国内三大難関資格の一つである公認会計士。試験合格のためには平均2~4年ほど勉強期間が必要ともいわれ、専門スクールの授業料などを含め100万円近くかかることも珍しくないが、意外にも資格を取得できても、労力の割に合わないという声も聞かれる。その実態について、現役公認会計士の見解を交えながら追ってみたい。
公認会計士になるまでのハードルは高い。試験合格に必要な勉強時間は3000~4000時間といわれており、2年間の勉強で一発合格できれば、かなり良いほうとされる。専門スクールを利用するのが一般的で、授業料やテキスト代、模試受験料などあわせて100万円ほどかかることも珍しくない。試験は1次試験の「短答式試験」と2次試験の「論文式試験」があり、1次試験の実質的な合格率は10~15%ほど、2次試験は40%前後。ちなみに短答式試験に合格すると3回まで論文式試験を受けることができ、短答式試験は免除される。試験科目は1次試験が財務会計論・管理会計論・監査論・企業法で、2次試験は必須科目が上記4つに加えて租税法の計5つ、選択科目は経営学・経済学・民法・統計学から1つを選択する。
論文式試験に合格しても、すぐに公認会計士として働けるわけではない。3年以上の業務補助等を経験し、実務補修を受けて修了考査に合格すると晴れて公認会計士となる。修了考査の合格率は50~60%だ。
厚生労働省の「令和5年 賃金構造基本統計調査」によれば、公認会計士の平均年収は922万円。大手資格スクール「TAC」のサイトによれば、監査法人勤務の公認会計士のモデル年収は、1~6年目くらいまでのスタッフ・シニアスタッフは600~800万円ほど、7~10年目くらいのマネージャーは1000万円ほど、11年目~のシニアマネージャーになると1200万円ほどになるという。また、独立後は1000万円以上になるケースが多いとされる。
“食べられない会計士”も存在?
年収をみる限りは比較的高収入といえるが、以前から資格取得難易度が高いものの割に合わない資格であるとも一部ではいわれてきた。2006年の公認会計士試験制度の改革によって合格者数が増加したことなどが原因で、合格しても就職できない就職難が大きな問題となったことがあり、「資格を取得しても食べていけない」というイメージを持っている人も少なくない。当サイトが以前掲載した記事内では、現役公認会計士たちの以下のような声を紹介していた。
「僕たち会計士というのは、9割以上が大手監査法人で監査の勉強して、そのフィールドから税務だったりいろんなことを勉強していくんですね。でも無資格者がやるような監査をしてくれってなってしまうと、5~6年経った時に何もできない。チェックリストに上がった監査しかできない会計士になっている。税務を勉強しない会計士も多いので、そうすると会計事務所も開けないし、コンサルティングもできない。何もできないですよね。いろんな時代背景もあるでしょうけど、そういうところから“食べられない会計士”っていうのが出てきている」
「会計士の資格を取れば一生メシが食えるみたいな安直な気持ちで資格を取って入ってくる人も多いのですが、入ってすぐは、監査の中でも無資格者でもできるような作業をやる。若いのにそれなりの給料ももらえるけど、不景気な時代が来て、『あなた使えないので辞めて』と使い捨てみたいにされて、『私は何もできない』と気づくことになる。会計士はコミュニケーション下手な人が多いので、営業もできない。『どうやってメシを食っていけばいいの?』という人も、けっこういるように感じます」
やれる業務の幅が非常に広い
実際のところ、「割に合わない」という側面はあるのか。植村会計事務所代表で公認会計士の植村拓真氏はいう。
「2年くらいみっちり勉強しても一発合格は難しく、試験に合格しても監査法人等で3年以上の業務補助の経験を積まないといけないので、資格取得までにかなりの労力を要するのは事実でしょう。ですが、私自身の経験としては、『割に合わない』と考えている公認会計士に会ったことはありません。
公認会計士が活躍できるフィールドは、監査法人における監査業務のみならず、M&A支援、デューデリジェンス、社内外でのCFO業務、ファイナンス支援、決算・経理体制構築支援、事業計画策定・予算管理支援、経営コンサルティングなど、やれる業務の幅が非常に広いです。税理士登録をすれば税理士としても活躍することが出来ます。私自身は特に独立してから、公認会計士が持つスキルや経験を求められる場面が本当に幅広いことを実感しました。良い仕事が出来ればベンチャー企業をはじめとするお客様からも心から感謝していただけますし、やりがいを感じる機会も多いです。ありがたいことに社会的にも高い評価をいただけているため、金融機関や不動産会社における各種の審査にも通りやすかったりしますし、当初は気づけていなかったいろいろなメリットも得られます」
では、一部の公認会計士が割に合わないと感じているのだとすれば、どのような理由が考えられるのか。
「将来的なビジョンがなく、ただ漫然と受け身思考で目の前の仕事を機械的にこなしているだけになってしまっている場合は、せっかく取得した公認会計士という資格を活かしきれていない可能性はあります。タイトな期限で大量の業務をこなさなければならず、ハードな環境にいる一方、監査法人に勤めている公認会計士は一般的な会社員と同様、上司やクライアントに気を遣ったり怒られたりすることもあります。そうした中で、『一般の大企業のほうが待遇が良い』と感じる人もいるかもしれません。場合によってはクライアント企業の決算資料を読み解くためにその企業の経営の深い部分まで理解する必要もあり、非常に大変な業務にアサインされることもあります。
ただ、一生モノの公認会計士という資格を持ち、高い専門性や豊富な経験を活かして会計の領域からクライアントに貢献できるのは、他の仕事にはない公認会計士だけの魅力です。監査法人や事業会社などの組織内で高い専門性を活かしてやりがいのある仕事に携わっている人もいれば、独立して自分のやりたい業務や組織作りに励んでる人もいます。割に合わないと感じてしまっている場合は、一度ご自身のやりたいことやビジョンを明確にしたり、先輩会計士に話を聞きに行ったりするなどして、視野を広げてみてはいかがでしょうか」
(文=Business Journal編集部、協力=植村拓真/公認会計士)