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三菱グループ、弱まる結束と恩恵、他社を助ける余力なし…三菱を名乗らない企業

文=Business Journal編集部、協力=田中幾太郎/ジャーナリスト
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三菱東京UFJ銀行本店(「Wikipedia」より)

 日本における一大企業グループ「三菱」。三菱重工業、三菱UFJ銀行、三菱商事の“御三家”を筆頭に、錚々たる有名企業が名を連ねる。その中で、明治安田生命保険、旭硝子(AGC)、キリンホールディングスなど、重鎮企業であるにもかかわらず、“三菱”の名を冠していない企業もある。なぜ三菱を名乗らないのか、またなぜ大企業となった今でも三菱グループから抜けないのか。長年、三菱グループの取材を重ねてきたジャーナリストの田中幾太郎氏に話を聞いた。

 かつて日本にあった3大財閥、三井、住友、三菱。300年を超す歴史を有する三井、住友に対し、三菱は明治維新後に莫大な富を得て財閥となった。そのなかで、創業者の岩崎弥太郎が設立に携わった企業と、弥太郎の親族が設立した企業、またそれ以外の企業など、設立の経緯によってグループ内の立ち位置が大きく異なる。

 三菱を代表する“御三家”と呼ばれる三菱商事、三菱重工業、三菱UFJ銀行は、グループ内で圧倒的な存在感を持つ。その下には、三菱地所、三菱UFJ信託銀行、三菱化学、三菱マテリアルなどの大企業が名を連ねる。

 そのほかにも、甚大な数の企業が三菱グループの傘下に収まっている。それらには厳然としたヒエラルキーが存在するといわれている。そんな上下関係があるとした場合、下層部の企業にはどんなメリット、デメリットがあるのか気になるとの声も聞かれる。

三菱グループ内にいるメリット・デメリット

 三菱グループを長年にわたって取材し、『三菱財閥 最強の秘密』などの著書もあるジャーナリストの田中幾太郎氏に話を聞いた。

――キリンホールディングスや明治安田生命、旭硝子(AGC)、日本郵船など、名だたる大企業が三菱グループに入っていますが、なぜ今なおグループ内にとどまっているのでしょうか。三菱グループにいるメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

「たとえばキリンビール(麒麟麦酒)は1870年、横浜居留地で外国人が設立したビール会社に、三菱創業者の岩崎弥太郎の弟で2代目総帥ある岩崎弥之助が出資したことが始まりです。1907年に三菱傘下で麒麟麦酒となったので、もともと三菱の企業ですし、抜ける意味もないといえます。また、日本トップの酒類メーカーとしての地位を築いたので、今さら三菱を名乗る必要もないのです」

――御三家をはじめとして三菱を冠している企業はわかりやすいですが、三菱が商号についていない企業は、三菱グループにいることで受けている恩恵などはあるのでしょうか。

「三菱にいるからという恩恵は、昔ほどなくなっているんじゃないでしょうか。たとえば、三菱UFJ銀行から融資を受けていれば財務上は安定するかもしれませんが、昨今はひとつの銀行だけから融資を受けるということはなくなっています。

 また、三菱自体もかつてほど力を有していないという状況もあります。たとえば、御三家のうちの三菱重工はとても弱体化しています。三菱自動車工業が2004年に“リコール隠し”などの不祥事で経営危機に陥った際、三菱重工が中心になって救済に動いたのは確かですが、今や三菱重工は他社を助ける体力はありません。

 東京海上日動火災保険は設立当初、経営陣に三菱関係者が配されましたが、岩崎弥太郎のほか渋沢栄一など200余名が株主となって設立した経緯から、三菱の名を冠することなく成長し、東京海上の名が国内では十分に広まりました」

――三菱グループのなかでは、重工業系の発言力が強そうなイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。

「戦時中など、かつては重工業系が強かった時期もあります。今でも中核企業ではありますが、今はさほど発言力が強いということはないと思います」

――ニコンやローソンも三菱グループとして扱われますが、三菱グループに入ることで得られるメリットはあるのでしょうか。

「メリットがあるから三菱グループにいるというよりは、三菱が傘下に収めているという構図で、意図して三菱グループにいるわけではないのではないでしょうか。

 三菱のグループ企業を語るうえで、三菱の源流企業である日本郵船は外せないと思います。岩崎弥太郎は海運業から事業を始めていますが、国有会社の日本国郵便蒸気船会社とのシェア争いで勝利した三菱は、郵便汽船三菱として三菱を名乗っています。その後、三井系国策会社の共同運輸と度重なる値下げ競争を行いの末に両社が疲弊し、日本の海運業の衰退を危惧した政府の仲介により両社は合併して日本郵船となりました。国策企業から始まり、三井系企業との合併など、三菱を名乗りにくいというのが正直なところでしょう」

三菱のなかでの序列

――三菱の中での序列としては、どのような感じなのでしょうか。

「三菱商事、三菱UFJ銀行、三菱重工の御三家、その下に三菱地所、三菱UFJ信託銀行、三菱化学、三菱マテリアル、三菱電機、旭硝子(AGC)、日本郵船、東京海上日動火災保険、明治安田生命保険、キリンホールディングスの“主要10社”があります。ちなみに、AGCは岩崎弥之助の次男である岩崎俊弥が創業しているのですが、なぜ一度も三菱を名乗っていないのかわからない、不思議な会社です。三菱グループのなかでは、この13社までが主要企業といえると思います。また、“世話人会”や“金曜会”といわれる主要企業の集まりがありますが、今はこれらがそのほかの企業に対して強い影響力があるというわけでもありません」

――三菱には厳然たる上下関係があるのかとイメージしがちですが、今はそのようなヒエラルキーはなくなってきているのですね。

「仮に上下関係があった場合、下の企業が経営的厳しくなったら助けなければならないですが、どこの企業も他社を助ける余裕がありません。そのため、口出しすることもできなくなっているのです」

 財務的なつながりの弱まりとともに、関係性も弱まってきているというのが現状のようだ。かつては鉄の結束があったように思われていたが、実態は大きく変わってきていたといえる。

(文=Business Journal編集部、協力=田中幾太郎/ジャーナリスト)

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