トヨタ系ディーラー、年収1700万円→400万に激減で詐欺…なぜ防げず

トヨタ「カローラ」(「Wikipedia」より

 トヨタ自動車系ディーラー「NTP名古屋トヨペット」の元社員が、架空の売買の仲介取引を自動車販売会社に持ち掛け約1億円を詐取したとされる事件。容疑者の男性はかつては1700万円あった年収が販売先の減少で400万円ほどに減り、顧客に対し自己負担で行っていた値引きの原資を確保することが犯行の動機だったと供述しているとも報じられているが、自動車ディーラーではここまで大幅に年収が変動するというのは珍しくないのか。また、男性はすでにNTP名古屋トヨペットから懲戒解雇されているが、コンプライアンスや取引プロセスのチェック体制などが整備されていると思われるトヨタ系正規ディーラーで、なぜ社員による詐欺的な取引が起きたのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 都道府県ごとに法人化されている(一部地域を除く)トヨペット店は、トヨタ系の国内販売店で、いわゆる正規ディーラーとして知られている。かつてはカムリ、プリウス、アクアなどの車種を扱い、トヨタ系ディーラーのなかではハイミドル層向けの販売店という位置づけだったが、2020年のトヨタによる販売チャネル制の廃止により、現在ではトヨタの全車種を扱っている。

 そんなトヨペット店のなかでもトヨタのお膝元、愛知県のNTP名古屋トヨペットで事件が発生。元社員の男性は自動車販売会社に対し、売買の仲介を持ちかけ、代金を立て替えれば1000万円を上乗せして支払うなどと虚偽の説明を行い、約1億円を詐取した疑いが持たれている。男性は他にも複数の会社に同様の話を持ち掛け、計14億円以上の架空の取引を行っていた疑いがあるといい、手広く不正を行っていたとみられる。

グレーな商取引は存在する

 存在しない在庫車両の販売の仲介を持ち掛けて約1億円をだまし取るというのは、具体的にどのような手口が考えられるのか。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏はいう。

「容疑者がどのようなポストの営業担当者だったかにもよりますが、ディーラーの営業担当者が同業他社とのつながりのなかでグレーな商取引をしているケースは、ないとは言い切れないと思います。自社扱いの新車はさすがに取引履歴がしっかり管理されているので、不正はしにくいと思われますが、例えばお客さんから下取りした中古車を営業担当者の裁量で横流しして、いくらかマージンをもらうという話は珍しくありませんし、長年ディーラーの営業担当者をやっていると同業者(ディーラーから独立した中古車販売会社の社長や、その紹介で付き合いが生まれた中古車販売会社など)とのやりとりで、誰かを紹介されたり紹介したりという機会も増えていきます。

 そうした業者同士のやりとりのなかでWin-Winの商取引を続けていくと、信頼関係も築かれるでしょう。横のつながりが広がるほどに、同業他社の関係性を把握し、誰と誰のお客さんが共通してるとか、どこの店とどこの店がライバル関係にあるとか、いくつかのポイントを商取引に利用できることに気付いたりするのかもしれません。

 例えば、A社の知人(知ってはいるけどあまり仲良くもない同業B社)のお客さんが1500万円の車を買いたいと言っているが、B社は資金力がないので、儲けが出るように仲介するからこちらへ1000万円振り込んでもらえないか、とA社に持ちかけます。A社は一時的に1000万円を立て替えることで、後日多額のマージンがもらえるようにする、という容疑者の話にのって、容疑者宛てに振り込みします。この取引自体が架空だとすると、容疑者は1000万円をそのままネコババしてしまうというようなかたちです。

『ディーラーの営業担当者がまさか詐欺をしないだろう』という信頼と安心感、そして、もし対象となる車がディーラーから卸される車種だった場合は、一時的な立て替えでマージンが発生するという取引もあり得るだろうという錯覚を起こさせます。今回の事件は、こうした架空の取引を中古車販売会社にもちかけて、お金を騙し取った疑いで逮捕されていますが、自動車業界は全体的に景気が芳しくないため、儲け話に対する疑いのガードが緩くなってしまった心理的な面も、少しは関係しているのではないでしょうか」(桑野氏)

昨今の事情を逆手にとった裏取引

 騙された被害者側としてみれば、男性が名古屋トヨペットの社員だということで信用してしまった可能性もある。大手ディーラーの場合は社内のコンプライアンス対策も整備され、取引プロセスのチェック体制も確立されていると思われるが、なぜ、このような不正が見逃されてしまったと考えられるのか。

「メーカーから供給される新車は商品管理や顧客管理が徹底されているため、不正はやりにくいと思いますが、会社を離れたところで同業他社と架空の商取引をしていたとしても、そこまで会社が把握したり管理したりということは難しいのではないでしょうか。つまり、営業担当者は会社を離れて外に出ると、全ての時間を会社の営業のために使っているとは限らない、ということです。携帯電話やLINEなどのやりとりまで管理はできないでしょうし、個人情報保護の観点から営業担当者のプライベートに会社としてあまり踏み込めない昨今の事情を逆手にとった裏取引、といったところが、今回の事件の実態なのではないでしょうか。

 この詐欺行為をなぜ名古屋トヨペットは防げなかったのか? と多くの方が考えると思いますが、ある程度の権限がある営業の幹部クラスになると、同業他社の知り合いも多く、ネットワークはかなり広がっているはずです。その全ての交友関係を会社が把握することは難しく、表立った取引ではなく、怪しい利益を生む『裏取引』については、正式な契約書を交わすでもなく、お互いの信頼関係で金銭の受け渡しをしたり、帳簿に載らないお金のやりとりや車のやりとりが発生します。本来は実際に車の受け渡しに伴ったお金のやりとりがあり、そこにマージンが発生したり、お互いにメリットがあるから『裏取引』も成立するわけですが、容疑者は過去の信頼関係を利用して周りの同業者を騙し、詐欺行為を繰り返していたのではないかと思われます」(桑野氏)

大手ディーラーの退職者が増加

 男性の犯行動機としては、1700万円あった年収が400万円ほどに減ったこともあるとされるが、自動車ディーラーではこのような年収の大幅変動は珍しくないのか。

「自動車ディーラーの営業職は、基本給+歩合制で給与が構成されるのが一般的で、基本給は決まった金額ですが、歩合給は1台契約するごとに加算されていく仕組みになっています。契約数を獲得するほどに給与が上がりますので、成績次第では1000万円以上の年収は可能です。

 今回の事件で容疑者は、車の販売先が減ったことで年収が1700万円から400万円に減少したとしていますが、年収400万円台というと25~30歳くらいの平均年収額になります。ちなみに名古屋トヨペットの平均年収は、45歳以上で700万円を超えており、最高年収は1000万円を超えるとされています。さすがに40代で400万円程度の年収となると、生活苦に陥ることは致し方ないのかもしれません。

 こうした状況から、大手ディーラーの退職者がこの半年ほどで一気に増えているという話は最近よく耳にします。副業をしないと家族を食べさせていけない、なんていう話は、名古屋トヨペット以外の自動車販売ディーラーの営業担当者からも複数聞いています。販売車の入荷数減少と納期の長期化で、トヨタとダイハツのディーラーはとくに厳しい現状にさらされていると聞きます。だからといって詐欺行為は許されるものではありませんし、いくら会社のために自腹をきった経費を補てんするためとはいえ、15億円もの利益を架空取引で得るなど言語道断です」(桑野氏)

(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)

桑野将二郎/自動車ライター

1968年、大阪府生まれ。愛車遍歴は120台以上、そのうち新車はたったの2台というUカー・ジャンキー。中古車情報誌「カーセンサー」の編集デスクを務めた後、現在はヴィンテージカー雑誌を中心に寄稿。70~80年代の希少車を眺めながら珈琲が飲めるマニアックなガレージカフェを大阪に構えつつ、自動車雑誌のライター兼カメラマンとして西日本を中心に活動する。
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