また損害保険ジャパンで不祥事が発覚した。保険代理店「トータル保険サービス」は12日、同社の顧客の損害保険契約情報を損保ジャパン社員が漏洩させていたと発表した。損保ジャパンといえば、旧ビッグモーターの不正請求問題をめぐり金融庁から業務改善命令を受け、競合他社との事前の保険料調整問題では経営陣が不正行為や証拠の隠蔽を行っていたことが発覚するなど、不祥事が相次いでいる。背景には同社の脱法体質があるとも指摘されている。
トータル保険サービスの発表によれば、同社に損保ジャパンから出向していた社員が、トータル保険サービスの顧客損害保険契約情報、計2700件を損保ジャパンに漏洩させていた。対象のデータは契約者名、保険会社名(損保ジャパンを含む損保19社)、保険種目、保険料、担当部署名、担当者名など。
損保会社や生命保険会社が自社商品を販売する代理店に対し、さまざまなかたちで便宜を図ることは業界で慣習化している。その一つが社員を出向させ代理店の業務を支援させることだ。ビッグモーター問題を受けて損保各社はこうした代理店への便宜供与を見直す動きをみせており、生保会社についても金融庁が是正を促す方針とされる。
「損保ジャパンに限らず、代理店への便宜供与はどの損保会社もやっており、代理店が欲しい情報を提供したり事業者を紹介したり、休日に各種イベントのお手伝いに駆り出されてタダ働きしたり、代理店がディーラーの場合は社員が個人で自動車を購入したりもする。代理店側は損害保険会社の貢献度に基づき各社の契約シェアを判断するため、保険会社側としては営業活動の一環という認識。
損保会社が出向者を出すのは、要は自社の保険商品をより多く販売させるのが目的。損保社員が出向先で入手した顧客の契約情報を自社に提供し共有するという行為は、大っぴらではないにせよ以前から存在する。ゴリ押し営業体質で知られる損保ジャパンだけに、あからさまにやり過ぎて問題視されたということだろう」(大手損保会社社員)
契約者に損させてまで会社の利益を増やす
代理店への出向といえば、損保ジャパンは長年にわたりビッグモーターに出向者を送り込んでいた。損保会社に提示する事故車の修理代見積もりを高く見せかけるための指南をしたり、自社の保険契約者の事故車をビッグモーターに優先的に斡旋するなどしていたとされる。また、昨年にはビッグモーターによる不正請求の発覚を受けて損保会社各社が同社との取引を停止するなかで、損保ジャパンのみが取引を再開し保険契約シェアを拡大。大手損保3社が協議を行いビッグモーターに対し調査委員会設置を提案する方向で調整していたところ、突如として損保ジャパンが協議から離脱していたこともわかっている。金融庁は損保ジャパンと親会社SOMPOホールディングスに業務改善命令を出し、SOMPOの桜田謙悟会長兼グループ最高経営責任者と損保ジャパンの白川儀一社長は辞任に追い込まれた。
「ビッグモーターによる不正請求で損保ジャパンの契約者は損失を被っていたわけだが、損保ジャパンはその問題に目をつぶってビッグモーターとの取引を抜け駆け的に再開したわけで、契約者に損させてまで会社の利益を増やそうとしていたことになり、極めて悪質。金融庁が営業停止処分ではなく業務改善命令で済ませたのは甘すぎる」(大手損保会社社員)
経営陣自らも不正行為
ビッグモーター問題での補償対応の本格化を控えるなか、新たな不正が浮上。損保ジャパンは競合他社との事前の保険料調整をめぐり昨年6月に金融庁から報告徴求命令を受けていたが、先月に外部の弁護士からなる調査委員会の報告書を公表。そのなかで、共同保険契約の更改の際、顧客である契約者への見積提示前に、競合他社との間で引受可能なシェアや見積保険料、保険料率、補償条件などについて調整を行うことが常態化していたことが明らかにされた。各損保会社内における保険契約の対象となる付保物件の評価額や、保険事故発生リスクの評価内容などの機微情報も共有されていた。従前からの各社の引受シェアを維持し、かつ保険料の値下げ競争を避けるのが目的であり、独占禁止法に違反する。
団体扱保険料の割引率改定時における契約者への最大割引率の提示や、官公庁などの管財保険の入札でも、このような競合他社との事前調整を行っていた。
経営陣自らも不正行為を行っていた。20年、新型コロナウイルス感染症に関する商品改定に際して、経営陣は約款などの情報を他社と交換し、他社から入手した情報を取締役を中心とした経営陣を含むメールチェーンでやり取りしていた。独禁法に違反するリスクがあることを法務・コンプライアンス部担当取締役が指摘したところ、当時の法務部門の管理職が賛同するかたちでメールチェーンを削除し、その後も情報交換を続けていた。最終的には社内で上記メール宛先の関係者に対してメールを削除する旨の指示が周知され、調査部の管理職がメールチェーンの内容を印刷し、自宅に持ち帰り保管していた。
金融庁への虚偽報告も行っていた。23年8月、金融庁から保険料調整行為に関して報告徴求命令を受けた際、「独占禁止法に抵触するおそれのある行為」と「独占禁止法には抵触しないと考えられるが不適切な行為」について、該当する件数を極力少なく見せようと上記区分を変更するなどして金融庁へ報告。弁護士から合理性・妥当性について再三疑義を呈されていたにもかかわらず、それを無視していた。
このほか、昨年10月、金融庁に対し、役員の不適切行為に関する認識についてのアンケート結果を提出する際、役員によるアンケートへの回答の一部を改変していた。法務・コンプライアンス部の担当者が改変していた。
損保ジャパンと取引がある大手企業社員はいう。
「ウチの顧客には他の大手損保会社もいるが、他の損保と比べて、損保ジャパンはこちらの事情を考慮せずに無理な要求をしてくる傾向がある。一連の不祥事に関する報道をみていると、モラルや顧客の利益を二の次にして、とにかく自社の都合と利益を最優先させる会社なんだなあと改めて実感した」
(文=Business Journal編集部)