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バルミューダ、経営危機の原因、赤字20億円は重症…「高級家電」路線が岐路

文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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バルミューダの公式サイトより

 高級家電ベンチャーのバルミューダが経営危機に陥っている。同社は9日、2023年12月期連結決算を発表。売上高は前期比26.1%減の130.1億円、営業損益は13.8億円の赤字、最終損益は20.7億円の赤字となった。「BALMUDA Phone」の携帯端末事業からの撤退に伴う特別損失を計上したほか、主力の空調関連製品やキッチン関連製品の大幅な売上減少が影響した。日本、北米、韓国などすべての地域で売上が減少した一方、18年には100人程度だった従業員数は22年には2倍の200人程度にまで増えており、同社は昨年に人員削減の意向を示すなど、固定費削減が急務となっている。バルミューダは復活するのか、もしくはこのまま衰退してしまうのか。識者の見解を交えて追ってみたい。

 元ミュージシャンの寺尾玄社長が03年に創業したバルミューダは、08年のリーマンショックによる経営危機を乗り越え、10年に発売した自然の風を再現する扇風機「The GreenFan」、15年に発売した窯から出したばかりの焼きたての味を再現する「BALMUDA The Toaster」が大ヒット。20年には北米での販売開始、さらには東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たした。

 だが、21年11月に発売したスマートフォン「BALMUDA Phone」の不振が、同社の経営を大きく引っ張ることに。現在のスマホ端末の主流は動画視聴ニーズに応える大型画面や高性能カメラ、薄い形状のものだが、「BALMUDA Phone」はコンパクトなサイズのため画面は小さめで、背面はシボ加工が施され、革製品を模した質感なのが特徴だ。ソフト面では、使うほどに自分好みにカスタマイズできる仕様になっている独自のスケジューラーアプリや、為替などの計算機能がウリだが、発売当初の価格が14万3280円(税込、以下同)と強気だったこともあり販売は低迷。その後、各種値引き適用後の価格を7万円台に値下げし、レンタル後に端末を返却する条件の「2年24円」のプランも提供したが、23年には撤退に追い込まれた。

 一方、主力の空調関連製品とキッチン関連製品も勢いが減速。23年12月期の空調関連の売上高は前期比35.7%減、キッチン関連は14.4%減、その他事業は38.4%減となっている。

赤字の原因は3つ

 百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。

「バルミューダのビジネスモデルは同社のトースターに代表されるような、プレミアム市場向けに開発された高級家電を海外の工場で製造し、主に日本のプレミアム消費者層に販売するというものです。赤字の原因は3つあって、ひとつは円安その他の要因から製品原価が上昇したこと。21年には39.8%あった粗利率が、23年には26.9%まで下がってしまい、利益を出すことが難しくなりました。

 2番目には、生活防衛意識の高まりで売上が減少したこと。そもそも全体で▲26%減少というのは厳しい数字です。さらにバルミューダの国別売上は大半が日本と韓国なのですが、日本以上に韓国が▲46%と大幅に落ち込んだことでより厳しい状況になりました。

 3番目に固定費。これは人件費が一番大きいのですが、それが売上・粗利の減少前の売上水準に設定されていることです。需要が減り、円安で粗利率も落ちたが、固定費は急には減らないので、そのまま大幅な赤字になってしまったわけです」

 売上高130億円に対し最終赤字20億円という赤字幅を財務状況としてどう評価するか。

「さすがにこの規模の赤字は、この規模の企業としては放置できない重症です。バルミューダもそのことは理解していて、緊急避難的にリストラ策を打って、最速での黒字化を目指しています。決算説明会の説明では、主力製品については23年中に新製品の製造コストを低減したうえで、価格改定したことで24年の粗利率は30%台へと回復するめどがたったようです。しかし価格改定ということは、言い換えれば値上げしたわけですから、売上は増えない前提での緊急対処です。つまり24年も売上高130億円近辺しか見込めないなかでの黒字化ですから、当然のことながら人件費の圧縮が必要になります。22年に213人だったバルミューダの従業員数が、24年3月末には3分の2の140人まで減る見込みだといいます。これが実行できれば、いったん黒字化することは期待できるでしょう」

 家電メーカー関係者はいう。

「気になるのは売上が大きく落ち始めている点だ。2010年頃から相次いで新商品が話題となり、目新しさにつられて購入した人々が買い替えのタイミングを迎えてバルミューダの商品を選択していない可能性が考えられる。たとえば扇風機の『The GreenFan』は約4万円、トースターの『BALMUDA The Toaster』は約3万円もするなど、同社の商品はかなり高い。安くても性能が良い家電が大手メーカーから多数出されているなか、リピーター客を獲得するのは難しい。今後しばらくは物価上昇で消費者の節約志向がますます強まっていくと考えられ、同社はしばらく苦戦が続くと予想される」

積極果敢な取り組みは成果も生んでいる

 同社は今回の業績悪化の理由として、以下を挙げている。

・想定以上に厳しい外部環境の影響を受けて売上高が減少
・原材料価格の高止まり
・記録的な円安ドル高による仕入コストの上昇
・旧品在庫のセール、評価減により売上総利益率が低下
・携帯端末事業の終了決定に伴い特別損失を計上

 そして、施策として

・製造コスト低減・価格改定による利幅の改善
・売上規模に対応した組織・人員体制の再構築
・国内外における製品ラインナップの拡大

に取り組むとしている。

 厳しい環境に直面し、同社は手をこまねいているわけではない。中国と米国でオープンドリップ式コーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」を、韓国で電気炊飯器「BALMUDA The Gohan」を、台湾でオーブンレンジ「BALMUDA The Range」を、タイ、マレーシア、シンガポールで「BALMUDA The Toaster」「BALMUDA The Pot」を発売し、海外展開を加速。また、「BALMUDA The Range」「BALMUDA The Toaster」「BALMUDA The Toaster Pro」のリニューアルモデルも投入した。

 こうした積極果敢な取り組みは成果も生んでいる。23年12月期第4四半期連結会計期間の国内家電売上高(携帯端末関連を除く)は過去最高を更新。昨年10月に発売したホットプレート「BALMUDA The Plate Pro」が発売初週で累計出荷台数5000台を突破するヒットを記録したことも話題となった。

日本発の高級家電であるというブランドを引き続き強化すべき

 バルミューダにとって再成長のために必要な施策は何であると考えられるか。前出・鈴木氏はいう。

「前述したように、まずは赤字を止めて緊急避難的に黒字化することが財務体質を維持するためには必須です。そのうえで今後の日本市場では円安が長期化しそうである点と、少子高齢化が続く点を考慮すると、再成長のためにはプラスアルファの戦略が必要になるはずです。

 考えられる戦略のひとつは、日本発の高級家電であるというブランドを引き続き強化していくこと。リストラの結果、商品イメージまで悪化するような間違いを決して起こさないように商品価値に目を光らせることが重要です。その延長線上ではもう一段、商品ブランドイメージが上のレベルになる必要があるかもしれません。具体的には価格が1.5倍に設定されたとしても消費者がバルミューダを選ぶくらいの製品イメージ向上を狙うべきです。

 もうひとつはアジア展開です。今回、韓国市場の売上が大幅に縮小したことで、足元のバルミューダはほぼほぼ日本市場一本足打法の展開になってしまいました。円安、少子化が進む前提で考えると、この状況は好ましくありません。つまり韓国以外のアジア圏の中流の上からプチ富裕層がバルミューダを支持するように多国展開を進めるべきです。香港、シンガポール、マレーシア、タイといった高範囲のアジアでバルミューダブランドが浸透していくように構造を変えていかないと、再成長は見込めないでしょう」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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