損害保険ジャパンによる情報漏洩(ろうえい)の発覚が止まらない。保険代理店の朋栄(横浜市)は19日、損保ジャパンからの出向転籍者が、損保ジャパンからの要請に応じて朋栄の顧客契約情報1518件を損保ジャパンに漏洩させていたと発表した。損保ジャパンでは今月12日にも別の代理店で同様の事案があったことが発表されており、同社が以前から組織的に出向者に指示して情報を漏洩させていた疑いが持たれている。同社がこのような行為を行う目的とは何か。また、同社に限らず他の損保でも行われていることなのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
朋栄から損保ジャパンに漏洩していたのは、アパートローン利用者向け火災保険契約者の情報、計1518名分(個人890名、法人628 社)。漏洩した情報は保険契約者名、法人個人区分、保険会社名(損害保険会社4社)、保険種目、保険始期、保険料、紹介先、担当者名、案件番号等。期間は2021年5月~11月、22年2月~24年5月始期契約。朋栄の発表によれば、損保ジャパンからの出向転籍者が同社社員からの契約シェア確認の要請に対し、朋栄の顧客契約情報を提供していた。
損保ジャパンは今月12日にも、保険代理店・トータル保険サービスへの出向者が同社の顧客の損害保険契約情報、計2700件を損保ジャパンに漏洩させていたと発表されていた。
「一部の損保会社では、代理店への出向者がそこの顧客契約情報を出向元の損保会社と共有するという行為が以前から常態化しており、代理店側も黙認してうるさく言ってこなかったため、あまり問題視されなかった。業界内でも特にシェア拡大志向が強くガツガツした営業体質で知られる損保ジャパンだけに、組織的に露骨にやり過ぎて目立ってしまったのだろう。
代理店の発表では、損保ジャパンは契約シェアの確認のために漏洩を指示していたというが、それなら出向者が損保ジャパンのシェアだけを伝えれば済む話であり、契約者名や契約している保険会社、さらには紹介先や代理店内部の担当者名、案件番号まで伝える必要はない。損保ジャパンが他社の契約者を自社へ切り替えさせるための営業活動に使おうとしていたと考えるのが自然。
損保ジャパンは相次ぐ情報漏洩事故についてリリースを出したり会見などをしておらず、問題をこれ以上大きくしたくないという姿勢がうかがえ、このまま幕引きを図ろうとしている気配もあるが、しっかり調査・公表して一気に膿(うみ)を出し切ったほうがよい。
損保業界の特異性も背景にはある。損保各社が社内の営業情報を共有するためのシステム『損保VAN』が存在し、現場では同じ顧客や代理店を担当する営業社員の間で各社の契約情報などを共有することが慣習となってきた。いわば顧客情報をはじめとする社内の営業情報を外部へ漏らしていたわけで、現在のコンプラの基準でいえばアウトになってくる」(大手損保会社社員)
別の損保会社社員はいう。
「損保業界は共同保険契約で各社が共同で保険を引き受けるケースもあることから、分野によってはバチバチに競合するのではなくシェアを分け合いましょうねという傾向があるなど、少し特殊な業界。また、金融庁によりガチガチに監督されている業界でもあり、各社がある程度足並みをそろえて金融庁に申し入れをしたり、物事を進めることもある。そのため大手3社が業界のリーダー的な存在となっているが、東京海上日動火災保険は三菱グループ系、三井住友海上火災保険は三井・住友グループ系で安定した法人契約を一定程度確保できるのに対し、損保ジャパンは芙蓉グループではあるものの独立色が強く、他大手2社とカラーが違う。積極的な営業姿勢で知られ、営業社員へのノルマが厳しいという評判がある」
経営陣も不正に関与
現在、損保ジャパンの経営は揺れている。旧ビッグモーターの不正請求問題は損保ジャパンの白川儀一社長と親会社SOMPOホールディングスの桜田謙悟会長兼グループ最高経営責任者の辞任にまで発展し、金融庁から業務改善命令を受けた。
さらに、競合他社との事前の保険料調整をめぐり昨年6月に金融庁から報告徴求命令を受けていたが、先月に外部の弁護士からなる調査委員会の報告書を公表。そのなかで、共同保険契約の更改の際、顧客である契約者への見積提示前に、競合他社との間で引受可能なシェアや見積保険料、保険料率、補償条件などについて調整を行うことが常態化していたことが明らかにされた。各損保会社内における保険契約の対象となる付保物件の評価額や、保険事故発生リスクの評価内容などの機微情報も共有されていた。従前からの各社の引受シェアを維持し、かつ保険料の値下げ競争を避けるのが目的であり、独占禁止法に違反する。
団体扱保険料の割引率改定時における契約者への最大割引率の提示や、官公庁などの管財保険の入札でも、このような競合他社との事前調整を行っていた。
経営陣自らも不正行為を行っていた。20年、新型コロナウイルス感染症に関する商品改定に際して、経営陣は約款などの情報を他社と交換し、他社から入手した情報を取締役を中心とした経営陣を含むメールチェーンでやり取りしていた。独禁法に違反するリスクがあることを法務・コンプライアンス部担当取締役が指摘したところ、当時の法務部門の管理職が賛同するかたちでメールチェーンを削除し、その後も情報交換を続けていた。最終的には社内で上記メール宛先の関係者に対してメールを削除する旨の指示が周知され、調査部の管理職がメールチェーンの内容を印刷し、自宅に持ち帰り保管していた。
金融庁への虚偽報告も行っていた。23年8月、金融庁から保険料調整行為に関して報告徴求命令を受けた際、「独占禁止法に抵触するおそれのある行為」と「独占禁止法には抵触しないと考えられるが不適切な行為」について、該当する件数を極力少なく見せようと上記区分を変更するなどして金融庁へ報告。弁護士から合理性・妥当性について再三疑義を呈されていたにもかかわらず、それを無視していた。このほか、同10月、金融庁に対し、役員の不適切行為に関する認識についてのアンケート結果を提出する際、役員によるアンケートへの回答の一部を改変していた。法務・コンプライアンス部の担当者が改変していたことも明らかになった。
「大手金融機関は一般企業よりも高いレベルのコンプラが要求される。損保ジャパンの一連の不祥事を見る限り、ガラの悪い中小企業がそのまま図体だけ大きくなったような印象すら受ける。解体的な出直しが必要だろう」(大手損保会社社員)
(文=Business Journal編集部)