国土交通省は7月31日、新たに7車種で型式指定における認証不正が判明したとして、トヨタ自動車に対して組織の抜本的な改善を命じる「是正命令」を発出したと発表した。トヨタでは6月に7車種で不正があったと発表後、社内で過去の認証手続きについて追加調査を行った上で国交省に新たな不正はないと報告していたが、国交省による立ち入り検査で追加で不正が判明した。自動車業界内からは「国交省は頑なにトヨタに、ひれ伏させようとしている」と疑問の声もあがっている。
トヨタは6月に7車種(現行3車種、生産終了4車種)で不正があったと発表。過去10年分の全モデルについて調査を行い、7月5日に新たな不正は確認されなかったと国交省に報告。だが、立ち入り検査を行っていた国交省は7月31日、7車種で新たに不正が見つかったとして同社に道路運送車両法に基づき是正命令を発出した。今回不正が見つかった7車種のうち現行車種は「ノア/ヴォクシー」「RAV4」「ハリアー」「レクサスLM」。「ノア/ヴォクシー」は先月29日から出荷を停止しているが、基準への適合が確認されたため出荷を再開する見込み。
新たに不正が発覚した7車種のうち6車種は海外の認証機関で型式取得しており、相互承認を利用していた。相互承認とは「車両等の型式認定相互承認協定」と呼ばれる制度で、認定を取得した装置については当該協定規則を採用した他の協定締約国での認定手続きが不要になる。国交省は以下4点の不正が確認されたとしている。
(1)自動車型式指定規則(昭和26年運輸省令第85号)第3条違反
・試験車両に対する加工により、申請に係る自動車と異なる状態の自動車を、審査機関((独)自動車技術総合機構)に提示
(2)自動車型式指定規則第13条違反
・試験車両に対する加工や、試験成績書への虚偽記載等により、自動車型式指定申請の申請書その他の書面に虚偽の記載
(3)装置型式指定規則(平成10年運輸省令第66号)第4条違反
・試験装置に対する加工により、申請に係る装置と異なる状態の装置を審査機関((独)自動車技術総合機構)に提示
(4)装置型式指定規則第14条違反
・試験装置に対する加工や、規定と異なる試験機器の使用により、装置型式指定申請の申請書その他の書面に虚偽の記載
これを受け国交省はトヨタに対し是正命令を発出し、以下3点の措置を講じるように命令。再発防止策の提出と進捗状況の定期報告を命令した。
・会社全体の業務運営体制の再構築
・自動車開発・認証全体の業務管理手法の改善 ・不正リスクに対応した法規・認証関連業務の実施体制の構築
「監督官庁のやり方として疑問がある」
国交省は先月31日にトヨタの佐藤恒治社長に是正命令書を手渡す際、「御社においては認証関係で幅広く意図的な不正が行われていた」「御社から報告がなかった事項についても、国交省の立ち入り検査で不適切な取り扱いが明らかになった」とコメントしたが、佐藤社長は同日の報道陣への対応で、「(相互認証の手続きについて)調査の前提や結果の理解に考えの甘さがあった。データの処理の仕方や細部を見たときに、考え方にズレが生まれた」とコメントし、不正の意図を否定した。
「国交省はコメントやリリースで『トヨタの申請書類に虚偽の記載があった』『意図的に不正を行っていた』という点を強調しているが、現場での認識違いやミスのレベルといえなくもない。それを国交省は不正だと誇張して、わざわざ是正命令を出して社長を呼びつけてまでして、ことさらに問題を大きくしようとしているように見え、監督官庁のやり方として疑問がある」(自動車メーカー関係者)
「要は章男さんと国交省のケンカ」
トヨタ以外にもマツダ、ホンダ、ヤマハ発動機、スズキでも認証不正が明らかになったが、是正命令を受けたのはトヨタのみだ。背景には国交省の“トヨタ憎し”の姿勢があるとの指摘も聞かれる。認証不正の発覚を受けてトヨタの豊田章男会長は6月3日に会見で、現在の日本の認証制度について「ギャップはあると思う。これをきっかけに国とOEM(=自動車メーカー)がすり合わせをして、制度自体をどうするかという議論になっていくとよいと思う」と発言。国の認証制度に改善の必要があるとの認識を示していた。
このほか、後面衝突試験で1100キロの台車を衝突させるルールのところトヨタは1800キロの台車を使っていた点について、豊田会長は北米基準では1800キロを使うことになっており、より厳しい条件の試験をしていたと説明。これに対し国交省は、北米基準は06年に廃止されていると説明している。
「先日、豊田会長がトヨタの海外移転を示唆する発言をして注目されたが、社員からは『要は章男さんと国交省のケンカ』という声も聞かれるほど、今、国交省とトヨタの関係は悪い。国交省の特に上層部は、トヨタは不正をしておいて認証制度のほうに問題があるかのような言動をしてけしからんとして、態度を硬化させているようだ。なんとかトヨタに謝らせようとしているという空気すら伝わってくるが、なぜそこまでトヨタを敵視しているのか、いまいちよくわからない。
現在の国の認証制度に時代に合わない点や不明確なルールが存在することは以前から指摘されており、その問題に手をつけないまま“ルールに違反しているから不正だ”と自動車メーカーを取り締まる一方の国交省に対し、自動車業界内には批判的な声もある。国内自動車業界トップでもあるトヨタの豊田会長としては、今回の件を契機に国と業界が協力して前向きに制度を見直していきましょうと呼び掛けるのは、至極当然のことだ。それに対し国交省は単に反発することしかできないのなら、能がないとしかいいようがない」(全国紙記者)
国交省は業界を取り締まることばかりに注力
大手自動車メーカー関係者はいう。
「世界的なEVシフトが叫ばれるなか、国と業界が自動車産業全体を成長させるために協力すべき事柄は山ほどあるのに、どうも国交省は業界を取り締まることばかりに注力している。まるで自動車メーカーを敵視しているのではないかと感じることすらあるくらいだが、国交省はそんなことばかりに労力を使う暇があったら、もっと積極的に産業発展のための知恵を出すべきだ。もし本当にトヨタが国外に出て行ってしまったら、日本は大変なことになる」
トヨタの豊田会長は先月18日、報道陣を前に「(自動車業界が)日本から出ていけば、大変になる。ただ、今の日本はがんばろうという気になれない」「“ジャパンラブ”の私が日本脱出を考えているのは本当に危ない」「日本のサイレントマジョリティーは、自動車産業が世界で競争していることに、ものすごく感謝していると思う」(「朝日新聞」記事より)などと発言していた。
(文=Business Journal編集部)