あるクリエイターがテレビ番組『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日)から出演依頼を受けた際、番組スタッフがZoomでの打ち合わせ中に終始“タメ口”だったため、終わり際にその疑問を投げたところ連絡が途絶えたという体験をX(旧Twitter)上に投稿し、話題を呼んでいる。このようなテレビ局による非常識な対応の事例は多いのか。また、なぜ発生するのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
過去、専門家や文化人、一般人などがテレビ局から非常識な出演依頼や協力依頼を受け、問題視されたケースは少なくない。
コラムニストの吉田豪氏は2013年、情報サイト「日刊ナックルズ」(現TABLO)連載記事の中で、『アッコにおまかせ!』(TBS系)からの仕事依頼だったことを匂わせつつ、次のように書いている。
「某番組のスタッフの人(面識なし)から『某芸能人の絶版の本を探してるんですけど、吉田さんなら持ってますよね? あの本を明日の放送で紹介したいから、いますぐ表紙の写真を撮ってメールして下さい』との連絡あり。もちろん謝礼云々の話はないので、無償でやってくれってことなんだと思います! テレビすごい!(中略)最初は何度か協力したんですけどいつも当たり前のように無償だった」
15年3月、企業経営者は、同番組のスタッフからブログに掲載した大塚家具やニトリに関する図表を番組で使いたいと申請を受け、了承していないにもかかわらず番組で使用された上に、引用元の紹介すらされていなかったとブログ上で明かした。14年5月には、弁護士が同番組に取材協力した際のこととして、X上に「実に横着で、わからないことを、自分で調べず、他人に丸投げで聞いてきて、散々説明させ、ギャラも払わず、番組でも何ら紹介せず、ばかり。俺はお前らのアシスタントじゃねーよ」と投稿した。
22年4月、人気のフルーツサンド店が情報バラエティ番組『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)から取材依頼を受け、フルーツサンドを1000個製造して待っていたものの、ドタキャンされたと告発。同年7月、信号機マニアである「くきわかめ」さんはX上で、テレビ局の番組スタッフから「くきわかめ」さんが持つ電球式信号機を貸してほしいという依頼を受けた際のエピソードを投稿。番組内容や用途を確認したところ、とある商品の開発者が信号機に石を投げてもヒビが入らなかったという再現ドラマの撮影をするため、「くきわかめ」さんの信号機に石を投げさせてほしい、という非常識な依頼だったという。
時事YouTuberで笑下村塾代表の「たかまつなな」氏は今年1月、X上で、
<テレビに出たあとに、出演料をはらってくれる様子がなくて、電話したら、「いくら欲しいんですか?」とキレ気味で言われたことがある。事務所から独立したばっかの時で、大きな後ろ盾がないと、こういう態度を平気でとられることを知った。電話しなかったら多分出演料払われなかったと思う>
<いまだに出演料払われていない局もある。テレビでたくさんの人に伝えることはしたいけど、テレビの人のそういう感じがあまり好きじゃないから、疎遠になってしまった面もあります>
と投稿した。
メディア関係者はいう。
「TBSの某情報番組スタッフからウチの編集部に電話がかかってきて、前置きもなくいきなり『●の記事で扱っているネタをウチでもやることになったのですが、記事内の●の部分の根拠や出典元がわからないので、調べて今日中に折り返し電話をください』と言われたのです。とても他人にお願いごとをする態度ではなく、まるで自分の部下に指示するかのような言い方に、『何様なのか……』と呆れたことがあります。テレビ局さんから取材協力依頼を受けることはしばしばありますが、大抵は礼儀正しく“お願い”姿勢なので、可能な範囲で対応させていただきますが、特にTBS番組スタッフから横柄な仕事依頼を受けたという話は、メディア関係者の間ではよく聞かれます」(15年5月17日付け当サイト記事より)
あるYouTuberは自身の体験を次のように語る。
「渋谷で撮影していたところ、いきなりテレビ局スタッフにカメラを向けられ『YouTuberですよね? ちょっと端っこ来てくださいよ』と言われて連れていかれ、断りもなくカメラを向けられたまま、いろいろと質問された。最後まで番組名を言われなかったので、どの番組なのか聞いたところ、キー局の有名バラエティ番組だった。放送で顔を映してよいかすらも聞かれず、あまりの失礼さに驚いた」
一昔前はタメ口が常識?
なぜこのようなテレビ番組スタッフによる失礼な対応が多いのか。テレビ制作プロデューサーはいう。
「一昔前のテレビ業界人には初対面の人にもタメ口で話す人が多く、悪気があるわけではなく、親近感を演出して距離を近づけたいと考えているだけ。今回Xで告発されているのはテレビ制作会社のAD(アシスタントディレクター)かディレクターだと思われるが、通常だとこの手の打ち合わせを担当する若手ADが不足していたため中堅かベテランのディレクターが出てきて、いつもの調子でタメ口で話していたのか、単に常識がないADだった可能性が考えられる。もし後者だとすれば、いくら若手でも出演交渉の相手に敬語を使わないというのは、よほど常識がない人間で、稀なケースだろう。
また、局によっても違いがあり、たとえばテレビ朝日の報道部門には出演依頼や取材協力のオファーをする際のプロセスやメール文章の例文、言葉遣いなどが書かれたルールブックのようなものがあり、基本的には制作会社の人間もそれに則る」
制作予算の減少やスタッフの人手不足の深刻化も背景にはあるという。番組制作を担うテレビ制作会社を取り巻く環境は深刻だ。東京商工リサーチの発表によると、制作会社の昨年(23年)の倒産は9月までの9カ月間で、14年以降の10年間で最も多かった18年の13件を超えた。東京商工リサーチは「コロナ禍の当初は、緊急事態宣言の発令による外出自粛などで番組制作の中止や延期を余儀なくされ、制作会社の業績に大きく影響した」と分析。「長引く受注減に加え、制作コストや人件費の上昇から、小規模の制作会社を中心に倒産は今後も高い水準で推移する可能性が高い」と見ている。
「タレントではない専門家や文化人に出演してもらう際、収録が終わるまでギャラの話をしなかったり、放送が終わっても本人から言ってこない限りギャラの話をしないことが業界の慣習となっている。制作費がないので、払わずに済ませたいという思いもあるし、出演依頼のタイミングで高いギャラを提示され、それが原因で出演してくれなくなると困るからだ。ちなみに専門家などの出演料は1本1万5000円~2万円くらいが相場。
また、素人にゲストで出演してもらったり、VTRで映すために所有物を借りたり、専門家などに一言だけVTRコメントをもらうケースでは、基本的にはギャラは払わない。以前はADが“お気持ち”としてお土産を持参したり送ったりしていたし、協力してくれた人たちに番組を録画したDVDを配布していた時代もあったが、今は人手不足で忙しすぎて、そうしたことをやっている余裕がない」(テレビ制作関係者)
テレビ業界関係者の勘違い
テレビ業界関係者も勘違いも影響しているという。
「いまに一般人はみんなテレビに出たがっていると勘違いしている業界人が多いが、街頭で一般人へのインタビュー撮りなどをしているとわかるが、そう思っている人などいない。『一言だけ撮らせていただけますか?』と声をかけても無視されるのが大半で、すれ違いざまに“マスゴミ”と言われることも多い。
テレビ局の姿勢も悪い。報道番組では街頭インタビューに応じてくれた一般人の顔は映してよいというルールにして、取材後にその人に『顔出しOK』の承諾を得る署名にサインしてもらうという手続きを踏んでいない番組も多い。『報道番組の取材に応じてくれたということは、顔を映しても構わないということ』と勝手に解釈しているからだ。その点はバラエティのほうが、のちのちトラブルにならないようしっかり対応している」(テレビ制作関係者)
そもそもテレビ業界が多くのスタッフの無理な働き方を前提に回っていることが、協力者への非常識な対応を招いているとの指摘もある。
「編集作業を24時間単位で行うのは業界では普通のこと。週1回放送の1時間モノのレギュラー番組だと、まずスタジオ収録本番で出演者が見るVTRを事前に収録して編集するが、その編集作業に24時間かける。その後、スタジオ収録を行い、その素材をもとに24時間の編集作業を2~3回やるという感じ。20分くらいのVTRをつくるのに、まずディレクターが自分のPCで編集してから局の編集室に入り、編集マンと一緒に24時間かけてテロップや特殊効果、音を入れていくということも珍しくない。
編集マンは24時間でいったん作業が終わるが、ディレクターは局のプロデューサーからチェックを受けたりと他の仕事もあるため、納品まで延々と仕事が続く。一般的に週1のレギュラー番組だと、ディレクターが4人いて1人あたり月1回の放送分を担当するかたちだが、ディレクターは複数の番組を掛け持ちしているので、2~3日ぶっ続けで仕事をして何日も家に帰れないというのはザラにある。私が過去に4本掛け持ちしていたときは、番組1本あたり24時間の編集作業が2~3回あり、それが月4本入るので、半年くらい休みがなかった。
地獄になるのが特番だ。2~3時間モノの特番でもVTRやロケの収録が放送日の1週間前というのはザラで、放送時間が長い分、編集作業も長くなるので、1回24時間の編集作業を何回もやることになる」(テレビ制作関係者/5月1日付け当サイト記事より)
(文=Business Journal編集部)