かつて販売部数のギネス記録を達成するなど日本の週刊漫画雑誌として栄華を誇った「週刊少年ジャンプ」だが、販売部数は激減し、人気漫画も続々と連載終了するなど、暗い話題が続いている。そのため、SNS上では「ジャンプが凋落した」「ジャンプがガチでヤバい」など、存続を危ぶむ声すら出ている。だが、そのような批判は表面的な情報のみで判断したもので、深く調べると全く逆の事情が浮かび上がってくると専門家は語る。
「週刊少年ジャンプ」(集英社)は、日本の漫画界を長らく牽引してきた存在だ。1968年に「少年ジャンプ」として創刊。当初は月2回の刊行だったが、翌年から週刊となり「週刊少年ジャンプ」に改名。71年には公称発行部数が100万部を超え、73年には国内の雑誌発行部数で首位に立つ。以来、人気漫画を次々に生み出し、日本の漫画週刊誌のガリバーとして業界を引っ張ってきた。
1980年代以降は、『ジョジョの奇妙な冒険』『SLAM DUNK』『ドラゴンボール』『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』など、続々とアニメ化や映画化される人気作を生み出し、94年12月には653万部の日本国内における漫画雑誌の最高発行部数を記録し、ギネスブックに登録された。
そんな「ジャンプ」に異変が起きている。アニメ化された人気漫画『僕のヒーローアカデミア』が8月、10年に及んだ連載を終了した。また『呪術廻戦』も6年半に及ぶ連載を9月に終了すると発表された。さらに、コミックスの累計発行部数が5億冊を超え、「ジャンプ」最大のヒット作とされる『ONE PIECE』も最終章に突入している。
加えて、発行部数を見ても、2024年4月から6月の算定期間で印刷証明付き発行部数は109万部余り(日本雑誌協会)となっており、653万部を誇った“漫画雑誌界のガリバー”の面影はないに等しい。そのため、SNS上では「ジャンプが凋落した」「ジャンプがガチでヤバい」など、存続を危ぶむ声すら出ているのだ。
『週刊少年ジャンプ』が凋落していると判断するのは間違い
だが、“漫画好き芸人”として活動するお笑い芸人の吉川きっちょむ氏は、そのような批判は表層的な情報しか見ていない人の声だと断じる。吉川氏は吉本興業東京に所属、よしもと漫画研究部部長を務めるほか、定期的にお笑い漫画イベント『行け!よしもと漫画研究部!』を開催するなど、漫画に精通している。
その吉川氏が、「紙媒体の漫画の販売部数だけで“売上激減”というのは正しくない」と苦言を呈す。
「紙媒体の漫画の売上が下がってきているのは、あくまでも転換点のひとつでしかないと思っています。
『鬼滅の刃』の連載が終わったのは2020年5月ですが、ほかにも『約束のネバーランド』『ハイキュー!!』『チェンソーマン(第1部)』など、この頃に終わった有名作品が多くあります。最近でいえば、この時期がひとつの大きな転換点といえ、そこを乗り越えて今回、また新たな転換点を迎えたと考えられます。
人気作品の連載がたて続けに終わったとはいえ、『ジャンプ』のなかでは確実に若い才能が育ってきています。その筆頭が『カグラバチ』です。同作は“和風ファンタジー”ともいうべき、刀や妖術などを使うバトル漫画で、日本はもとより非常に海外でうけています。2024年8月28日に発表された『次にくるマンガ大賞 2024』コミックス部門で1位を獲得し、8月29日時点でデジタル版を含む累計発行部数は60万部を突破しています。そのように漫画業界全体から注目される作品が育っているのです。
同時に、『ジャンプ』で連載され、現在はウェブ版に移行している『ルリドラゴン』も、『次にくるマンガ大賞 2024』のウェブ漫画部門で2位を獲得しています。ちなみにウェブ漫画部門の1位は『ふつうの軽音部』で、こちらもジャンプの系列です。
このように、『ジャンプ』ひいては集英社に才能が集まってきている状況があります。今夏『僕のヒーローアカデミア』『呪術廻戦』が終わることは想定済みだったためか、ここ1年くらいの間に13作品ほど新連載が始まっています」
人気連載が続々と終わっているとして懸念する声があるが、実は今後の漫画界を担うような新連載も出てきているのが実情なのだ。これらのなかには、長く連載が続きそうな作品や、大ヒットしそうな作品も多分に含まれているという。
「売上が落ちているという指摘についても、確かに印刷部数は減っていますが、昨今、漫画はデジタルに移行しています。『ジャンプ』に関しても、アプリ『少年ジャンプ+』でコンテンツを購読できますし、『Amazon Kindle』などの電子書籍でも『ジャンプ』作品が解禁されているので、デジタルで作品を読んでいる読者はかなり多いと考えられます。書籍業界全体の流れとして、今や電子書籍の売上が紙媒体を上回っています。おそらく、漫画・コミックスについても、雑誌の売上だけでは見えないデジタルの売上を加味すれば、“凋落している”などというほど落ち込んではいないのではないでしょうか」
紙媒体の雑誌の売上や印刷部数が落ちているとはいえ、電子書籍に移行している読者を考えると、単純に読者離れが起こっているとは判断できない。
調査会社のニールセンが今年6月に公表した調査結果によると、モバイル機器を使った日本の電子コミックサービス利用者数は、「ピッコマ」と「LINEマンガ」の韓国系サービスが1位、2位だったが、日本のサービスでは「コミックシーモア」「めちゃコミック」がその後に続く。その「めちゃコミック」も10月には米投資会社に買収される。出版社が出しているサービスとしては『少年ジャンプ+』が健闘しているとはいえ、日本の漫画にはがんばってもらいたいところだ。
「おそらく、『ジャンプ』が衰退しているなどと言っている人たちは、アニメ化したような有名作品だけで判断しているのではないでしょうか。しかし、『ジャンプ』にはアニメ化していないものの、優れた作品がたくさんあります。『SAKAMOTO DAYS』『あかね噺』などもとても面白いです」
では、吉川氏が今、もっとも注目している作品は何か。
「先ほど挙げた『カグラバチ』です。漫画好きの方にはすでによく知られていますが、『鬼滅の刃』に相当するヒットになる可能性があるとみています。海外の人が考える“日本像”をふんだんに取り入れており、世界的に人気が出ると考えられます」
人気作がたて続けに終了した、発行部数が激減した、という外的な要素だけでみると、確かに「ジャンプ」の栄光がかすんできているように思えるが、その裏では優良作品が続々と生まれ、電子コミックで着実に読者を獲得しており、ネット上の批判は杞憂に終わるのかもしれない。
(文=Business Journal編集部、協力=吉川きっちょむ/お笑い芸人、よしもと漫画研究部部長)