100円ショップのセリアが昨年度中に69店舗閉店したことを受けて、一部のメディアが「大量閉店」「利益ダウン」といった論調で報じ、ネット上ではさまざまな反応が起きている。だが、冷静に見てみると、決してセリアの業績は悪くない。むしろ小売業としては優秀な数字をキープしているといえる。では、なぜセリアが苦境にあえいでいるかのような報道が出たのか。
8月末、あるメディアが100円ショップ業界2位のセリアについて、「大量閉店に悲鳴続々」「輸入コスト爆増で利益ダウン」などと報じ、経営事情が悪化しているかのように報じた。それを受けてSNS上では、2230億円の売り上げに対して純利益が98億円であることに対し、「商売として破綻しかかってる」などと懸念する声が相次いだ。
だが、果たして本当にセリアの経営状態は悪いのか。2024年3月期決算短信によると、売上高は前期比5.1%増の2232億200万円で過去最高を更新。営業利益は同2.1%の151億2100万円、経常利益は同1.9%減の153億1500万円、当期純利益は同4.2%減の98億2300万円。売上が増加した一方、純利益が減少したことで、売上高営業利益率は前年の7.3%から5ポイントダウンしたが、「商売として破綻しかかっている」というほど低い利益率ではない。
また、直営既存店売上高を見てみると、上期こそ前年比減だったものの、昨年11月以降は100%を超えて推移し、最終的に前期比101%を記録。円安や原材料費の高騰で原価率は上昇したものの、販管費は減少したことで売上高営業利益率は6.8%だった。
経済産業省の調査によると、小売企業における売上高営業利益率は、小売業全体の平均で2.1%だった。規模別にみると、中小企業が3.5%、大企業が1.0%。100円ショップを比べてみると、業界最大手のダイソーは非公開のため不詳、キャンドゥは0.3%、ワッツは1.0%となっている。
さらに、現金及び現金同等物の残高は、前期末比1億1300万円増加し、562億2500万円で、キャッシュフローもプラス。総資産も前期末比58億4700万円増の1327億500万円で、自己資本比率は前期末から0.1ポイント上昇し76.9%。
なぜセリアが不振にあえいでいるような報道が出たのか
こうしてみると、健全経営そのものだ。では、なぜセリアが経営危機にあるかのような情報が出たのか。根拠は、「69店」という退店(閉店)数だ。前年より26店増えており、規模を縮小して経営資源を絞っていると判断したのかもしれない。だが、セリアは2023年4月1日~2024年3月31日に直営店を133店、新規出店している。つまり、不採算店は閉じ、売上が見込める地域には出店する、という至極真っ当な経営判断とみることができる。
そこでBusiness Journal編集部は、事実確認および69店舗の閉店の真意などを探るべく、セリア広報部に取材を申し込んだが、「ご参考にされている記事は弊社は関与しておらず、事実確認が不十分な部分もございます」として、応じてもらえなかった。
確かに、円安や原材料費、燃料費、人件費の高騰などを受けて、100円商品で利益を出すことには限界が近づいているだろう。ライバルのダイソーが「Standard Products(スタンダードプロダクツ)」や「THREEPPY(スリーピー)」など300円、500円と単価が高めの路線に注力しつつあるなか、100円を維持するセリアには逆風が吹いているのかもしれない。
それでも、付加価値の高い商品や、おしゃれで実用性の高い商品を取りそろえることで、“安かろう・悪かろう”のイメージを払拭したセリアには根強いファンが多い。それは同業他社と一線を画す強みである。円安などのマイナス要素が去った後に、さらに業績を伸ばすことができるのか、注視したいところである。
(文=Business Journal編集部)