ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 人事データは「バラバラ」でいい?

人事データは「バラバラ」でいい?急成長HRテック市場で200億円を目指す統合型システム

2025.09.18 2025.09.18 09:55 企業
人事データは「バラバラ」でいい?急成長HRテック市場で200億円を目指す統合型システムの画像1
UnsplashSebastian Herrmannが撮影した写真

●この記事のポイント
・jinjerは元Zendesk社長の冨永健氏を新CEOに迎え、経営陣を刷新。「第二創業期」として新ビジョンを発表した。
・HRテック市場の急成長を背景に、人事データの分散課題を解決する統合型システム「ジンジャー」で市場拡大を狙う。
・AIエンジニア増員や生成AI・AIエージェント活用により、人事業務を自動化・高度化し、No.1統合型人事システムを目指す。

 クラウド型人事労務システム「ジンジャー」を提供するjinjer(東京都新宿区)の新しいCEOに5月1日、元Zendesk社長の冨永健氏が就任した。これに伴い、CFO、CCOなどの経営陣も刷新され、新たな体制で事業を推進していくことになった。同社ではこの新体制への移行を「第二創業期」と位置づけ、今後の事業展開を発表する記者会見を行った。

 登壇した冨永CEOはまず、新しく策定したビジョンとミッションを紹介。ビジョンは「『ひと』の可能性のすべてが見える世界へ」、ミッションは「人事の『これからの当たり前』をつくり、お客様とともに進化する」となっている。同社が提供する価値や社会における役割を、社内外に向けて一貫したメッセージとして発信していくことを目指している。

●目次

「ジンジャー」でバラバラの人事データを解決

 日本のHRテック市場は現在、約1800億円(出所:デロイトトーマツミック経済研究所)と言われている。HRテックには採用管理クラウド、人事・配置クラウド、労務管理クラウド、育成・定着クラウドなどが含まれる。注目すべきは成長率で、年平均29.5%増で拡大し、2028年度には約3900億円の市場規模になると予想されている。

 HRテック市場の急成長を加速させる社会背景としては主に2つの要因がある。労働人口の減少と価値観の多様化だ。企業にとって、従業員一人ひとりの生産性向上と従業員エンゲージメント(組織との関係性)を向上させることが急務となっている。

 これに対してIT業界は労務管理システムや人事評価システム、ワークフローシステムなど数多くのソリューションを提供してきたが、一部の問題しか解決せず今日に至っている。その原因は「人事データがバラバラ」(冨永CEO)だからだ。

人事データは「バラバラ」でいい?急成長HRテック市場で200億円を目指す統合型システムの画像2

 人事データは平均で5つのシステムに分散しているといい、例えば、ある従業員Aの学歴や社歴は労務管理、どのくらい働いているのかは勤怠管理、給与明細は給与管理、という具合だ。「私の姓はワ冠の『冨』ですが、ウ冠の『富』もある。これをシステムごとに入力し間違えると、それだけでデータが合わなくなる」(冨永CEO)ということになる。

 近年、従業員の離職率を抑えるのは経営者の必須課題だが、それには給与情報と人事評価が一元化されていなければならない。高い評価を得ているにもかかわらず給与に適切に反映されていなければ離職につながる可能性があるし、そこに本人の異動願や異動履歴なども考慮されなければ、やはり離職につながるかもしれない。

 冨永CEOは、そうした課題を根本的に解決するのが、同社で提供しているクラウド型人事労務システム「ジンジャー」だという。勤怠や給与のみならず、社保手続き、人事評価、さらにはタレントマネジメントや1on1ツールなど、すべての人事関連業務を1つのプラットフォームに総合することができるという。これにより、企業は「正しい人事データ」を収集・管理・活用し、単なる記録ではなく組織の成長を支える資産として活用することができる。具体的に言えば、採用計画、人員配置、研修効果の測定などを容易に行うことができる。

AIエンジニア30%増員でNo.1のシステムへ

 同社は統合型人事システムとしてNo.1を目指すとしており、2年後のARR(年間経常収益)200億円達成が大きなマイルストーンになる。では、具体的にどんな施策を打つのか。冨永CEOは戦略として「プロダクト」「エコシステム」「組織強化」の3つを挙げた。

 具体的には、プロダクトはAI時代に合わせた統合対応の進化、エコシステムは販売パートナーへの注力やユーザーコミュニティの発足、組織強化はカスタマーサクセスの強化と開発体制の強化だという。SaaSは毎月継続的に使ってもらってこそ利用価値がわかるものだが、そのためにもユーザーコミュニティが必要だということだ。そして、開発強化のために、AI対応のエンジニアを30%増員するとしている。

 AIというと昨今は「生成AI」が大きな話題だが、「AIエージェント」も花開こうとしている。これは、ユーザーからの継続的な指示なしに、目標達成に必要な行動を自ら判断・実行する自律性が特長だ。そして、時を同じくしてMCP (Model Context Protocol)というテクノロジーも出てきている。生成AIと外部のデータソースやツールを連携させるためのオープンな標準規格で、AIエージェントが多様な外部ツールを簡単かつ効率的に利用できるようにするものだ。

 システムがAI化されても、そもそもデータベースが正しくなければ何の意味もないわけだが、同社の人事システムは正確さが担保されているため、3つのAI技術が統合されたときには革新的な変化が生まれると期待される。冨永CEOは「ジンジャーはその世界に向けて準備万端であり、当社はAI-Readyな人事データベース」と強調する。

AIによって実現できる未来いろいろ

 AIによって人事関連の何がどう変わるのか、もう少し具体的に紹介する。

 採用が決定した瞬間にAIが起動すれば、本人のスマホには必要な情報が届き、簡単に雇用契約が締結できる。入力された情報は人事データベースに登録され、社会保険の手続きなども準備される。入社後の備品やPCなども手配されるし、関係部署に通達される。入社後もAIが従業員を継続的にサポートし、eラーニングの受講も適切なタイミングで勧める。

 経営側には人員の過不足をリアルタイムで可視化され、勘と経験に頼っていた人員配置がデータに基づいたものへと修正される。後任候補についてもAIが全従業員のスキルや実績を基に最適な候補者を複数ピックアップする。客観的で公平な人員配置が実現する――。

 人事向けポータルサイト「日本の人事部」発表の調査によれば、すでに約7割の人事担当者が生成AIを活用しているという。しかし、それは議事録や会議内容の要約といったレベルで、主に業務の効率化を図っているに過ぎない。「ジンジャー」が上に挙げたようなAI活用の未来を実現できるかどうか、注目していきたい。

(文=横山渉/フリージャーナリスト)

人事データは「バラバラ」でいい?急成長HRテック市場で200億円を目指す統合型システムの画像3
jinjer新経営陣

横山渉/フリージャーナリスト

横山渉/フリージャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。