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「面倒だからインシデント隠蔽」看護師が職務怠慢を投稿、千葉大病院が調査

文=Business Journal編集部、協力=上昌広/医師、医療ガバナンス研究所理事長
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問題となっている、ある看護師によるXポストの一部

 病院に勤務する看護師がX(旧Twitter)上に「全介助の患者は放置してます」「体位交換サボりすぎたら褥瘡発生させた」「患者が痛いとか訴えても無視してる。医師に報告とか面倒だし、指示出て処理するのも面倒だし」「インシデント書くの面倒だから、いつも隠蔽しちゃう」などと投稿していた問題。1月7日付「千葉日報」記事によれば、千葉大学医学部附属病院が内部の看護師である可能性があるとして調査中であることがわかったという。このような看護師の職務怠慢・問題行為というのは、どの医療機関の現場でも一定程度、あるものなのか。また、夜勤などもある過重労働やストレス、医師との比較における低い給与水準といった看護師の働き方が大きな背景にあると考えられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 当該看護師のXアカウントはすでに削除されているが、ほかには以下のような投稿がみられた。

「患者の主治医不在なのに、後から確認するの面倒だったから、主治医に確認したフリをして、他職種に許可出してしまった」(原文ママ。明らかな誤字脱字等は修正/以下同)

「(薬を)飲ませるの面倒だからいつも飲ませたフリをしてこっそり捨ててる」

「体位交換、口腔ケア、清拭はいつもやったフリだけしてます」

「モニターずっと鳴ってたらしく、誰も気づかなくて、心停止になってた」

「この夜勤で一度もオムツ内確認せずサボってたら、シーツまで便まみれになってた」

首都圏の看護師不足は深刻

 看護師は肉体的・精神的に重い負荷のかかる職業だ。入院患者を受け入れている病院勤務の場合、一般的に週1~2回程度の夜勤もある。厚生労働省発表の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、看護師の平均年収は約508万円。日本人の平均年収を上回っているが、薬剤師(約578万円)より低い。また、医師は1436万円であり、約3分の1の水準となっている。

 こうした看護師の問題行為が生じる背景には、そうした労働環境などがあるのではないか。医師で特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏はいう。

「医療職として信じられない行動である。知人の山本知佳看護師に相談したところ、『私が働いた職場では、このような怠慢や意図的な行為はなかったと思う。患者さんやご家族に寄り添うことに誇りを持って働いている人ばかりだった』と返事があった。私も同感だ。

 ただ、常識的に考えて、これは氷山の一角だろう。一件でも露顕したら、水面下で多数の問題行動が起こっていると考えたほうがいい。確かに看護師はストレスが多い職場だ。特に、今回問題となったインシデント報告は、その傾向が強い。前出の山本看護師は、『医師への報告がしにくい環境(威圧感がある医師の対応、看護師を馬鹿にするような態度など)や、再発防止のためのインシデント報告が犯人探しになりやすいシステムなどの問題はは、程度の差こそあれ、どこの医療機関でもあると思う』という。この点で、医師をトップとしたヒエラルヒー型の医療現場は改善の余地が大きい。

 ただ、このケースは、そのような一般論だけでは片付かない。私が注目するのは、看護師を目指す若者の気質が変わってきたことだ。かつて、看護師の社会的地位は高くなかった。看護師を目指す若者は、高収入や社会的地位に憧れたのではなく、病人を支えたいという使命感に駆られた人が多かった。近年、その気質は変わってきた。看護師の社会的地位があがり、付加価値が高い専門職として資格を取る人が増えたからだ。一旦、資格をとれば高収入が保証される。今回、問題となった千葉大学医学部附属病院の場合、大卒の新卒看護師の初任給は34万8229円だ。これは千葉大学の後期研修医(3年目以降の医師)の給与(24万6100円)、三井住友銀行(25.5万円)の初任給より高い。

 首都圏の看護師不足は深刻だ。千葉県の人口10万人あたりの就業看護師数は796人だ。これは最も多い高知県(1685人)の約半分だ。高知県でも看護師は余っていないから、千葉県では看護師は就職に困ることはない。これが、看護師の中途退職が多い理由の一つだ。ちなみに、看護師の給与は、地域の人口当たりの看護師数と反比例する。高知大学医学部附属病院の大学卒の看護師の初任給は、29万7800円である。千葉大学より約5万円安い。

 これが首都圏の看護師の実情だ。勤務は厳しく、患者の命を預かるストレスは大きい。ただ、高度専門職として、確実な雇用と高い報酬が保証されている。看護師になれば、食うには困らないのだから、『軽い気持ち』で看護師を選んだ人もいるだろう。それが、今回のようなケースにつながったのではなかろうか。この問題を解決するには、看護師の職業規範について、看護師自らが議論するしかない」

(文=Business Journal編集部、協力=上昌広/医師、医療ガバナンス研究所理事長)

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
医療ガバナンス研究所

Twitter:@KamiMasahiro

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