全日本空輸(ANA)が客室乗務員(CA)を休憩なしで10時間近く働かせたり、9時間近い勤務中に8分しか休憩させていないという実態が明らかになった。ANAは航空機が到着してドアを開いた時から出発のためドアを閉めるまでのステイタイムは「休憩に代わる時間」(みなし休憩)に該当すると主張しているが、実態としては、ステイタイム中のCAは旅客降機のサポート、忘れ物チェック、次便の出発準備、旅客搭乗サポートなどの業務に追われ、座って休む時間はほとんど取れない。ANAでは国内線と国際線の乗務あわせて6日連続での勤務、事実上の1泊4日での国際線乗務なども常態化し、CAが過酷な労働環境に置かれている。客室乗務員の共同労働組合・ジャパンキャビンクルーユニオン(JCU)によれば、在職中に死亡するCAもおり、その人数は日本航空(JAL)に比べて大幅に多いという。ANA元CAの多喜さんは9月に行った会見で「在職中は、みんな疲れを引きずって働き、体を壊している人もいた」と訴える。
JCUによれば、ANAのCAは1日4便の国内線乗務や、2日間の国内線乗務後の4日間の国際線乗務という計6日間の連続勤務などが常態化。9時間45分の労働時間で休憩がまったく確保できないことがあったり、国際線では米国への便でも現地で1泊しかできないことがあるという。ちなみにJALは国内線は1日3便までの乗務に制限しており、基本的に連続勤務は4日まで。社内教育でも「国内線でも休憩取りましょう」 「食事はしっかり、とりましょう」 と呼び掛けている。
JCUは以下を主張する。
「航空機に乗務中はもちろん、35~50分ほどのステイタイムもCAは業務に追われており、勤務中にトイレや食事をとる時間がないことも少なくありません。ですが会社側は、ステイタイム中は事実上の休憩にあたるので法律を遵守して適切な運用を行っているとの主張を繰り返しています」
なぜANAはこのような主張を行っているのか。労働基準法の第34条では、使用者は労働者の労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないと定められている。一方、労働基準法施行規則第32条2項では、労働者が航空機に乗務する運転手・給仕などに該当する場合、勤務中における停車時間・待合せ時間などの時間の合計が休憩時間に相当するときは使用者は休憩時間を与えないことができると定められている。ANAは同条項について独自の解釈を行い、法律を遵守して適切な運用を行っていると主張しているのだ。
ANAに対して不当労働行為救済命令が交付
1981年にANAに入社し、約40年にわたりCAとして勤務してきた多喜さんは、以前からCAが過酷な労働環境に置かれていることに疑問を抱いてきた。21年12月の定年退職を前に企業内組合のANA労組に相談したが、取り合ってもらえなかっため、JCUに加入。複数回にわたりANAと団体交渉を行ったが、ANAは「労基法施行規則32条2項を遵守し、適切な運用を行っている」との回答を行うばかりで根拠を説明しなかったため、JCUは不誠実団交(不当労働行為)であるとして21年12月、東京都労働委員会に救済申し立てを行った。そして24年9月、同委員会はANAに対して不当労働行為救済命令を交付した。
この間、並行して多喜さんは淀川労働基準監督署に労基法違反で申告していたが、JCUによれば、ANAは労基署に対して次の説明を行っていた。
「地上ステイタイム中は上空での業務に比して、精神的肉体的に緊張度が低いので、航空機が到着してドアを開いた時から、出発のためドアを閉めるまでの時間(ステイタイム)は、労基法施行規則32条2項に該当する時間となる」
JALとの大きな差
近年、JAL、ソラシドエア、ジェットスター・ジャパンをはじめとする国内航空会社では、CAの休憩時間を確保する取り組みが行われているとのことだが、なぜANAでは進まないのか。
「ANAのCAでは上司が部下を評価する制度があり、その評価によって賃金が上下するのに加え、個人の評価が他のCAにも公開され、これを会社による“見せしめ”だと感じるCAもいます。なので個人では怖くて会社に意見を言ったりすることができません」(ANA関係者)
また、別のANA関係者はいう。
「ANA労組は社員の出世の登竜門といわれるほど会社と一体化しており、組合員が勤務改善を訴えても、それを受けて経営側と交渉してくれるということは、まず望めません。一方、JALには経営側に対してしっかりものを言う客乗組合も存在するため、ANAよりは社内の自浄作用が働きやすいといわれています」
(文=Business Journal編集部)