大手コンビニチェーン「ローソン」が採用面接の1次選考に人工知能(AI)を導入すると報道され、大きな話題になっている。はたしてAIは、どの程度まで正確な判定が可能なのか。一人の人間の将来が、AIに左右されかねない印象を受けるが、これまでの人間による面接に置き換わることができるほどAIは進化しているのだろうか。AIの専門家は、あくまでも採用の幅を広げるための施策ではないかと推測する。
ローソンは2026年4月入社の新卒採用から、1次選考の面接にAIを導入するという。報道によると、ローソンは同年、約100人を採用する計画で、応募する学生は時間、場所を問わず受験できるという。面接の事前予約も不要で24時間受験できるため、地方や海外の学生にも門戸が開放される側面もある。
手順としては、応募する学生が志望動機などを記入したエントリーシート(ES)を会社側に提出し、1次面接を受ける。パソコンやスマートフォンで受験し、ESの内容に基づいてAIが質問を作成し、エントリーする学生をより理解することを目指す。
24時間いつでも予約なしで面接を受けられることで、学生側の利便性が高まる一方、AIにどのようなことが判断されるのかわからないという漠然とした不安を抱く学生もいる。今回のAIによる採用面接の狙いはどこにあるのか。実際に採用面接において、どの程度までAIは判断できるのか。
AIが判断できること
立教大学大学院人工知能科学研究科特任教授の三宅陽一郎氏は、これまでの人間による1次面接に代わるものではなく、あくまでも採用の判断基準のひとつではないか、との見解を示す。
――AIでの面接は、どの程度のことができると考えられますか。
「AIが面接を行うことについて、学術的な裏付けがあるわけではないと思います。研究結果が出ているわけでもないので、むしろ産業的な目的があるように感じます。AIは声や仕草から人間の特性を正確に判断することは現段階では難しいので、できることとしては定型的な質問を行い、あるいはESに応じたそれに対する返答を文字に起こし、それを評価させるといったことは可能だと思います。深い人間性やパーソナリティではなく、質問に対する回答を点数化するなどはできますが、それ以上のパーソナリティなどの判断は現状では難しいでしょう」(三宅氏)
――商業的目的とは、話題性を高めて世間の耳目を集めようということでしょうか。
「採用候補者が大勢いる場合に、人間が面接をすると人件費もかかりますので、AIにある程度まかせようという意味合いがあると考えています。ただ、その場合、通常よりも面接の枠を広げるのではないかと推測します。書類審査で多くの応募者を落とすのではなく、AIを導入して面接の枠を増やそうとの意図ではないでしょうか」(同)
――あくまでも採用の判断基準のひとつにするのであって、AIの判断で落とすことはないと考えられますか。
「AIの判定を基にして、人間が判断するのだと思います」(同)
AI導入のメリデメ
――AI面接を導入することで、考え得るメリットとデメリットをお教えください。
「メリットは、なるべく多くの人に自由形式の質問を広めたいということだと思います。これまで人間が行ってきたような一次面接をAIに置き換えるという趣旨であれば、AIはまだ不十分です。表情や受け答えの良し悪しから、その人の個性や特性を判断するといったことは、現状では先走りすぎといえます。候補者たちに対してエントリーシートに応じた質問をし、それに対する回答内容を審査するといったことであれば、ある程度は公平性が保たれるかと思います。ESの書き方や情報にもむらがありますので、その補完機能として働くということです。
デメリットとしては、もし面接が音声で行うとすると、AIのセンシングは万能ではなく、AIに通りやすい声や口調、言い回しなどには若干の偏りがあります。たとえば、声の抑揚や間の取り方に対してが、AIの認識率が低かった場合、AIとのコミュニケーション・ロスが発生する恐れがあります。人間が柔軟に対応してきた部分で、AIが対応できないというデメリットは十分考えられるので、エントリーされる方に対して、話し方や声の強さなど、諸注意を行うことが必要とされます。或いは、AI面接の最初に認識率をテストするような時間を入れる必要がありますね」(同)
――企業側のメリット・デメリットを伺いましたが、応募者側のメリット・デメリットはどんなことが考えられますか。
「応募側としては、人間が行うより多くの面接数を設定されるとすると、ESよりは企業側に自分をアピールする機会が増加する、というメリットがあるかと思います。面接は人間にしてほしいという心情がある一方で、面接官との相性のようなことはなくなり、公平感はあるかと思います」(同)
――そうすると、AIの導入は企業側のメリットが大きい施策といえますね。
「企業としても、AIでふるいにかけるというよりも、優秀な人材を逃したくないという心理かもしれません。仮にこれまで1万人の応募に対し1000人を人間が1次面接してきたとした場合、今後はAIにすることで2000人の1次面接を実施できるようになり、より“当たり人材”を拾える可能性が高まるのではないでしょうか。
おそらく、従来行われてきたES(エントリーシート)やSPI(適性検査)、ストレス耐性テストなどに加え、AI面接が加わるという感じではないでしょうか」(同)
ローソンはこれまで、値引きを行うシステムや発注システム、アバターによる接客など、積極的にAIを活用した施策を取り入れてきた。今度はAIによる採用面接の1次選考を導入し、AIを活用した省力化・効率化をさらに推進することになる。各業界で人手不足が深刻化するなか、AIはどこまで人間の仕事を代替することができるのだろうか。
(文=Business Journal編集部、協力=三宅陽一郎/立教大学大学院人工知能科学研究科特任教授)