昨年、列車事故やレール検査データ改ざんなどの不祥事が相次いだJR北海道の野島誠社長は1月6日、年頭の挨拶で、社員に一層の奮起を促した。その直後の10日、野島氏は体調を崩して入院したが、昨年10月にも持病が悪化して10日間入院している。同社は1月16日に予定されていた今年最初の社長定例記者会見で、昨年11月に発覚したレール検査データ改ざんに関する社内調査結果を発表する予定だったが、野島氏の入院を理由に20日以降に延期した。毎月1回開かれている定例会見を社長の入院を理由に延期するのは、極めて異例だ。
JR北海道は「函館保線管理室で改ざんが行われている」との情報を得て、昨年10月から社内調査を開始。12月2日から新たな特別チームをつくり、800人の全保線担当職員に聞き取り調査を行ったが、大沼保線管理室などの3人が、9月19日に函館線大沼駅で起きた貨物列車脱線事故の直後に、現場周辺のレールのデータを改ざんしていたことを認めた。「より重大で、他の事例とは違う」(野島氏)行為である。
さらに、保線業務を行う子会社、北海道軌道施設工業の幹部が発注先から利益供与を受けていた疑惑も浮上。同社は保線業務を請け負うグループ会社の1社であり、保線業務をグループ外の企業に下請けさせる際に裏金の提供を受けていたという疑いだ。
●元社長の自殺
このように相次ぐ不祥事で揺れる中、1月15日午前8時20分ごろ、JR北海道元社長で現相談役の坂本真一氏が、北海道余市町の余市港内で遺体で発見された。11年9月、当時の中島尚俊社長が入水自殺しており、経営トップ経験者の自殺は2人目になる。
昨年11月、坂本氏ら旧経営陣が取締役会に出席していたことについて、「社長が思うように発言できない。旧経営陣に振り回されている」とJR北海道は国会で厳しい指摘を受けた。亡くなった坂本氏は「同じ技術畑の野島社長を後押しして社長に就けた」(JR北海道役員OB)といわれており、現在でもJR北海道の実力者だった。
同OBは亡くなった坂本氏について、次のように語る。
「坂本相談役には2つの夢があった。ひとつは吉永小百合主演の映画を北海道で撮ることで、これは05年の『北の零年』(東映)に出資して実現した。もうひとつは北海道新幹線の誘致だった」
坂本氏は16年に開通する「新青森-新函館」間の北海道新幹線の推進役であり、35年をめどに新函館から札幌まで新幹線を延伸する計画もある。一連の不祥事について坂本氏は「私の責任でもあるが、北海道新幹線の開業だけは守らなければならない」と全国紙の取材に答えていたが、「最近、周囲に『死にたい』と漏らしていた」という情報も聞こえてくる。JR北海道の社員は「言葉もない。これから北海道新幹線を引っ張っていく人なのに」と言葉少なに語る。
●異例の業務改善命令、刑事告発へ
JR北海道に対して無期限の特別保安監査を行っている国土交通省は、社内調査の結果を踏まえ、JR会社法と鉄道事業法に基づく業務改善命令を出す。
JR会社法は1987年の国鉄民営化に伴い、JRグループ7社を国が監督する法律として制定された。2001年の同法改正で、完全民営化されたJR東日本、東海、西日本は対象から外れた。経営環境が厳しいJR北海道、四国、九州、貨物の4社は今も国が事業計画や代表取締役選任などについて許認可権を持ち、監督上必要な命令を出すことができる。同法による業務改善命令が出るとすると、JRの発足以来初めてのことになる。