 昨年10月期の連続テレビドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)で、原作者の意向に反し何度もプロットや脚本が改変されていたとされる問題。『セクシー田中さん』の制作にあたって原作者の芦原妃名子さんは、ドラマ化を承諾する条件として、原作代理人である小学館を通じて日本テレビ側に、必ず漫画に忠実にするという点などを提示していた。芦原さんは先月29日に亡くなり1週間以上が経過したが、日本テレビと小学館は詳細経緯の説明や調査を行う意向などを発表しておらず、小学館は社員向け説明会で経緯などを社外に発信する予定はない旨を説明したとも報じられている(7日付「Sponichi Annex」記事より)。なぜ大手メディアである両社は沈黙を守るのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 ドラマ制作における原作の取り扱いや原作者の権利保護が大きくクローズアップされテレビ界全体の問題となるなか、注目されているのが日テレと小学館の動きだ。日テレは芦原さんの訃報に際し先月29日と30日に次のコメントを発表して以降、沈黙を守っている。

<2023年10月期の日曜ドラマ『セクシー田中さん』につきまして日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております>(先月29日)

<日本テレビとして、大変重く受け止めております。ドラマ『セクシー田中さん』は、日本テレビの責任において制作および放送を行ったもので、関係者個人へのSNS等での誹謗中傷などはやめていただくよう、切にお願い申し上げます>(先月30日)

 また、小学館も30日に

<先生の生前の多大なご功績に敬意と感謝を表し、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。先生が遺された素晴らしい作品の数々が、これからも多くの皆様に読み続けられることを心から願っております>

とのコメントを発表して以降、情報の発信は行っていない。前述のとおり今後も経緯などに関する社外発信を行わない意向だとも報じられているが、こうした両社の姿勢に対し疑問の声も寄せられている。たとえば、『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』(ともにTBS系)などで知られる脚本家の野木亜紀子氏は5日、X上に次のようにポストしている。

<両社ともこれ以上不幸が起こらないようにとは考えているだろうし、それは当然と思います。個人の責任を追求するということではなく、条件面での掛け違いがあったのならなぜそうなったのか、経緯説明が必要と感じます>

<どちらも大企業で、原作ビジネスで散々金儲けしておきながら、問題が起きたら個々のクリエイターに責任ぶん投げて終わりなんて、そんなことある?そんなことないと思いたいので、このままなかったことにはしないでもらいたいのです>

 日テレおよび小学館は、詳細の経緯説明や調査および結果公表など、なんらかの対外的な対応を行うべきであると考えられるのか。かつて日本テレビで解説委員やドキュメンタリー番組のディレクターを務め、放送局の現場に詳しいジャーナストで上智大学教授の水島宏明氏に解説してもらう。

方針・姿勢を発表することが社会的に求められている

 少なくとも日本テレビには、詳細な経緯の説明や結果公表などの対外的な対応を行うつもりはあると思います。テレビはこうした事案について、世間の空気、特にスポンサーの意向に敏感なメディアであり、それを気にしていないわけはありません。1月31日に『news zero』で有働由美子キャスターが「調査」について言及したことでも明らかですが、なんらかのかたちでやらなければならないことは、日本テレビの関係者も認識していると思います。

 脚本家の野木亜紀子さんがXで指摘したように、第三者委員会のかたちでの調査やそれに向けた動きが必要だと思います。旧ジャニーズ事務所でも問題になったように、国連が率先する「ビジネスと人権」の流れで、人権を尊重する企業なのかどうかは国際的にいろいろな局面で重要になっています。日本テレビはその点を意識しているはずです。第三者委員会の形式かどうかはさておき、こうした場合の「調査」はいろいろな段階で行われるのが通常なので、社内の初期の調査はすでに終わっている可能性も高いと思います。原作が漫画や小説など、オリジナル脚本ではないドラマ作品がこれほど増加している現状を考えると、他のドラマにも影響する可能性が大きく、すぐにでもやるべきですし、月に一度に行われる日本テレビの社長らの記者会見でもこの問題について質問が出るでしょうから、会社としても回答を用意しているはずです。

 ただ、今回はそうした調査や(調査を行った場合の)結果公表を行うにあたり、克服すべき課題や問題があります。それは日本テレビ以外の事情です。芦原さんがすでに亡くなっていることから、真相は闇の中です。彼女が生前SNSに書いていた記述から、日本テレビ側とのやりとりが少しわかっていますが、まだ完全ではありません。最大の課題は、芦原さんのご遺族の意向です。もしも調査するとなると、芦原さんのSNSだけでなく芦原さんが今回のことを家族など周囲にどのように話していたのかという調査も必要になります。ご遺族の協力が必要になってきます。ご遺族が今のところ「どうぞ、今はそっとしておいていただき、静かに見守っていただければ幸いです」と発表していることから、当面はご遺族などへの調査もできないだろうと思います。

 今回、もしも原作者への説明不足やケア不足など日本テレビ側の過失などで芦原さんが死に追いやられたと考えられる場合には、ご遺族が日本テレビを相手に損害賠償を求めるケースも考えられます。これはご遺族と小学館の関係においても同様です。そういう意味では、日本テレビ側もうかつには動けず、慎重に対応しているのだと想像します。日本テレビとしても「調査する」「結果を公表する」などとはまだ言えないのではないかと私は考えています。

 もう一つは、日本テレビ側が芦原さんの側と交渉する際の窓口になっていた小学館との関係です。小学館が日本テレビ側の意向を正確に伝えていたのかという点や、芦原さんとの契約や実務がどうなっていたのか。日本テレビとの間で互いにどういう説明をしていたのかが問われることになります。芦原さんが亡くなったことで、小学館も芦原さんのご遺族から損害賠償を求められる可能性があります。

 報道によると、小学館は2月6日に社員向けの説明会を開いて「経緯などを社外発信する予定はない」と説明したと伝えられています。これについても、対日本テレビ、対ご遺族という利害関係があるなかで決めたということだろうと思います。この点については、直接的にドラマを制作した日本テレビが何も発表していない段階では、小学館から発表することはないという姿勢だと思います。日本テレビが何らかの調査結果を発表した段階で、対応が変わる可能性はあると思います。

 原作者が亡くなっているということや本人の意思を確認できないことから、調査をするにしても日本テレビ側の担当者へのヒアリングと小学館側の担当者へのヒアリング、さらに芦原さんのご遺族らへのヒアリングが必要になります。日本テレビも小学館も自社の担当者に事情を聞いているはずですが、それぞれの会社内でやっているだけで、突き合わせて調査することはできない状態です。場合によっては訴訟などのリスクを抱えてしまっています。そこにご遺族の意向も関わっているため、結果を発表すると、それが自社にとって不利なかたちで使われることも意識しなければなりません。よって両社ともに情報を交換しての「検証」ができない状況になっています。

 徹底した調査や検証を行えないのは仕方がないとしても、特に日本テレビは今後、原作があるドラマに関する契約などについて明確に方針・姿勢を発表することが社会的に求められると思います。せめて、それだけでも再発防止策として公表してほしいと考えています。

【これまでの経緯】

『セクシー田中さん』の制作にあたっては原作者の芦原さんは、ドラマ化を承諾する条件として日本テレビ側に、必ず漫画に忠実にするという点や、ドラマの終盤の「あらすじ」やセリフは原作者が用意したものを原則変更しないで取り込むという点を求めていたとされる。芦原さんが1月にブログなどに投稿した文章によれば、何度も大幅に改変されたプロットや脚本が制作サイドから提出され、終盤の9〜10話も改変されていたため芦原さん自身が脚本を執筆したという。

 問題が表面化したのは昨年12月のことだった。脚本を担当する相沢友子さんは自身のInstagramアカウントで、

「最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました」

「今回の出来事はドラマ制作の在り方、脚本家の存在意義について深く考えさせられるものでした。この苦い経験を次へ生かし、これからもがんばっていかねばと自分に言い聞かせています。どうか、今後同じことが二度と繰り返されませんように」

と投稿。9話・10話の脚本は自身が担当していない旨を説明した。

 これを受けさまざまな憶測が飛び交うなか、1月に芦原さんは自身のブログ上で経緯を説明。ドラマ化を承諾する条件として、制作サイドと以下の取り決めを交わしていたと明かした。

<ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく>

<漫画が完結していない以上、ドラマなりの結末を設定しなければならないドラマオリジナルの終盤も、まだまだ未完の漫画のこれからに影響を及ぼさない様『原作者があらすじからセリフまで』用意する。原作者が用意したものは原則変更しないでいただきたい>

 芦原さんは、これらの条件は<脚本家さんや監督さんなどドラマの制作スタッフの皆様に対して大変失礼な条件>であると認識していたため、<この条件で本当に良いか>ということを原作漫画の発行元である小学館を通じて日本テレビに何度も確認した上でドラマ化に至ったという。

 だが、実際に制作が進行すると毎回、原作を大きく改編したプロットや脚本が制作サイドから提出され、

<漫画で敢えてセオリーを外して描いた展開を、よくある王道の展開に変えられてしまう>

<個性の強い各キャラクター、特に朱里・小西・進吾は原作から大きくかけ離れた別人のようなキャラクターに変更される>

といったことが繰り返された。そして1~8話の脚本については芦原さんが加筆修正を行い、9~10話の脚本は芦原さん自身が執筆し、制作サイドと専門家がその内容を整えるというかたちになったという。

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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