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EV急失速の当然の理由…「脱EV推進・エンジン車に回帰」の可能性を検証

文=Business Journal編集部、協力=国沢光宏/自動車評論家
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テスラ「モデルS」(「Wikipedia」より/Benespit)

 米EV(電気自動車)メーカー、テスラの株価が昨年夏の直近ピークから約5割も下落するなどEV失速の懸念が広まっている。独フォルクスワーゲン(VW)が本社工場で量産型EVを生産する計画を中止する一方、年内にエンジン車の人気ブランドのモデルチェンジ車を複数発売する。同じくドイツのメルセデスベンツも2030年までに完全電動化をするとしていた計画を撤回し、新型エンジンの開発に着手。完全EV化・脱エンジン車の旗振り役だった欧州市場の変化を受け、世界的に脱EV一辺倒・エンジン車依存の動きが徐々に広まるのではないかという見方も出始めている。専門家の見解を交え今後の展開を追ってみたい。

 欧州は2035年までに全ての新車をEVなどのゼロエミッション車(ZEV)にするという方針を掲げており、米国政府はEVの購入者向けに最大7500ドルの税額控除を行い、一部州は将来的に全新車のZEV化を決めている。日本も35年までに全新車を電動車にする方針を掲げるなど、EVシフトは世界的潮流でもあった。

 この流れに自動車メーカー各社も対応。メルセデスベンツは30年までに全車種を完全電気自動車(BEV)にするとし、米ゼネラル・モーターズ(GM)は35年までに販売する全乗用車をEVにすると表明。VWは世界におけるEVの販売比率を30年までに50%にするとしていた。

 日本勢もこうした動きに同調。マツダは30年までに全販売に占めるEVの比率を25〜40%に、ホンダは40年までにEV・燃料電池自動車(FCV)販売比率をグローバルで100%に、日産自動車は欧州市場において26年度における電動車両の販売比率を98%にする方針を決定している。

世界ではEVが失速

 自動車メーカー各社の動きとは裏腹に、世界ではEV失速が顕著になっている。欧州では月単位でみるとEV販売が前年比マイナスとなる国も出始めている。背景にはEV購入への補助金の縮小がある。ドイツは昨年12月にEV購入への補助金を終了し、フランスはアジア生産のEVを補助金の対象外とした。イギリスはすでに22年に補助金を終了している。

 米国でもEV普及に暗雲が漂い始めている。バイデン政権は22年に「インフレ抑制法(IRA)」を成立させ、一定条件を満たすクリーン自動車の新車購入者に対し1台あたり最大7500ドルの税額控除を付与するなどしてEV普及を後押ししている。だが、22年10~12月期から3四半期連続でハイブリッド車(HV)の販売台数がEVを上回り、23年10~12月にはトヨタ自動車のHVの販売台数が四半期ベースで過去最高の約18万台となり、米テスラのEV(約17万台)を上回るという事態が起きた(4日付読売新聞記事より)。

 米国のEV動向を大きく左右すると予想されているのが、今年秋に行われる大統領選挙だ。二酸化炭素排出規制に否定的なトランプ氏が勝利すればEV優遇措置は廃止ないし縮小されるとの見方もあり、米国のみならず世界の自動車メーカーは戦略の見直しを迫られることになる。

いまだにエンジン車が主流の欧州

 ちなみに日本では現在、EVの補助金額は1台あたり最大で65万円(非常時に自宅の電源として使える場合は85万円)を上限としている。

「日本の新車販売市場でEVが占める比率は2~3%程度であり『まったく普及していない』状況。なので失速どうこうといえるレベルにすら至っていない。もし仮に世界でEVへの移行という流れが止まっても、日本では『これまでどおりエンジン車を買えばいいんだよね』となるだけ」(自動車業界関係者)

 実はEVへの転換が進んでいるとされる欧州ですら、いまだに新車販売の8割がエンジン車となっている。2月8日付日本経済新聞記事によれば、欧州市場の22年から23年にかけてのEV販売の伸びは2.5ポイントであるのに対し、HV(HEVのみ)のそれは3.1ポイントとHVのほうが上回っている。また、23年の新車販売に占めるHVの比率は33.5%なのに対し、EVは14.6%にとどまっている。そしてガソリン車の占める比率の下落率は縮小傾向にあり、22年から23年にかけては1.1ポイントの下落にとどまり、23年時点でも新車販売の35.3%を占めている。そして、エンジン車とハイブリッド車を合計した「エンジン搭載車」の比率は同年時点で82.4%に上るのだ。

 こうした世界市場の変化を受け、自動車メーカーも方針転換をあらわにしている。30年に完全電動化をするとしていたメルセデスベンツはこれを撤回し、新型エンジンの開発に着手。GMはプラグインハイブリッド車(PHV)の生産再開の検討に入ったと伝えられており、ミシガン州の工場での電動ピックアップトラックの生産拡大の延期を発表している。そして大きなニュースとなったのが、アップルのEV開発からの撤退だ。アップルは2010年代の半ばから完全自動化機能を搭載するEV「アップルカー」の開発に取り組んでいたが、先月に中止が明らかとなった。

踊り場を迎えたEV販売

 なぜ、ここにきてEV失速が顕著になっているのか。自動車評論家の国沢光宏氏はいう。

「まだEVには不便な点が多いものの、所有することによるメリットのほうが大きい地域では売れています。表面的な販売台数だけを見て『失速している』と伝える報道や解説が目立ちますが、『行き渡るべき人には、ひとまずは行き渡った』ため、いったん踊り場を迎えているというのが現状ではないでしょうか。たとえば欧州の一部の国では、企業がカンパニーカーとして社用車を購入して社員に通勤用として貸与する制度があり、政府はカンパニーカーとしてEVを購入する企業に補助金を出しています。欧州におけるEVの主な購入者はカンパニーカー利用を想定する企業であり、この制度を利用する企業にはいったんEVが行き渡ったため新規購入が減るのは当然です。ちなみに補助金がないスペインのEV普及率は日本と同じくらい低いです。

 また、米国の都市部につながる高速道路は通勤時間帯の渋滞が激しく、EVなど特定の種類の車両だけ走行可能なカー・プール・レーンがあり、EVだとガラガラの車線を走れるという理由でEVを買う人が一定数いる。そういうニーズで買う人には、ひとまず行き渡ったため米国でも販売が落ち着き始めた。なので米国では都市部以外ではEVはあまり売れていません。

 一方、中国は安価なEVを製造する自国メーカーが多数出てきており、順調に販売が伸びています」

 今後、世界市場ではEV推進の流れが失速し、エンジン車回帰の動きが進む可能性はあるのか。

「二酸化炭素(CO2)排出量の削減は日米欧をはじめとする先進国政府が取り組むべき絶対的な命題として掲げており、EV普及を推進させていく政策に変更はないでしょう。各国政府が完全電動化する目標として設定している年が後ろ倒しになるなど若干の修正はあるかもしれませんが、新しい技術の実用化と価格低下が進むのに伴い将来的にEVが主流となっていく流れは変わりません。たとえばトヨタは革新的なバイポーラ型リン酸鉄リチウム電池を26年に実用化する計画ですが、実現すればEV普及の大きな起爆剤になると予想されます。

 もっとも、日米欧や中国以外の国では今後もエンジン車は残るので、その領域では引き続きトヨタが優位に立ちます」

国沢光宏/カージャーナリスト

国沢光宏/カージャーナリスト

1958年東京中野生まれ。1981年に三推社(現・講談社ビーシー)に入社し、「ベストカーガイド」編集部員を経て、1984年よりフリーに転身。数々のカー雑誌への寄稿や、ラジオやテレビといったメディアへの出演しているほか、日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員も務めている。
自動車評論家 国沢光宏 公式サイト

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