米国で25年物の三菱自動車工業「Mitsubishi 3000GT」を運転中の男性が前方の車を追い越す際に、コントロールを失い事故を起こし重傷を負った事故。男性の妻はその原因が車両の拘束システムの欠陥にあるとして三菱自動車と米国子会社Mitsubishi Motors North America, Inc.(MMNA)を相手取り損害賠償を求める訴訟を提起していたが、米国ペンシルベニア州フィラデルフィア一般訴訟裁判所は6日、MMNAに10億1000万ドル(日本円で約1515億円)の損害賠償の支払いを命じる判決を出した。なぜ、これほど高額な損害賠償の支払い命令が出されたのか――。
「アウトランダー」「デリカD:5」「eKクロス」などで知られ、日本の自動車メーカーとしては世界生産台数ベースで5位(2024年1月)の三菱自動車。仏ルノー、日産自動車とアライアンスを提携し、世界販売トップ3の自動車メーカー連合を形成する。業績は好調で、24年3月期決算は売上高が前年度比13.5%増の2兆7895億円、営業利益が同0.2%増の1909億円となり、ともに過去最高を記録した。
その三菱自動車が米国で起こされた訴訟で揺れている。事の発端は17年に1992年製の「3000GT」を運転する男性が起こした事故だった。男性は2車線の道路で前方の車を追い越す際にコントロールを失い事故を起こし重症を負った。原告の妻は車両の拘束システムの欠陥が原因だとして三菱自動車とMMNAに損害賠償を求める訴訟を提起(三菱自動車への訴訟はすでに却下)。MMNAは車両に欠陥はなかったと主張しているが、裁判所は6日、MMNAに9億7600万ドルの損害賠償と3300万ドルの遅延金利の計10億1000万ドルを支払うよう命じる判決を出した。三菱自動車とMMNAは判決に承服しかねるとして控訴する予定。
訴状における原告側の請求額は「5万ドル(750万円)以上」となっていたが、なぜこれほどの高額の損害賠償が認められたのか。
「米国では日本にはない懲罰的損害賠償というものがあり、純粋に原告が被った損害を賠償する分だけではなく、被告に懲罰を与える意味合いの分も賠償に加算される。その州で過去に同類の裁判で高額な賠償命令が出された判例があったりすると、それに則るかたちで陪審団が日本では考えられないほど高額な賠償を命じることがある。特に海外から進出する企業の場合は、より高額になる傾向がある」(東京都内の法律事務所に所属する弁護士)
州によって大きくことなる裁判の実情
過去には米国で日本企業に対し高額な賠償命令が出されたケースは少なくない。
トヨタ自動車は、同社の「レクサスES300」が追突され子ども2人が負傷した事故で、座席の不具合が原因だったとして夫婦から損害賠償を求めて提訴され、18年、テキサス州地方裁判所の陪審団から約2億4200万ドル(当時のレートで約270億円)の損害賠償を命じられた。
武田薬品工業は、糖尿病治療薬「アクトス」を投与されたことが原因で膀胱がんになったとして男性から提訴され、14年、米ルイジアナ州連邦地裁の陪審団から60億ドル(同約6200億円)の損害賠償支払いが命じられた(のちに減額)。
このほか、「意図しない急加速」問題で09~10年に大量リコールを起こしたトヨタが14年に米司法省と和解した際、その和解金が12億ドル(同約1200億円)にも上ったことは当時、大きく注目された。
「米国は州によって法律が異なり、同じような内容の訴訟でも州によって損害賠償額が大きく違ってくる。旧来型の自動車や鉄鋼などの製造業や石油関連企業が多いラストベルトと呼ばれる地域にはブルーカラー労働者が多く保守的だとされるが、この地域は海外企業が進出してくることへの抵抗が強く、地域住民で構成される陪審団が海外企業に対して厳しい評決を出すケースもある。今回、三菱自動車が提訴されたのがラストベルトのペンシルベニア州の裁判所だということも、賠償額が高額になったひとつの要因としてはあるだろう。
また、三菱自動車の23年度の北米での売上高は7000億円以上であり、原告側の弁護士がこの点を強調して陪審団に『こんなに儲けているのだから高額な賠償は当然だ』という印象を植え付けた可能性も考えられる。一般的に代理人を務める弁護士は賠償の金額に応じて手にする報酬が決まるので、大企業が相手だとできるだけ賠償金額をつり上げようとあの手この手を使う」(前出・弁護士)
(文=Business Journal編集部)