1999年、当時経営危機に陥った日産と提携したルノーから送り込まれたゴーン氏は、日産の改革を進めるに当たり、その先兵として志賀氏をCOOに抜擢した。当初、社内には志賀COOを冷ややかに見る雰囲気も強かったが、徐々に理解者が増えていった。
「安物ばかりつくって客を騙すんじゃなくて、しっかりした付加価値の高いクルマをつくれ」と社内に檄を飛ばしてきたのが志賀氏だった。「ゴーン氏は、伸びが期待できない日本市場は、GT-Rを広告塔にして安いクルマをつくればいいと考えていた」(業界関係者)ともいわれており、一般消費者向けで実用性に優れたマーチやラティオの生産拠点を東南アジアに移し、シルフィは日本製だが中国市場向けのモデルに変更されたのも日本市場軽視の表れとみられている。ちなみに、マーチはタイやインドなど東南アジアで生産されるようになり、販売が激減した。
志賀氏のCOO解任により、ルノーと同様に日産でもCOO職が廃止になり、ゴーン氏一極体制が一層強まることになる。日産社内では今、「日産はルノー=フランスの植民地になるのではないか」との懸念の声すら上がっている。
冒頭の記者会見で発表された日産の決算は、本業の儲けを示す営業利益は2.6%減の2219億円となり、3年連続の営業減益となった。その結果、14年3月期連結決算(日本基準)業績予想の下方修正を余儀なくされた。売上高は従来予想(5月時点)より1800億円少ない10兆1900億円(前年同期比16.6%増)。営業利益は1200億円少ない4900億円(同11.7%増)、最終利益は650億円少ない3550億円(同4.1%増)にそれぞれ引き下げた。
その席上で自らの進退を問われたゴーン氏は、「決めるのは株主だ」と突き放した。日産の筆頭株主はルノーで、43.40%を保有している。ルノーのCEOはゴーン氏であり、同社の主要株主であるフランス政府は15%の株式を保有している。フランス政府は“物言う株主”だ。特に雇用には敏感で、「ルノーの業績が悪い時、日産がルノーを助けるのは当たり前だ」とモントブール産業再生相は13年1月に語っている。これを受け、日産は同年4月末に次期マイクラ(日本名はマーチ)をルノーの工場で生産することを決めた。アジアから欧州に輸出していた分の生産をルノーの工場に移管し、ルノーの工場稼働率を上げて雇用を守ることになった。日産がインドで自社生産しているマーチをルノーの工場に移管すれば、日産にとってみればコスト高となる。日産の利益は減り、それがルノーの売り上げに変わるわけだ。こうした流れの中で、志賀氏が経営の第一線から外された。本当に「日産はフランスの植民地になる」のだろうか?
●EV、前のめりの代償
その日産が力を入れるのが電気自動車(EV)だが、EVの販売低迷が日産の業績見通しを狂わせている大きな要因のひとつといわれている。
日産は10年12月、日本と米国で世界初の量産型EV「リーフ」を発売。同年11年には、「17年3月までに、ルノーと合わせ150万台を販売する」と宣言した。発売に際しゴーン氏は、EV技術が未完成の状態であったにもかかわらず、EV販売を急ぎ、強行した。販売が低迷するEV市場全体の中で見れば、「リーフ」の累計販売台数15万台は健闘しているともいえ、「十分、売れている」(日産の技術者)というのが本音だろう。ゴーン氏がEV販売に肩入れし、「150万台」という過大な期待を市場に与えなければ、日産のEVの売れ行きがこれほど失望を与えることはなかっただろう。
EVの充電インフラ設備の普及に日本政府は1005億円を投じるが、あくまで今の充電インフラは第一世代であり、今後大幅に改良される。すぐに陳腐化する設備を税金で大量に整備することを批判する指摘も多いが、充電インフラ設備もまだ生煮え状態なのだ。日産は、そうした生煮え技術のEV市場への参入を急ぎすぎた。
ゴーン氏は、今春に開かれるルノーの株主総会でCEOの任期切れを迎える。欧州の景気低迷を受け、ルノーの経営環境は厳しい。ルノーの筆頭株主である仏政府の出方によっては、ルノーの経営トップの座も揺らぎかねないが、ルノーと日産でワンマン体制を確立したゴーン氏は、「自分が立て直す」と続投の構えを見せている。ゴーン氏の去就、そしてルノー再建に日産が大きな犠牲を負わされつつ利用されるのか、業界内の注目が集まっている。
(文=編集部)